ご飯と裏切り
「あー、はいはい。お二人とも変人って言う同じ人種だからねー。ほらほら、そんなとこに立ってないで、さっさと、椅子に座るなり何なりして下さいっほら、お父さんはこっちです」
椅子を引いて、そこに座るように促す。
そのまま、棚からサンドイッチを取り出してテーブルに置く。
「はいどうぞ。それから、お父さん、ヴェルダンディー、コーヒと紅茶どっちが好き?」
「ラグさん、俺、紅茶がいいです」
なぜだか、ヴェルダンディーは笑顔て答えた。
「じゃあ、私も紅茶を」
「ん、分かった。あ、ヴェルダンディーも適当に座ってて」
ヴェルダンディーは、はい、と答えてお父さんの隣に座った。
僕は、二人が妙な話をし始めない内に、手早く紅茶を淹れて、持っていく。
「はい、どうぞ」
「お、ありがとう」
「いただきます」
そんなに時間が経っていないはずなのに、なんだか親しそうな二人。
そして、よく分からない疎外感。
そんな疎外感をあえて無視して、僕は父さんの隣に座った。
「どう?お父さん、それ美味しい?」
そう聞いた声も、なんだか随分遠い気がした。
「ああ、おいしいよ。上達したなぁ。父さん、感心したよ」
お父さんは笑顔で褒めてくれる。なんだろう、酷く懐かしい気がした。前にもあったな、こんな事……ってこれが噂のデジャヴってやつですか。
「あ、そううだ。忘れてないよね。店の掃除の手伝い」
何だかんだでとんずら、なんて許さないからね。
その後、店の手伝いをガッツリ手伝ってもらった。お父さんは、少し嫌そうな顔をしてたけど。
「そんじゃな、アリー」
「うん、ありがとうね」
店から出て行くお父さんに、軽く手を振って見送った。
「ふぅ」
急に酷く疲れを感じて、店に鍵をかけて、自分も家に戻った。
朝の日差しは、先程よりは幾分か柔らかくなっていた。
「あ、お疲れ様です」
家に入った途端、ヴェルダンディーと目があった。ヴェルダンディーは、玄関から中に入ろうとしているところで、どこかに外出したらしかった。
「あ、うん。どっかに行ってたの?」
「あ、着替えを取りに。それから、ラグさん。朝ご飯、買ってきました。食べてないでしょう?」
確かに、その場のノリでお父さんにあげてしまったが。
「え、でも……」
「もらって下さい。あ、それとも、買ってきたご飯、駄目な人ですか?俺作っても良かったんですけど、ラグさん、あんまり他人の作った物食べなさそうだなって、思って……機械が作ってそうな物にしました」
僕の前に出されたヴェルダンディーの手には、白い袋が握られている。確かに、他人の作った物はあまり食べられない。だからと言って、機械が作ってそうっていったい。
「駄目ですかね、やっぱり」
ヴェルダンディーが僕を、捨て犬が誰かにすがっているような目で見てくる。
「あ、いや、頂くよ」
「じゃ、今晩も泊めて下さいね」
やられた……。さっきの目は、子犬じゃなくて小悪魔だったのか。しかも、着替え取りに行くって行ってたし。どうして気づかないの僕。
「あはははっ、いや、家に帰ったら、未だに兄貴が怒ってて・・・ははは」
落ち込む僕に反してヴェルダンディーは、陽気だ。
「……はぁ。ま、いいよ。居たいだけいれば」
それだけ言って、部屋に入ってすぐに白い袋を漁ってみる。
中には、コンビニで買ってきたらしいサラダとドーナツ。確かにこれなら、人の手が使われていないかもしれない。
ベッドに腰掛けて、食べる。正直、これが美味しいのかどうなのか、よく分からなかった。が、一応朝食を買ってきたことに裏があったとしても、好意として受け取っておこう。そう、たとえ、サラダの容器に半額のシールが貼られていたとしても。
食べ終わって後片付けもそこそこに、目覚ましをお昼頃にセットする。もちろん寝るために。
僕は、久しぶりに人と沢山話して疲れていた。横になると、あっという間に夢の世界に引きずり込まれた。
珍しく、夢を見た。お父さんと、お母さんが出てきて、でもとても朧気で。僕は、お母さんに何か言われてるけど、何も言わなくて。お父さんには、何か、気付いてはいけないような、そんな何かを感じた。でも、夢を見たことしか思い出せない。
そんな夢を見たんだ。
「……ん……」
いきなり目が覚めた。目覚ましを見る。
6:30PM
「うわ……」
ちなみに、店の開店時間は午後七時から。
閉めっぱなしのカーテンから漏れてくる光は、昼間よりよほど弱々しい物に変わっている。というか、日光から街灯へと、光源そのものが変わっていた。
完全に寝過ごした。と言うか、裏切ったね、目覚まし。