最終話 そして、夜明け
身体の内側で、何かが弾けた。青白い光が、骨の髄から、血の全てから溢れ出す。それは、冷たい炎のようであり、同時に、遠い過去からの魂の叫びのようでもあった。肌に浮かび上がった結晶のような文様が熱を持ち、血管が光る。私の中に眠っていた「魔法源」が、この施設の根源と共鳴し、覚醒したのだ。
視界が歪む。時間と空間の感覚が曖昧になる。システムの情報が、意識に直接流れ込んでくる。それは、単なるデータではない。感情、記憶、そして、無数の魂の残響。施設の中枢、ブラッドラインの核が、巨大な脳のように脈動しているのが見える。そこには、培養槽に囚われた人々だけでなく、かつて魔法源として利用され、システムの一部となった全ての魂が繋がっている。そして、その中に、見覚えのある輝きがあった。父、母、妹。家族の魂だ。
「アークス・マグナは、人間の魂を糧に繁栄していた…!」言葉にならない叫びが、喉の奥から込み上げる。あの事故は、単なる偶然ではなかった。家族は、私の能力の「触媒」として、あるいは、この施設の、魔法源の初期生成のために犠牲にされたのだ。私の身体に流れるこの力は、家族の、そして全ての犠牲者の「残留思念」であり、ブラッドラインに対する、根源的な「拒絶反応」だった。
警備兵や戦闘AIの猛攻が迫る。しかし、覚醒した力の前では、彼らは塵に等しい。放たれた光の奔流が、敵を一掃し、壁を融解させる。制御を失いかけた力は、周囲の魔法源を取り込み、さらに増幅していく。だが、力が強まるにつれて、頭の中にノイズが走る。「私たちと一つに…」「システムの一部になれ…」それは、家族の声であり、「もう一人の私」の声であり、そして、魔法源に囚われた無数の魂の誘惑だった。
意識が遠のく。このままでは、私は私自身ではなくなる。システムの、あるいは魔法源の、意識の集合体に飲み込まれてしまう。その時、シャドウの声が響いた。「セラフィナ!奴らを止めろ!システムを破壊するんだ!」彼は満身創痍で、それでも必死に私を鼓舞している。レジスタンスは、外部からこの施設のシステム破壊を試みているのだろう。だが、完全には遮断できていない。決定的な一撃が必要だった。
破壊か、吸収か。システムの支配か、魂の解放か。私の手の中で、青白い光が脈打つ。この力は、破壊もできるし、システムと同化することもできる。一瞬、家族の魂に取り込まれ、永遠に共にいる誘惑に駆られる。だが、培養槽で苦しむ人々の姿が、私の意識を引き戻した。この歪みを、ここで終わらせなければならない。
私は、覚醒した力全てを、ブラッドラインの核に叩き込んだ。それは、自らを燃やし尽くす行為だった。身体が内側から光り輝き、皮膚がひび割れる。痛みが、意識を切り裂く。しかし、その光は、ブラッドラインの不気味な輝きを上書きし、核を侵食していく。システム全体に、致命的なエラーが発生する。
最期の瞬間、ブラッドラインに繋がれた家族の魂が、私に微笑んだような気がした。そして、彼らの意識が、魔法源の呪縛から解き放たれていくのを感じた。シャドウが、血まみれの手を伸ばしてくるのが見える。だが、もう間に合わない。私は、この光と共に、システムの根幹を破壊するのだ。
巨大な揺れと共に、第二施設全体が崩壊を始める。地上では、ブラッドラインの停止により、都市の光が揺らぎ、暗闇が広がる。人々は混乱するが、やがて、真実が公になった時、何かが変わるだろう。この偽りの繁栄は終わりを告げる。
私の意識は、拡散していく。過去の記憶、家族の声、そして、解放された無数の魂。それらが、光となって夜空へと昇っていくのが見える。私の身体は、魔法源の光となり、施設の崩壊と共に消滅する。復讐は、果たされた。そして、魂は、解放された。
遠く、シャドウの叫び声が聞こえるような気がした。あるいは、それは、新たな夜明けを迎える世界のため息だったのかもしれない。都市の空に、魔法源ではない、本物の太陽の光が差し始める。私の血と魂を対価とした、静かで、そして痛烈な夜明けが。
~あとがき~
やっほー!いつも私の拙い文章にお付き合いくださる皆さん、本当にありがとうございます!今回お届けしたのは、未来都市を舞台にしたSFディストピア、「魂の檻」という物語でした。あの、タイトルからして「うわ、重そう…」って思われた方もいるかもしれませんね?フフフ、その予感、当たってます!
