表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

100度、殺してください。(語り:〇〇)

〇〇の館へようこそ。

初めましての人も、そうでない人も。読み聞かせの時間ですよ。

今回は、夢に関するお話です。

夢。色々な形がありますが、彼女が見ていたものは……。

それでは、ご堪能ください。

老婆が居ます。

お寺の前に佇みながら、彼女は、ぶるぶる震えていました。

「どうか、どうか!天人様!私を……ひゃ、100度殺してくださいっ、どうか……」

彼女は、そう叫びながら手を合わせます。

何故、100度も?何故、殺してなどと?

そう感じた方も居るでしょう。

実は、彼女。生まれ変わる度に、殺人を犯してきたのです。

前世では、20人余りの人を殺し。そのまた前世では、30人もの人を殺しました。

そして、次第に。計100ともなる数が、彼女の背中に乗っかったのです。


ですから、憑いている怨念も、相当な数。怨念達は、互いに顔を見合わせて。

こんな相談を、していました。


「なあ、おい。こんな形じゃ、俺らの死は報われないぜ」

「ああ、本当にその通りだ」

「そうだわ!思いついた!天人様へ、こう持ち掛けるのはどう?」


などと話しながら、恐ろしい計画を、練っていったのです。


まずは、老婆をそのまま、生まれ変わらせる。次に、平々凡々と彼女を生かせて。

ある日、息を呑む暇も与えずに。

「お前は、前世で人を殺した!極悪人だ!」

と、100人余りで罵ろう。

待っている先は、どう足掻いても地獄。

死んだら彼女は、まずは拷問に掛けられる。手足を引き裂かれ、目を抉られて。

八大地獄の名の元に、その身を焼かれることになろう。

もちろん、生きている間とて、決して幸せなど与えない。

そんな渦中に、閉じ込めてしまおうと。

彼らは掛け合い、天人様へ頼み込んだのです。


天人様は、老婆の所業に、いっそう憤っておりました。

何故ならば、彼女のもたらした被害は、あの世ですらも巻き込んでいて。手を変え、品を変え。暴挙を振るう老婆は、あまりに醜悪だったからです。


「……分かりました。では、こうすることに致しましょう」


と、天人様は切り出します。

彼女は、こう宣いました。


復讐のため、平和のため。老婆を、悪夢へ誘いましょう。彼女を、現世へ舞い戻すことは、許されません。

しかし、夢の中でなら、彼女は生まれ変わることができる。それこそ、幾度も、幾度も。

そのために計画を練りましょう。

何年も、何十年も。

もちろんその間、彼女を逃してはなりません。

衆人環視で、彼女を見張り。

或いは、牢へと閉じ込めて。彼女を、永遠の囚人とするのです。


天人様達が練った計画は、実に周到なものでした。

老婆を閉じ込める部屋を、神様の力で用意して。その渦中に、彼女を座らせる。

そして、真っ赤な眠り香を、彼女に嗅がせてやろう。という、内容。

その眠り香は、悪夢の雄叫びを取り込んだ、特別製。獏の力で祓わないと、決して解けない、強い呪いです。


さて。仕上がった悪夢の渦中に居て。老婆は大いに、怯えているのでした。

当然ですよね。誰だって、死んだ先が地獄だと判れば。それが確定していれば。

冷静さなど、どこかへ飛んでしまいます。


そして、憐れにもこう考えたのです。


そうだわ……!私がもし100度死ねば、天人様も、被害者も、私を赦すかもしれない!


