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おつまみ三銃士

掲載日:2025/10/27

金曜の夜。

一週間の疲れを流すようにジョッキを掲げる男たちがいる。

彼らの名は――健司、武、優斗。

特に偉業を成し遂げるわけでもなく、特別な事件が起こるわけでもない。

けれど、居酒屋の片隅で繰り広げられる“どうでもいい会話”には、なぜか人を笑わせる力がある。


枝豆をつまみながら語るくだらない話。

冷やっこを前にして飛び出す、寒すぎるオヤジギャグ。

笑って、ツッコんで、飲んで、また笑って――気づけば終電が近い。


そんな一瞬を切り取った、ささやかな“おつまみ文学”。

この物語は、笑いとビールの泡でできています。

金曜の夜。

会社帰りの三人が、いつもの焼き鳥屋の暖簾をくぐる。


「乾杯ーっ!!」

ジョッキがぶつかり、泡が弾けた。


健司が満面の笑みで言う。

「いやぁ、一週間頑張ったご褒美は、やっぱこれだよな!」

「お前、先週“もう飲まない”って言ってたじゃん」

武が呆れた顔で返す。

「“飲まない”とは言ったけど、“飲みたくない”とは言ってない!」

「どっちも結果同じだろ!」


優斗が苦笑しながら枝豆を差し出す。

「ほら、まずは枝豆でもどうぞ」

健司はパクッと食べて、満足そうに頷いた。


「うーん、枝豆は“絵になる豆”だな!」

「出たよオヤジギャグ」

武がすかさずツッコむ。

「これが俺の“エダマメンタル”だ!」

「豆のメンタルってなんだよ!」

「緑色の精神力ってことだ!」

「意味不明だわ!」


テーブルに笑いが広がる。

飲み会が始まってまだ十五分、すでに三人のテンションは最高潮だった。


「お待たせしました〜、冷やっこです!」

店員が豆腐を置くと、健司がまたも真顔で見つめ始めた。


「冷やっこ……冷たいのに、なんか優しいな。まるで俺の元カノみたいだ」

「重たいポエムやめろ」

「俺、豆腐系男子だからさ」

「いや、お前“崩れ豆腐”だよ」

「賞味期限ギリギリね」

「おい!まだ“熟成中”だわ!」

「ただの劣化!」


笑いながらビールを流し込み、次の皿が届く。

焼き鳥だ。


「お、焼き鳥きた!やっぱりこれが主役だな!」

健司は嬉々としてモモ串を掲げた。

「見ろよこの焼き加減、完璧じゃねぇか。まさに“ももいろクローバー”だ!」

「……」

「焼き鳥界のアイドルだろ!」

「説明すんな!寒さ倍増だ!」


優斗が慌てて話題を変える。

「ほらポテサラきましたよ!」

「おおっ、ポテサラ! 白くてふわふわ、ポテサラ界の白雪姫!」

「またアイドル化してる……」

「ポテサラと俺が出会ったのは運命なんだ……キスして――」

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

二人の制止もむなしく、ジョッキが倒れてビールがこぼれた。


「うわっ、机ビショビショ!」

「大丈夫!ビールは俺の涙で薄めとく!」

「気持ち悪い調整すんな!」


店員がちらりとこちらを見て、

「……お静かにお願いします」

三人は即座にそろって頭を下げた。

「すみません!」


少し間が空いたあと、健司がぽつりと呟いた。


「なあ……思うんだ」

「ん?」

「このテーブルの上のやつら、みんな友達みたいだな」

「急に詩人?」

「枝豆は相棒、焼き鳥は情熱、ポテサラは癒やし。そして冷やっこは……俺の心だ!」

「意味わからん!」

「お前の心、冷えすぎだろ!」


健司は立ち上がり、ジョッキを掲げた。


「つまり俺たちは――おつまみ三銃士!!」

「出た、タイトル回収!」

「根拠どこだよ!」

「ひとりは塩!ひとりはタレ!ひとりはマヨネーズ!――合わせて“味の三重奏”だ!!」

「うまく言おうとして爆死してる!!」


店のあちこちから笑いと拍手。

武が額を押さえてため息をつく。


「……もう帰ろう」

「いいね。次は静かな店行こう」

「次回、“ギョーザ編”で!」

「もういい!!」


店内の笑い声が、今夜もやさしく響いた。


END

おつまみは語らない。

でも、黙って人を笑顔にしてくれる。

たぶん、オヤジギャグも同じなのかもしれない――ほんの少しだけ迷惑だけど。

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