この物語を書こうと思ったきっかけ? うーん、何でしょうねぇ。多分、子供の頃から大好きだった魔法物語と、大人になって感じる「社会のヤバさ」みたいなものが、脳みその中で化学反応を起こした結果だと思うんです。杖を振ってキラキラだけじゃない魔法。システムに組み込まれて、資源として「利用」される魔法って、一体どんなだろう? って考え始めたら止まらなくなっちゃって。特に、「血と魂から魔法源が作られている」っていうアイデアが閃いた時は、自分でも「うわ、エグい!」って思ったんですけど、なんかゾクゾクしちゃったんですよねぇ。これは書かねば!って使命感に燃えました。
私にとって、魔法物語の魅力って、単に非日常を体験できるだけじゃないんです。そこには、人間の欲望とか、倫理観とか、そういうドロドロした部分が映し出される可能性があると思っていて。 美しい奇跡の裏側にある、醜い現実を描くのが大好きなんです。今回の「魂の檻」も、きらびやかな未来都市の光の下に隠された、恐ろしい闇を掘り下げたかったんです。地下採掘場の埃っぽさとか、培養槽の異様な匂いとか、書いているこっちまで息苦しくなるような感覚を、皆さんにも少しでも感じてもらえてたら嬉しいなぁ。
執筆中は、もうね、大変でしたよ!特に、主人公セラフィナの描写にはこだわりました。あのクールで完璧なエンジニアの仮面の下に、どれだけの怒りや悲しみ、そして弱さを隠し持っているのか。その内面の揺らぎを、行動や少ないセリフ、そして地の文の比喩表現なんかで表現するのが、もう脳みそフル回転でした。文字数制限がある中で、どれだけ詳細に描写し、どれだけ伏線を忍ばせられるか。パズルを解くみたいで楽しかったけど、時々「あ、この伏線、回収するの忘れてた!ひぃぃ!」ってなることも。皆さんは、どこで「あっ!」って気づいてくれましたか?
あと、一番苦労したのは、やっぱり最終章のクライマックスですね。主人公が絶体絶命の危機に陥って、眠っていた力が覚醒する場面。これはもう、感情も描写も振り切るしかない!と思って、勢いで書きました。脳汁プシャーって感じでしたよ!(笑)そして、結末。「夜明け」と言っても、全てがハッピーエンドじゃない。苦いけれど、希望の光が見えるような、そんな読者の心に何かを残せる終わり方にしたいと思って、何度も書き直しました。
さてさて、今回の物語はいかがでしたでしょうか? 面白かった!とか、ここが良かった!とか、逆にここが分かりにくかった!とか、どんな感想でも良いので、ぜひコメント欄で教えてください!皆さんの反応が、私の次の執筆のエネルギーになりますから!
そうそう、次の物語の構想も、実は頭の中にフワフワと浮かび始めてるんです。今回の世界観から派生した話になるのか、それとも全く新しい、もっと突飛なアイデアになるのか…。まだ秘密ですが、また皆さんに楽しんでもらえるような物語をお届けできるように頑張りますね!
それでは、長くなりましたが、最後まで読んでくださって本当にありがとうございました!また次の物語でお会いしましょう!
星空モチより愛を込めて。