第八話:泥に咲くのは、絶望の花
王都の広場は、未だかつてない騒動に包まれていた。 ドロドロの泥水が溢れる噴水の真上に、突如として空間の裂け目が生じ、そこから「何か」が勢いよく吐き出されたのだ。
「ぎゃあああああああ!」
「お顔が! わたくしの、お顔がああああ!」
凄まじい水音と共に泥の深淵へダイブしたのは、高貴なはずのカイル王子と、新聖女のミラであった。 慌てて駆け寄った民衆と兵士たちが見たのは、泥にまみれ、異臭を放ち、見る影もなくなり果てた二人の姿だ。
「おい……あれ、カイル王子じゃないか?」
「隣の女は……新しい聖女様か? なんてザマだ。エルナ様を追い出してから、ろくなことがない」
冷ややかな視線が、雨のように二人に降り注ぐ。 カイルは泥を吐き出しながら、必死に虚勢を張った。
「見、見るな! 早く俺を助けろ! エルナは……エルナは、化け物に唆されて、俺を裏切ったんだ!」
だが、その時。 カイルが握りしめていた「聖騎士の剣」が、パキリ、と音を立てて砕け散った。
剣に宿っていた光の魔力が、目に見えるほどの美しい粒子となって空へ舞い上がり、そのまま「世界樹の森」の方角へと吸い込まれていく。 まるで、主を捨てたこの国に、もはや一切の未練はないと告げるかのように。
「……あ……」
剣はただの錆びた鉄くずとなり、カイルの手から滑り落ちた。 それと同時に、ミラも絶叫する。
「嫌ぁぁ! 髪が、わたくしの髪が全部抜けていくわぁぁぁ!」
聖女としての力を偽り、エルナの座を奪おうとしたミラへの報いか。彼女の魔力は完全に枯渇し、若さという化けの皮が剥がれ落ちていく。
カイルは王位継承権を剥奪され、ミラは修道院への永久追放が決定した。
彼らが望んだ「エルナのいない輝かしい未来」は、自ら招いた泥沼の中に沈み、二度と浮かび上がることはなかった。




