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彼と私の物語  作者: 雨の日
今の私たちの話

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昔の話、追憶3


異形の化け物は赤子の頃この森に捨てられ、運良く老いた魔術師に拾われこの家で育った。老人は昔は国に仕える魔術師であったが、権力や派閥の争いに嫌気がさしこの森に隠居することを選んだ偏屈な男であった。

老人は彼を「おい」とか「お前」と呼び、名を付ける事はなかった。


魔物の森、と呼ばれる森ではあるが彼はこの森で魔物を見る事はほとんどなかった。それは老人が魔物避けの結界を張っていたのもあるが、老人から漏れ出る強力な魔力に魔物が怯えて近づかないからであった。

老人は彼にも魔力がある、と言った。おそらく自分よりも強い魔力であると。そして力の制御を教えた。強い魔力は、使い方を誤ると魔力が暴走し世界を滅ぼす可能性があるからだと教えられた。

生きる術を教え、生活の一通りを彼が1人でこなせる様になった時、老人は死んだ。彼が10才の時だった。


「おい」

息を引きとる少し前、老人は彼を呼んだ。

「俺はお前に名前を付けなかった。何故かわかるか?」

「いや。名前など無くても問題ない、生きていける」

無愛想な老人に似てしまった、ぶっきらぼうな話し方。老人は苦笑した。

「いつか、必要になる。お前が誰かと共に居たいと思った時にな」

「俺はジジィとまだ一緒にいたい。ジジィが名付けろ」

そう言うと、老人は悲しそうな瞳をした。

「名前は、子供への初めてのプレゼントなんだそうだ。親から子へ、愛を込めた。俺は、お前を拾っただけのただの通りすがりだ」

「でも、今まで育ててくれた」

「俺の縄張りで人が死ぬのが嫌だっただけだ」

突き放す様に言った言葉が本心ではないと彼には分かっていた。老人は偏屈なジジィなのだから。

「誰かと一緒に居たいと思った時、名前を付ければいい。自分で考えても、相手に付けてもらってもいい。俺は出来なかった。怖かったんだ、愛するのが、、、」


そこまで一息に話すと老人は眠りについた。最近の老人はほとんどの時間を寝て過ごしていた。終わりの時が近づいている様で、彼は唇を噛み締める。


愛するのが怖い、と老人は言っていた。名前を付けて愛を深めて、そして失ってしまう怖さ。この森に引き篭もる前の老人に何があったのか彼は知らない。ただ、外の世界を知る人間がこの森で余生を送ろうと考えたくらいだ。何か深く傷付く出来事があったのだろう。名付けられなかった、愛するのが怖かったと老人は言っていたが、彼の中には確かに老人から与えられた愛情が根付いていた。愛は、あったと感じた。


それからしばらくして老人は息を引き取り、彼は1人になった。日用品の買い出しに人里に降りる時は、フードを目深に被っていた。老人が、彼が人と見た目が違う事、人は自分とは違う見た目の人間に恐怖したり嫌悪する事を教えていたからだ。

一度、突然の強風でフードが外れ顔が晒された時があった。その時の悲鳴と怒号、そして”異形の化け物”という言葉が胸に刺さった。



1人になって10年の時が経ち、寂しいという感情も忘れかけていた時、彼は1人の女に出逢った。盲目の彼女は、彼を見た目で恐れる事はない。10年ぶりの人との会話に心が弾んだが、彼女の境遇は同情すべき物で腹立ちも覚えた。女が話の途中で急に倒れ込み、彼は慌てて彼女を家は連れ帰って介抱した。


アリアと名乗った女性は、穏やかな人だった。彼のぶっきらぼうで冷たい物言いにも動じる事なく微笑む、そんな人だった。アリア、と彼女の名を呼ぶと彼女は頬を染め花の様に笑った。彼は自分の胸が騒めくのを感じた。

自分は異形の化け物だと告げても、恐れるでもない彼女に、自分の顔を触らせる。彼女なら受け入れてくれるかもしれない、と確信めいた予感があった。

そして、その予感は当たった。


「ジャック」

アリアの声が彼を呼ぶ。名前はない、と言った異形の化け物に、彼女は名前を付けてくれた。


――誰かと一緒にいたいと思った時、名前を付ければいい――

老魔術師の言葉が脳裏をよぎった。


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