第一章 王都の薔薇
王都ローゼンハイムは春の訪れとともに薔薇の香りに包まれていた。
宮廷の庭園には赤や白、ピンク色の薔薇が咲き乱れ、貴族たちの社交の舞台を彩っている。
その中心に立つのは王立アカデミー首席の才女──アルガ・セレステ・クライン。
金髪を三つ編みにまとめ、青い瞳に冷たい光を宿す彼女は誰もが畏敬の念を抱く令嬢だった。
父は宰相、母は王族の血を引く貴婦人。
生まれながらに特権を与えられ、すべてを手に入れた存在。
「アルガ様、本日の舞踏会のパートナーは第三王女殿下とのご希望が届いております」
「ふん、またか。王女など私より才能も品格も劣っているくせに」
彼女は冷たく言い放ち、鏡に映る自分を見つめた。
──だがその瞳の奥には、誰にも見せぬ孤独と歪んだ嫉妬が渦巻いている。
アルガは王立アカデミーで平民出身の少女シャーロット・ウェストンに敗れたことがある。
学業成績、魔法適性、社交性──すべてにおいてわずかに上をいく存在。
それが許せなかった。
「貴様のような泥臭い者がどうして私より上に立てる? 生まれが違うというのに!」
彼女はシャーロットを「平民のくせに出しゃばる」と罵り、陰で孤立させる策略を巡らせた。
噂を流し、友人を奪い、魔法実技の授業でわざと失敗させる。
だが、シャーロットは決して屈しなかった。
笑顔を絶やさず誰に対しても優しく、そして──王太子テオドール殿下に見染められる。
「シャーロット、君の才能は血筋じゃない。努力と心の美しさだ」
その言葉を耳にしたアルガは、心の奥底で砕けた。
──なぜ、私は生まれながらにすべてを持っているのに、愛されない?
──なぜ、あの平民のほうが王太子の心を射止められる?
その瞬間、彼女の心に悪の種が芽生えた。




