氷の靴
あったことか、なかったことか、ある国の王女に、シンデレラというかわいらしい女の子がいました。シンデレラには二人の妹がいました。
ある日、シンデレラは両親の留守を預かることになりました。その夜のことです。
「シンデレラ、シンデレラ、ここを開けておくれ」
外からシンデレラを呼ぶ声がしました。シンデレラは、窓を開けます。するとそこには白い鴉が佇んでいました。
「シンデレラ、今日は寒い。一晩泊めてくれないか」
シンデレラは、もちろん、と頷きました。
白い鴉は、その晩だけシンデレラの城に泊まり、次の日の朝に飛び立っていきました。
シンデレラは、もう二度と会うこともないと思っていましたが、その三日後に、白い鴉がやってきて、シンデレラにこう言いました。
「シンデレラ、先の時はお世話になった。ぜひ、お礼をさせて下さい」
シンデレラは、鴉なんかに何が出来るのかと思って、聞いてみました。
「私は、あなたと旅に出ることが出来る。あなたは、外の世界を見てみたくはありませんか」
白い鴉は、言葉巧みにシンデレラを誘います。実はこの時、シンデレラと隣国との王子の結婚が決まっていました。シンデレラは、本当は結婚するのが嫌でした。そしてついに、シンデレラは、結婚するのが少しでも送れるようにと頷いてしまいました。
「シンデレラ、私はあなたに言っていかねばならないことがある。私は、旅に戻ってから、あなたを三度怒らせるだろう。それを許して欲しい」
シンデレラは、旅に出たくて仕方がないので、こくこくと頷きました。
そうして、シンデレラと白い鴉は旅に出ました。初めは春の丘に行き、蜂蜜の海を渡り、小川を七百超えました。
その時白い鴉は、ヒバリの声を聞きました。
「シンデレラの結婚式で、シンデレラが始めに飲むワインには、燃えるような毒薬を、と、后がメイドに言っていたよ。でも、こんなことを言うやつは、足まで石になってしまうだろうね」
それから、大河を越え、真っ白な砂漠を越えたところにオアシスがありました。シンデレラと白い鴉は、数日そこに留まることにしました。
そこに来て三日目の夜、白い鴉はオウムのなく声を聞きました。
「シンデレラの履いている靴は、赤い月夜に照らされたら最後、燃えてしまうようにと、后が魔女に呪いを掛けさせたらしいね。でも、こんなことを言うやつは、胴が石になってしまうだろうね」
それからまた、大きな湖を渡って、山をいくつかこえて、花の咲いている町にたどり着きました。
シンデレラは、花が大好きなのでその町にまたしばらく留まることになりました。
二日目の夜、白い鴉はカナリヤの歌を聴きました。
「シンデレラの国は、もうすぐ終わってしまうだろうね。シンデレラの結婚式の三日後に西の国が攻めてくる。それでも王妃と二人の娘達は死なないだろうね。シンデレラは、王子と一緒に赤く染まるさ。でも、こんなことを言うやつは、頭の先まで石になってしまうだろうね」
それから、その国でシンデレラは、后のだした使いに見つかってしまいました。
あっという間に、シンデレラはもといた国に連れ戻されてしまいました。そして、待っていたと言わんばかりに、シンデレラと隣国の王子の結婚式が執り行われました。
その時に、シンデレラは白い鴉のことを、みんなに教えました。
「この白い鴉さんはね、私のことをよく助けてくれたの」
でも、その白い鴉がシンデレラを連れ出したことも一緒にばれてしまったので、みんなは白い鴉をあまりよく思いませんでした。
早々に式が進行していき、あっという間に終わってしまいました。そして、みんなで晩餐会を開いて、新しい夫婦のお披露目をしました。
シンデレラは、王子とワインで乾杯し、そのワインを飲もうとした時です。突然白い鴉が飛んできて、シンデレラのワイングラスをクチバシで突いて割ってしまいました。ワインは床へ流れ、瞬く間に燃え上がりました。
「まあ、鴉さん! なんてことをするの?」
シンデレラは、とても怒りました。でも白い鴉は言います。
「シンデレラ、あなたは私と旅に出る時に、三度の無礼を許してくれると言った。だからどうか、このことは許して欲しい」
