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彼と私の物語  作者: 雨の日
カリネキア国の話

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23/24

再会のとき

「ジャック!」


アリアの悲鳴にも近い叫びに、漆黒の霧が動きを止めた。


「おい、反応したぞ」

「ジャックってなんだよ、オメーの元カレか?ずいぶん特殊な性癖だな」


外野の声も、今のアリアには届かない。やっぱり、魔王はジャックだった?でも、どうしてそんな力?彼は普通の人間だったのに。


『マァ…マァ…?』

ジャックではない甲高い赤子のような声。


「赤ちゃん…?」


ズキリと頭が痛んだ。何か、大切なことを忘れている気がする。とても、大切な…忘れちゃいけないことを…。


アリアは無意識にお腹に手を当てていた。

あの日、ジャックと2人で何処へ行ったのだっけ?

幸せな何かを確認した気がする。


「おい!アリア!」

強く肩を捕まれ、思考の縁から現実に引き戻された。

「ボーッとすんなマヌケ!ブサイクに拍車がかかるぞ!」

「っ!…すいません…」


そうだ、魔王の討伐で私たちはここにいる。集中しなければ。

漆黒の霧の塊は、またユラユラとゆっくり動き出していた。


「おい、クソガキ。レディに対してなんて口の利き方だ」

「うるせークソジジイ!今それどころじゃねーだろうが」

緊張感のない2人のやりとりに、アリアは口を挟んだ。


「彼の正体を知っています」


「はぁ?」

「まじか。アリア嬢、詳しく頼む」


アリアは覚悟を決めて、すべて話した。ジャックのこと、盲目のアリアのこと、前世の記憶、全て。

「バカみたいな話だってわかってます。でも嘘じゃないです」

そうアリアは締めくくった。


「いや、まあ、この状況で嘘付くやついないと思うよ。でもな、あまりにも荒唐無稽だ」

コリンが頭を抱えて答えた。

「で?だからどうしたいんだ、お前は」

ギルバートがアリアに問う。


それは、アリアにも分からなかった。


「分かっているんです。殺さなきゃいけないって。魔物を際限なく生み出すんだから。でも…」


アリアは漆黒の霧の塊に目をやる


『マァ…マァ…』


「たぶん、あそこにはジャックだけじゃない。私の…アリアとジャックの子供もいるんです」

「はぁ!?お前子供いたの!?」

「前世でです!」



どうして忘れていたんだろう?ジャック、ジャックと彼だけを必死に探して、どうして愛する我が子を忘れてしまっていたんだろう?


まだ産まれてなかったから?ジャックと結ばれた世界で、また産んであげられると思っていたから?


違う、逃げたんだ。守れなかった現実から。目をそらした。母親なのに。あの子はずっと、この世界で「ママ」とただ一言だけ繰り返して私を探していたのに。

ジャックはちゃんと…ずっと側にいてあげていたのに。



アリアは漆黒の霧の塊へと走り出した。

「おい!」とアリアを呼び止める声がしたけれど、「私が引き付けます!全力の魔力で相手の魔力を抑えるので、その隙にお願いします!」

そう言って止まることはなかった。


「ジャック!」

霧の塊がうごきを止めた。霧に触れた瞬間、霧散する。

『あぁ、アリア。ココにいたのか。』

優しい青い瞳が4つ、アリアを見つめていた。

「ごめんね、ちょっと道に迷ってしまって」

『相変わらずだな。ほら、子供がずっと君を呼んでいたんだ』

ジャックの腕に溶け込むように包まれた黒い赤ちゃん。可愛い、とアリアは思った。

『ずっと抱っこしてたからか?腕とくっついちまった』

「ふふっ、そんなに長く抱っこしてくれてたのね、ありがとう」

ふわり、と優しくジャックごと赤ちゃんを抱きしめた。

とたんに、身体がミシミシと音をたてて激痛が走る。魔物化がはじまったのだ。

『アリア?』

小さく呻くアリアにジャックが声をかけたが、ギュッと2人を強く抱きしめた。

「もう、絶対に離れないからね。一緒にいこうね」


ギルバートが聖剣を振りかぶるのが見えた。

「ごめん」とギルバートの口が動く。

(私の方が、ごめんなさいだよ。ギル先生)

ずいぶんな自分勝手をしている自覚がある。何年も師事した相手に、自分を殺せなど。


だが、ギルバートにだから任せられると思ったのだ。彼なら魔物化したアリアごと、全て終わらせてくれると。仲間を斬ることに一瞬戸惑ったとしても、必ず遂行してくれると。


だから彼は、世界最強なのだ。


アリアはそっと目を閉じて、ジャックと子供の温かさに身を委ねた。



クレバーで冷酷じゃないと、世界最強ではいられない。

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