100度死ぬ。それは即ち、己が宝を、100度も支払うということでした。

けれど、彼女は思うのです。

永遠の拷問に、掛けられるよりも。限りある刑罰の方が、よほどマシだと。


であればこそ、大声で頼み込む彼女に対して。天人様も、被害者も、その遺族も。

総ての声が、黙り込みました。

しぃん……と、静まり返った後。彼女の耳元で、誰もがせせら嘲笑います。


「言った!言った!ついに言った!」

「ああ、なんて浅はかな女!もう取り消せないわよ!?」

「こらぁ面白い!見物じゃあ!」


ゲラゲラ、ゲラゲラ。

連なる声が、大地を穿つ魔物の如く。

彼女へと、襲い掛かりました。

さあ、もはや逃げられない。何と、滑稽な話でしょうか。

彼女は、自分で自分の首を、締めたのです。だって、彼女に、自ら100度も死ぬ勇気などない。

誰の目から見ても、それは明らか。


天人様は息を吐いて、静かに。

とある袋を、取り出しました。

「そうですか。ならばこちらを飲みなさい」

などと、言いながら。老婆の掌中に、その袋を押し付けたのです。

中には、沢山の薬が入っていました。

小分けにされて、大切にしまわれています。

「死ぬための薬だよ!」

怨念達は、無念が晴らせると言わんばかりに。一層激しく、はしゃぎました。

そしてその日から、老婆の更なる地獄が、始まったのです。


幾度も、幾度も。老婆は、薬を飲まされました。有無を言わさず、淡々と。

やはり抵抗しましたが……。

それでも、怨念達は手を止めず。飲め!飲め!飲め!と、彼女を急かすのです。


薬を飲むと、妙な心地がしました。

体がビリビリ、灼けるように痒いのです。

それに、喉は渇くし、肩も重くなる。

一日中眠気がして、歩くことも、ままならない。

しかし、どうしたことでしょう。

一向に、死ねないのです。

泣けど、もがけど、苦しめど。


声達は、彼女にこう吐き捨てました。

「そう簡単に殺してたまるか!しばらくは、死の恐怖を味わってろ」

「もしかしたら、今日かもしれんぞ!お前が死ぬのは!」

という怒号が、辺りに響くたび。

老婆は震えて、縮こまります。布団の中で、1歩も動けず、夜を明かしました。


そして、幾度、薬を飲み続けたでしょう。

幾度、悪夢の中で魘されたでしょう。


彼女の体に、変化が現れました。

鏡で見える己の顔から、シワが、徐々に消えてゆく。手足についたシミは、ぼうっと霞んで、沈んでゆく。

まるで、幽霊になるかのような心地。

いよいよもって、ダメか。なんて思い、彼女は目を伏せます。


そこに、天人様の声がしました。

「聞こえますか。良いですか。毎日欠かさず、この薬を飲むのですよ」

などと言われたので、彼女はもはや、考えることもできないままに。

はい、と一言呟きました。

とうとう、抗う気力も失ったのです。

そしてただ、カラクリのごとく。

出される薬を、飲み続けました。


そして、飲み続けて。

幾重もの月日が経ちました。

「……もう、大丈夫そうですね」

という言葉が、老婆の耳に届きました。

老婆——いいえ。うら若い娘は、ぼうっとした目のまま。

相手に、こう問いました。

「……天人様。私は、ずっと、夢を見ていたのですか?」

その声を聞いて、相手はとても冷静に。彼女を、優しく諭します。

「いいえ。私は、天人様ではありません。私は、あなたの医者ですよ」

と言った彼女の言葉に、()()()()()()()()()()

そう。彼女は、天人様ではなく。娘を見守る、お医者様なのでした。

娘がお寺だと思っていた場所は、よく見ると、どこもかしこも真っ白で。漂っているのは、鄙びた木の匂いではなく。清潔で明るい、空気でした。

死ぬための薬。そう思いながら受け取っていたものは。彼女の心を鎮めるための、薬だったのです。

「あなたが見ていたのは、夢ではありません。病が見せた、幻です」

お医者様はそう答え、彼女に微笑みかけました。

娘は、その言葉を聞いたきり。納得のいかない想いで、俯きます。

でも……じゃあ、あれは、まやかしだったというの?とてもそうは思えない。だって、あんなに生々しくて……。

そう。確かに彼女は、味わったのです。嘘、偽り、言葉の綾。そんなものでは説明のつかない、幻の魔力を。

であればこそ、彼女は躊躇いがちに、反芻するのでした。

自分のこと、家族のこと。記憶はもうズタズタで。

ゆっくり思い出していきましょう。なんて言われたけれど、受け入れられる気がしない。

お医者様は、そんな娘を見て、こう口添えます。

「あなたは何も、悪くない。恐い人でも、

殺人鬼でもありませんよ」

彼女の瞳に、老婆の影はありません。ただ、虚ろな目をして俯く病人。その姿が、佇むばかりです。

彼女は、その日の最後にこう締めました。

「本当に恐いのは、あなたではない。幻でもない。あなたへ、幻の種を撒いた……。加害者達です」

誰しもが、悪しき幻を飼っているもの。

その幻を、飼い殺すのか。誰かに与えてしまうのか。

選択は、あなた次第です。後悔がないと良いですね。


さて。今回は、ここまでです。

良い夢を、見られますように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