第十八話:光降る聖域、永遠の戴冠式
世界樹の麓、精霊国の中心地に設えられた祭壇は、世界中の「感謝の念」が結晶化したかのような、神々しい光に満ちていた。
「……信じられない。あのエルナ様が、これほど立派に……」
招待客の最前列には、エルナが救った「北の帝国」の若き公爵をはじめ、十数カ国の王族たちが正装で並んでいた。彼らは自国の存亡を救ってくれたエルナへの恩を返すため、国宝級の献上物を携え、王自らが護衛も最小限に駆けつけたのだった。
「……おい、精霊王の視線が痛いぞ」 「ああ、『一目でもエルナを不埒な目で見たら、その場で国ごと消す』という圧を感じるな……」
王族たちは、祭壇の横で不機嫌そうに、しかし完璧な美貌で立っているセフィロスに怯えつつも、視線を離せなかった。
そして――。
精霊たちが奏でるハープの音色と共に、主役が登場しました。 光の糸で編まれたドレスは、エルナが動くたびに七色に輝き、彼女の少し尖った妖精耳には、精霊たちが贈った「万年雪の真珠」が揺れている。
「――っ」
セフィロスは、息を呑んだ。 毎日見ているはずなのに、今日のエルナは、自分の想像の枠を軽々と超えて美しかった。
エルナがセフィロスの隣に立ち、そっとその手を取る。
※この先に挿絵があります)
「セフィ様。……凄いです、こんなにたくさんの方が、お祝いに来てくださるなんて」
「……本当なら、全員ポータルで元の国に追い返してやりたいところだがね。……でも、君がそれを望むなら、今日だけは『王』として振る舞おう」
セフィロスはエルナの耳元でそう囁くと、集まった王族や精霊たちに向き直った。
「皆に告げる。……この女性こそが、私の魂の片割れ。世界を癒やし、私という傲慢な精霊に『愛』という呪いをかけた、唯一無二の伴侶だ」
セフィロスはそう言うと、エルナの腰を引き寄せ、招待客たちの前で、深く、深い誓いのキスを交わした。 公爵が思わず感極まって拍手をし、精霊たちが花吹雪を降らせ、聖域は歓喜の渦に包まる。
「……さあ、エルナ。儀式はこれで終わりだ」
「えっ、でも、これから披露宴が――」
「そんなものは無い。君のこの姿を、これ以上他人に視せるわけにはいかないからね」
セフィロスは、まだ拍手を送っている王族たちを「はい、解散」と言わんばかりの冷たい一瞥で制すと、エルナをひょいとお姫様抱っこして、光の粒子と共に自分たちの寝室(聖域の奥深き場所)へと転送されてしまった。
「せ、セフィ様!? まだ皆さんが……!」
「いいんだ。私の我慢は、もう限界を超えている。……今日から君は、名実ともに私の奥様なんだから。……誰にも邪魔させない、甘い夜を始めようか」
ここは、聖域の最奥――二人以外は誰も立ち入れない、世界樹の心臓部にある寝室だった。
「……セフィ様。皆さんに挨拶もせず、あんなに急いで……」
「我慢の限界だと言っただろう、エルナ。……今日の君は、あまりにも美しすぎた。皆の視線が君に触れるたび、私の胸がどれほど苛立ち、君を隠したくて仕方がなかったか」
セフィロスは、月明かりの差し込むベッドにエルナを優しく横たえた。 光の糸で編まれたドレスが、彼の指先によって一つ、また一つと解かれていく。
「あ、ん……っ」
魂が触れ合うような、深い接吻。 セフィロスの魔力が、エルナの体内へと熱い奔流となって流れ込む。それは単なる快楽ではなく、エルナを人間という儚い器から解き放ち、自分と同じ「永遠」を生きる精霊へと完全に同化させるための、神聖な融合だった。
「エルナ、私の愛し子……。君の魂の底まで、私の色で染め上げてあげよう。二度と、私なしでは生きていけないように」
羞恥に震えながらも、エルナはセフィロスの背中に手を回し、自分からも彼を求めた。
「私も、セフィ様の一部になりたい……っ。ずっと、ずっと一緒に……!」
世界樹が二人の昂ぶりに応えるように黄金の輝きを増し、一夜にしてエルナの魔力はセフィロスのそれと溶け合い、分かちがたい「一つの命」となったのだった。




