第二章 悪役の自覚
王太子テオドールは改革派の若き指導者だった。
「貴族の特権を是正し、平民の才能を正当に評価する」──それが彼の理想。
その政策に最も反発したのがアルガの父、宰相グレイグ・セレステ・クラインだった。
「平民など下賤の者。王族の血筋こそが国家の基盤だ」と、議会で声高に叫ぶ。
アルガは父の言葉を盲信していた。
だがある日、彼女は偶然父と裏取引をしている商人たちの会話を耳にする。
「平民の土地を安く買い叩いて王都の開発利権を独占する……平民など良い道具だ」
──そしてその取引の影には、シャーロットの故郷の村の名前があった。
彼女は愕然とする。
父が「平民は下等だ」と言いながら、その平民を利用して富を築いている事実に。
「……私たちの特権は泥の上に建っているのか? 砂上の城ならぬ……泥上の城だ……と?」
その夜、アルガは初めて自分の立場に疑問を抱いた。
だがその疑問は、すぐに怒りに変わる。
「なら私は悪役になるしかない。この世界が身分で人を裁くのなら──私はその悪役を演じてやる。そしてこの歪んだ秩序を、憎悪の刃で切り裂いてみせる」
彼女はシャーロットを陥れる計画を本格的に始めた。
王太子との密会を偽装し、密書を偽造。
シャーロットが「平民の反乱を画策している」という噂を流した。
そしてついに──
「シャーロット・ウェストン、貴様は国家転覆の疑いによりアカデミー追放と身柄拘束を命じる」
王太子の声は震えていた。
信じたくないと瞳に涙を浮かべながらも、証拠を前にして判断を下す。
シャーロットは何も言わず、ただ静かに頷いた。
その瞳には悲しみよりも──諦めと憐れみがあった。
「アルガ様……あなたもきっと苦しんでいるのでしょうね」
その言葉がアルガの心を貫く。
──なぜ、私は罰を受けるべき相手に救われるのか?




