第五話:不敬な羽虫と、精霊様の極上なおねだり
1:残念すぎるカイルの「騎士道」
「ふははは! 見ろ、この聖なる輝きを! 精霊ごときがこの剣の前に跪く様が目に浮かぶぞ!」
森の入り口で、カイルはエルナがかつて魔力を込めた「聖騎士の剣」を掲げ、高笑いしていた。 しかし、現実は非情だった。
「――っ、何なんだ、この茨は! どけ! 俺を誰だと思っている、この国の王太子カイル・ド・ラ・ヴァリエールだぞ!」
森の入り口では、滑稽な劇が繰り広げられていた。 カイル王子がエルナの魔力が宿る「聖騎士の剣」を振り回すたびに、茨の鞭が彼を嘲笑うようにしなり、高価な特注鎧をミシミシと締め上げる。
「王子、もう無理ですわ! お化粧もボロボロ、お肌もガサガサ……こんなの聖女の仕事じゃありませんわ!」
泥まみれのミラが喚き散らすが、カイルは聞く耳を持たない。
「黙れ! エルナさえ、あの道具さえ連れ戻せば、すべて元通りなんだ!」
そんな低俗な叫びは、森の主であるセフィロスの耳には、不快な雑音として克明に響いていた。
2:聖域・甘い毒、あるいは執着の檻
(……あの羽虫ども、まだあがいているのか。汚らわしい)
暖炉の火が爆ぜる静かな室内。 セフィロスの黄金の瞳が、一瞬だけ底冷えするような殺意を帯びた。 自分の「最推し」を道具扱いし、今また土足で彼女の安息を乱そうとする無知な人間たち。 今すぐに森の理を捻じ曲げ、彼らの存在そのものを根こそぎ消去してやりたい衝動に駆られるが、セフィロスはそれを優雅な微笑みの下に押し込めた。
(いけないな。あんな塵どものために、私のエルナとの時間を一秒たりとも無駄にするわけにはいかない)
だが、一度昂ぶった独占欲と苛立ちは、彼の中でどろりとした情熱に変換されていく。 セフィロスは、ソファで不思議そうに自分を見上げていたエルナへと視線を戻した。
「……セフィロス様? 急に顔が怖くなりましたけれど、どうかされましたか?」
「……ああ、ごめんね、エルナ。少しだけ、悪い夢を視てしまったようだ」
セフィロスは、吐息が触れるほどの距離まで一気に詰めると、エルナをひょいと抱き上げ、自分の膝の上に座らせた。
「ひゃっ!? セ、セフィロス様……っ!?」
「エルナ、困ったよ。……君にひどいことをした奴らの気配が、風に乗って届いてしまった。そのせいで、私の魔力が……胸の奥が、こんなに熱くて苦しいんだ」
嘘ではない。ただし、その「苦しさ」の正体は、彼女を今すぐ押し倒して、誰の手も届かない場所へ連れ去りたいという飢餓感だ。 セフィロスはエルナの細い腰に腕を回し、逃げられないように密着させると、彼女の首筋に深く顔を埋めた。
「せ、セフィロス様、お顔が近すぎ……んっ」
「……静かに。こうして君の体温を直接吸い上げていないと、私は……精霊としての理性を保てそうにないんだ。ねえ、エルナ。君は私のものだよね? あの愚か者たちの元へ、二度と戻ったりしないよね?」
セフィロスの唇が、エルナの柔らかな肌をなぞり、耳たぶを優しく、けれど逃がさないという執念を込めて甘噛みする。
(ああ、いい匂いだ。このまま吸い尽くしてしまいたい。君の肌に、私の牙を立てて、一生消えない印を刻んでやりたい……!)
「も、もちろんです! 私はセフィロス様とここにいます! だから……そんなに、強く抱きしめなくても……」
「……足りない。まだ、足りないよ、エルナ」
セフィロスは、困惑するエルナの反応を「承諾」と勝手に解釈し、さらに深く、彼女の衣の内側へとしなやかな指先を滑り込ませた。 外面は「傷ついた精霊」を演じながら、その内側では、かつてないほどの情欲が1000%を超えて荒れ狂っている。
「今夜は、君を離さないよ。……君が、私を癒やす役目なんだから」
聖者のような微笑みを湛えたまま、セフィロスの瞳には、獲物を追い詰めた獣のような恍惚とした光が宿っていた。




