第七話:邪魔者は、土に還れ
唇が離れる。 その瞬間、エルナの瞳には潤んだ羞恥が宿り、セフィロスの瞳には……カイルが今まで一度も見たことのないような、暗く淀んだ「絶対的な殺意」が宿った。
「お、おいエルナ! 今すぐ俺の元へ戻れ! その化け物から離れるんだ!」
カイルが喚き散らしながら、エルナから預かっていた「聖騎士の剣」を抜く。 だが、セフィロスは立ち上がりもせず、ただエルナの細い腰をしっかりと抱き寄せたまま、氷のような視線をカイルへと向けた。
「……私の至福を、塵が汚したな」
その声が響いた瞬間、部屋の温度が氷点下まで急降下した。 セフィロスが指をパチンと鳴らす。
「あ、あ、ああ……っ!?」
カイルが手にしていた「聖騎士の剣」が、突如として持ち主に牙を剥いた。 剣に宿っていたエルナの魔力が、セフィロスの怒りに呼応し、カイルの手の平を焼くほどの高熱を発したのだ。
「熱い! なんだ、この剣は! 呪われているのか!?」
「呪いではない。主を害そうとする不浄な者に、その力が貸されるはずがないだろう。……それは、ただの鉄の塊に戻っただけだ。君たちの国と同じようにね」
セフィロスは冷酷に言い放つ。 そこへ、空気を読まないミラが、裾の破れたドレスを翻してセフィロスの前に躍り出た。
「精霊様! そんなおブスな元聖女なんて放っておいて、わたくしをご覧になって! わたくしなら、あなたの隣に立つのに相応しい美貌と、それから――」
ミラがセフィロスの銀髪に触れようと手を伸ばした、その時。
「……汚らわしい。その手を、私に向けないでくれるかな?」
セフィロスの言葉と共に、ミラの足元の床から、漆黒の茨が爆発的に突き出した。 茨はミラの腕を絡め取り、彼女が着ていた豪華なドレスをズタズタに切り裂き、そのまま「ミノムシ」のように彼女を吊り上げた。
「ひゃあぁぁぁぁ! 何よこれ! 離して、離してぇぇ!」
「セフィロス様……あの、あまり酷いことは……」
エルナが不安げにセフィロスの衣を掴む。 すると、先ほどまで死神のようだったセフィロスの表情が、一瞬で「困ったような、甘えた顔」に一変した。
「ああ、ごめんねエルナ。怖がらせるつもりはなかったんだ。でも、彼らは君を傷つけた。精霊である私の理性が、君を汚した者たちを許すなと叫んでいるんだよ……。……いいだろう。命までは取らない。ただ、相応しい場所へ帰ってもらうだけだ」
セフィロスは再び指を鳴らす。 すると、カイルとミラの足元に、巨大な**「底なしの泥沼」**が出現した。
「な、なんだこれは!? 体が沈んで……うわあああ!」
「王子! 助けて! 泥が、わたくしの顔にぃぃ!」
二人は、彼らがかつてエルナに押し付けた「王都の汚れ」そのもののような泥の中に、ズルズルと引きずり込まれていく。
「……エルナを捨て、彼女の祈りを踏みにじった君たちには、その濁った泥こそがお似合いだ。一生、自分たちの愚かさを反省しながら、その泥の中で喘いでいるがいい」
セフィロスが手を一振りすると、カイルとミラは「空間の歪み」に吸い込まれ、そのまま王都の、あのドロドロに濁った噴水の真上へと転送された。
◇◇◇
静寂が戻った室内。 セフィロスは、満足げにエルナを再び抱きしめ、彼女の首筋に鼻を寄せた。
「……やっと、静かになったね。さっきの続きをしようか、エルナ」
「え、あ……あの……。セフィロス様、さっきの『魔力供給』は、もう大丈夫なんじゃ……?」
「いいや。中断されたせいで、かえって悪化したみたいだ。ほら、私の心臓がこんなに……君を求めて、速くなっているだろう?」
セフィロスは、エルナの手を自分の胸へと導く。 そこには、ドクドクと、狂おしいほどの情熱を刻む鼓動があった。 (※実際はエルナへの興奮で速いだけなのだが、彼はそれを「病状」だと言い張るつもりだ)
「……さあ、愛し子。もっと深く、私を癒やしておくれ」
セフィロスは、抵抗を忘れたエルナの唇へと、今度は邪魔の入らない、深すぎる愛撫を仕掛けていった。




