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彼と私の物語  作者: 雨の日
今の私たちの話

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昔の話、追憶4

アリアとジャックが夫婦の様な関係になるのは、当然の流れだった。川の水が山頂から山裾へ流れる様に、季節が夏から冬は移り変わる様に、自然の流れの様に気づくと2人は愛し合っていた。


子供が出来たかもしれない、とアリアに伝えられた時、ジャックは喜びと同時に戸惑いと恐怖も湧き起こった。もし子供が、自分と同じ異形として生まれてしまったら。異形を腹で育てるアリアの身体は無事なのだろうか。その不安をアリアに伝えると、ある病院で診てもらおう、と提案された。魔物の森から少し離れた街に、腕のいい産婆がいるらしい。ジャックの代わりに人里に降りて買い出しをする様になっていたアリアは、そんな情報まで仕入れていた。


「おめでとう。妊娠しているよ」

そう言われてアリアは天にも昇る気持ちだった。前の夫とは、子供が出来なくて捨てられた。だから自分は妊娠出来ない身体なのだと、心の何処かで思っていたからだ。

産婆は少しだが魔力があり、腹の中の子を目で見る様に見ることが出来るのだという。それで異常ありとされた場合は、大きな街の産院へ紹介状を書く。この力で、街の妊婦はみんな無事出産する事が出来たと産婆は胸を張っていた。


産婆に礼を言い、外に出るとジャックがソワソワと近づいてくる気配がした。

「赤ちゃん、いるって。なんの異常もない、元気な子だって」

そう言ってジャックの手を自身の腹に当てる。彼の手は温かかった。



産婆のいる街までは魔物の森から距離がある為、定期的に通うのは大変だろうと考え、出産は森近くの人里でする事にした。



近頃、魔物の森の異形の化け物が頻繁にあちこちの近隣の村を襲い被害を出しているとの噂は聞いていた。その話を聞いてジャックとアリアは首を捻る。時々、その様な噂は出ていたが全てジャックには心当たりのない事で、おそらく無法者が異形の化け物を騙り悪事を働いているのだろうと気にもとめなかった。


アリアは定期的に近くの村の産婆の元へ通い、薄っぺらかったお腹が少し膨らんだ。悪阻のせいか食欲が減り眠ってばかりのアリアにジャックは甲斐甲斐しく世話を焼く。アリアは時々、そんなジャックの顔を撫でて、眉間に寄った皺を見つけては楽しそうに揉みほぐしていた。そんな小さな幸せを積み重ねていた時期だった。


ある日アリアが村へ降りると、にわかに村の様子が違う様に感じた。道行く人に尋ねると、異形の化け物を討伐する為の魔術師団が派遣されているのだと教えられた。あと半刻もすれば魔物の森へ出発するのだと。

アリアは急ぎ森へ引き返す。焦る気持ちとは裏腹に足取りは遅く、盲目の身をもどかしく感じた。


魔物の森の前でアリアを待っていたジャックは少し離れた森の入り口で魔物の雄叫びが響くのを聞いた。遠くに見えるアリアが急いでいる様に見えて、何かが起こっていると確信した。


アリアから話を聞き、2人は森の奥へと急ぐ。あちこちで魔物の咆哮が聞こえる。魔術師団は森を囲み中心に向けて異形の化け物を追い詰める作戦に出ている様だった。2人は家を目指していた。家は老魔術師の結界で守られており、そこまで辿り着けば無事でいられるかも知らないと思ったからだ。

それも確実ではない。でも逃げ場を無くした2人はそうするしかなかった。もうすぐ家に辿り着く、その時だった。

「アリア」

1人の魔術師が前方から現れてアリアの名を呼んだ。

「お兄様、、、?」

アリアが呟く。数える程しか聞いた事はなかったが、確かにそれは兄の声だった。アリアの兄は国の魔術師として仕えている。今回の討伐にいるのも、おかしな事ではなかった。

アリアの兄は手を繋ぐ2人を見て、少し膨れたアリアの腹をみた。

「我が家の面汚しが。目の見えぬ出来損ないであるばかりか、異形の化け物と番い子を成すなど、穢らわしい」

そう言って剣を抜くアリアの兄を見て、ジャックは兄へと駆け出した。

「先に家へ入れ!俺は後から行く!」

そう言ったジャックを引き止めようとしたアリアだったが、「子供を一番に考えろ!」と続けて言ったジャックの言葉に唇を噛み締め、家の方へと走り出した。目が見てなくても、この辺りなら何度も通った。1人でだって走って家は帰れるはず、そう思ったのも束の間、アリアは腹に鋭い痛みを感じた。後ろから剣で貫かれていた。

お腹、お腹、私の赤ちゃん、、、アリアは剣を引き抜こうとしたが、剣はびくともしない。

やがて、剣が引き抜かれるとアリアは力無く地面へと倒れ込む。

「うわぁぁぁぁぁあ」

ジャックは雄叫びを上げアリアの方は向かおうとし、そしてアリアの兄に胸を貫かれた。



「この女も、やって良かったんですよね?先輩」

アリアを貫いた男がアリアの兄に聞いた。

「ああ、異形の子を宿している女だ。化け物の同類だよ」


アリアが命を落とす直前に感じたのは、愛しい男が倒れる音と血の匂いだった。



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