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第4話 影の中

都市の喧騒は、この地下室まで届かない。厚いコンクリートの壁が、地上で繰り広げられている偽りの日常と私を隔てる。息苦しいほどの静寂。ここでは、自分の心臓の音だけが、生きている証のように響く。ドク、ドク、と、血が巡る音。それは、ブラッドラインを流れる、あの魔法源の不気味な脈動を思い出させる。


この場所は、レジスタンスが用意したいくつもある隠れ家の一つらしい。かつては倉庫として使われていたのだろうか、埃っぽい空気とカビの匂いがする。古びた毛布にくるまり、冷たいコンクリートの床に横たわる。外は夜だ。都市の光が、この地下深くまで染み込んできているのが、換気口から漏れる微かな光で分かる。あの光の輝きを、今、私は逃れている。


常に、監視されている感覚がある。センサーの目、AIの分析、あるいは人間の追手。アークス・マグナのシステムは、都市の隅々にまで張り巡らされている。私が立ち入り禁止区域に侵入し、ブラッドラインの異常に触れたことは、既に感知されているだろう。彼らは、静かに、しかし確実に、私を追っているはずだ。背中に、冷たい視線を感じる錯覚に陥る。


思考は、とめどなく過去と現在を行き来する。あの地下採掘場。家族の笑顔。そして、培養槽に浮かんでいた、名もなき犠牲者たち。あの光景は、脳裏から焼き付いて離れない。彼らの苦痛が、魔法源となって都市を輝かせている。その事実の重みが、私を押し潰しそうになる。


だが、悲嘆に暮れている暇はない。私が見たものを、知ってしまった真実を、無駄にするわけにはいかない。レジスタンスと連携し、このシステムを止める。それが、家族への、そしてあの培養槽に囚われた魂たちへの、唯一の弔いだ。


数時間後、古いデータパッドに通信が入った。暗号化されたメッセージ。シャドウからだ。画面に表示される文字は無機質だが、その背後にある組織の緊迫感が伝わってくる。私の報告は、組織内に大きな衝撃を与えたらしい。魔法源の真実に、彼らも完全に気づいていたわけではなかったのだ。


メッセージには、いくつかの情報が含まれていた。アークス・マグナの幹部候補生リスト。ブラッドラインの初期開発に関わった研究者たちの名前。そして、都市の地下に存在する、もう一つの大規模な「培養施設」の存在を示唆する座標。座標を見た瞬間、身体が凍りついた。それは、私がかつて家族と暮らしていた場所の、すぐ近くだった。


さらに、メッセージは続いた。組織内でも、今後の対応について意見が割れていること。魔法源の真実を公表すべきか、それともシステムそのものを破壊すべきか。そして、私への新たな指示。潜伏を続けつつ、提供された情報を解析し、可能であればその「もう一つの施設」の情報を収集せよ、と。それは、危険すぎる任務だった。分かっている。だが、拒否する理由はない。


データパッドを握りしめる手に力が入る。復讐。それは、私を突き動かす炎だった。だが今、その炎は、より大きく、より冷たい青い炎に変わろうとしている。個人的な恨みだけではない。この歪んだシステムそのものに対する、静かで燃えるような怒り。私は、この世界の影に潜み、真実の刃を研ぐ。次に動く時、それはシステムの心臓を貫く一撃となるだろう。

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