シンデレラ達は、そのことを覚えていたので、仕方なく白い鴉を許しました。
それから、シンデレラは王子と結婚を祝うのに湖へ浮かべた船へ乗り込み、二日間そこでお祝いすることになりました。シンデレラは、あまり乗り気がしません出したが、后言いつけなので仕方なく船へ乗り込みました。その日の晩、シンデレラは、王子と沢山のことを話しました。シンデレラがした旅のこと、王子の国のこと、月夜が綺麗なこと。話はいつまでも尽きず、夜空が、白く霞むまで二人はずっと話していました。
その次の日の晩に、后はシンデレラにガラスの靴をプレゼントしました。シンデレラはとても喜びました。それはそれは、綺麗な靴でした。
シンデレラは、后に履いて見せて欲しいと頼まれたので、早速履いてみることにしました。でも、シンデレラがその靴を履こうとした時に、白い鴉が飛んできて、ガラスの靴を外へ投げ捨ててしまいました。途端に、湖が昼間のように明るくなり、ガラスの靴は燃えてしまいました。
「ああ、鴉さん、なんてこと?」
シンデレラと后は、白い鴉にとても怒りました。后は怒って船から出て行ってしまいました。
「シンデレラ、あなたは私と旅に出る時に、三度の無礼を許してくれると言った。だからどうか、このことは許して欲しい」
シンデレラは、まだこのことを覚えていたので、怒りを抑えて白い鴉を許しました。
次の日、シンデレラ達が城に戻ろうとした時、湖が船の周りだけ凍り付いているのを知りました。シンデレラ達は、城に戻れなくて大慌てです。
そんな中、白い鴉はシンデレラにプレゼントを渡しました。
「コレは、先日のお詫びです。受け取って」
それは、氷で出来た靴でした。シンデレラは、そんな物は履けないと言ってその靴を粉々にしてしまいました。それでも、白い鴉は何も言わずに、ただ見ていました。
船の周りの氷が溶ける頃には、シンデレラの結婚式から四日たっていました。
大急ぎで城に戻ったシンデレラはとても驚きました。そこは、辺り一面が真っ赤に染まっていたからです。その、真っ赤の中にシンデレラは王の姿を見つけました。でも、王はぴくりとも動きません。シンデレラは、二人の妹と、后を探しましたが、ついにその姿を見つけることは出来ませんでした。
シンデレラは、悲しみにくれて最後に后を見た湖に戻ってきました。その湖には、白い羽がたくさん浮かんでいました。シンデレラは、それを見て白い鴉を問い詰めました。
「どういうこと? もう我慢の限界よ! 今度という今度はもう許さないわ! どういうことか話してちょうだい!」
シンデレラは、白い鴉を怒鳴りつけました。白い鴉は、渋々といった感じで、ゆっくり話し始めました。
「シンデレラ、あなたが飲もうとしたワインには毒が入っていた。燃えるような劇薬が。だから私は、あのグラスを割ったんだ」
そこまで言うと、白い鴉は足まで石になりました。
「次に、あの靴を割ったのは、あの月夜に照らされたら燃えてしまう呪いがかかっていたからだ」
そこまで言うと、白い鴉は胴が石になりました。
ここまでくると、シンデレラも次のことを言ったらどうなるか分かって、必死に止めようとしました。
「止めて鴉さん! もういいわ、分かったから!」
それでも、白い鴉は続けました。
「ああ、シンデレラ。あなたが約束を守ってくれたなら……。最後に、船の周りを凍らせたのは、あなたが死なないためだ。西の国が、あなたの結婚式から三日目に攻めてきた。でも、それらは全て、后の差し金だ。后は今、西の国にいるよ。赤い道には、あの靴を履いて行くといい」
そこまで言うと、白い鴉の体全体が石になってしまいました。
シンデレラは、白い鴉が最後に見た湖の方を振り返った。その、湖の辺にはシンデレラが砕いてしまった、綺麗な氷の靴がありました。
シンデレラは、旅から連れ戻されてからしたほとんどの行動を、とても後悔しました。
それでもシンデレラは、石になってしまった白い鴉を抱き、氷の靴を履いて城に戻っていきました。
ラグさんは、話している間中ずっと、俺の背中を赤ん坊にやるように、ゆっくりトントンと叩いてくれていた。
おかげで俺はいつの間にか寝てしまっていた。