おつまみ三銃士
金曜の夜。
一週間の疲れを流すようにジョッキを掲げる男たちがいる。
彼らの名は――健司、武、優斗。
特に偉業を成し遂げるわけでもなく、特別な事件が起こるわけでもない。
けれど、居酒屋の片隅で繰り広げられる“どうでもいい会話”には、なぜか人を笑わせる力がある。
枝豆をつまみながら語るくだらない話。
冷やっこを前にして飛び出す、寒すぎるオヤジギャグ。
笑って、ツッコんで、飲んで、また笑って――気づけば終電が近い。
そんな一瞬を切り取った、ささやかな“おつまみ文学”。
この物語は、笑いとビールの泡でできています。
金曜の夜。
会社帰りの三人が、いつもの焼き鳥屋の暖簾をくぐる。
「乾杯ーっ!!」
ジョッキがぶつかり、泡が弾けた。
健司が満面の笑みで言う。
「いやぁ、一週間頑張ったご褒美は、やっぱこれだよな!」
「お前、先週“もう飲まない”って言ってたじゃん」
武が呆れた顔で返す。
「“飲まない”とは言ったけど、“飲みたくない”とは言ってない!」
「どっちも結果同じだろ!」
優斗が苦笑しながら枝豆を差し出す。
「ほら、まずは枝豆でもどうぞ」
健司はパクッと食べて、満足そうに頷いた。
「うーん、枝豆は“絵になる豆”だな!」
「出たよオヤジギャグ」
武がすかさずツッコむ。
「これが俺の“エダマメンタル”だ!」
「豆のメンタルってなんだよ!」
「緑色の精神力ってことだ!」
「意味不明だわ!」
テーブルに笑いが広がる。
飲み会が始まってまだ十五分、すでに三人のテンションは最高潮だった。
「お待たせしました〜、冷やっこです!」
店員が豆腐を置くと、健司がまたも真顔で見つめ始めた。
「冷やっこ……冷たいのに、なんか優しいな。まるで俺の元カノみたいだ」
「重たいポエムやめろ」
「俺、豆腐系男子だからさ」
「いや、お前“崩れ豆腐”だよ」
「賞味期限ギリギリね」
「おい!まだ“熟成中”だわ!」
「ただの劣化!」
笑いながらビールを流し込み、次の皿が届く。
焼き鳥だ。
「お、焼き鳥きた!やっぱりこれが主役だな!」
健司は嬉々としてモモ串を掲げた。
「見ろよこの焼き加減、完璧じゃねぇか。まさに“ももいろクローバー”だ!」
「……」
「焼き鳥界のアイドルだろ!」
「説明すんな!寒さ倍増だ!」
優斗が慌てて話題を変える。
「ほらポテサラきましたよ!」
「おおっ、ポテサラ! 白くてふわふわ、ポテサラ界の白雪姫!」
「またアイドル化してる……」
「ポテサラと俺が出会ったのは運命なんだ……キスして――」
「やめろぉぉぉぉぉ!!!」
二人の制止もむなしく、ジョッキが倒れてビールがこぼれた。
「うわっ、机ビショビショ!」
「大丈夫!ビールは俺の涙で薄めとく!」
「気持ち悪い調整すんな!」
店員がちらりとこちらを見て、
「……お静かにお願いします」
三人は即座にそろって頭を下げた。
「すみません!」
少し間が空いたあと、健司がぽつりと呟いた。
「なあ……思うんだ」
「ん?」
「このテーブルの上のやつら、みんな友達みたいだな」
「急に詩人?」
「枝豆は相棒、焼き鳥は情熱、ポテサラは癒やし。そして冷やっこは……俺の心だ!」
「意味わからん!」
「お前の心、冷えすぎだろ!」
健司は立ち上がり、ジョッキを掲げた。
「つまり俺たちは――おつまみ三銃士!!」
「出た、タイトル回収!」
「根拠どこだよ!」
「ひとりは塩!ひとりはタレ!ひとりはマヨネーズ!――合わせて“味の三重奏”だ!!」
「うまく言おうとして爆死してる!!」
店のあちこちから笑いと拍手。
武が額を押さえてため息をつく。
「……もう帰ろう」
「いいね。次は静かな店行こう」
「次回、“ギョーザ編”で!」
「もういい!!」
店内の笑い声が、今夜もやさしく響いた。
END
おつまみは語らない。
でも、黙って人を笑顔にしてくれる。
たぶん、オヤジギャグも同じなのかもしれない――ほんの少しだけ迷惑だけど。




