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彼と私の物語  作者: 雨の日
カリネキア国の話

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22/24

昔の話、追憶6


アリアが刺されて倒れたのを見て、ジャックは取り乱していた。

「うわぁぁぁぁぁあ!」

声にならない声を上げ、アリアに走り寄ろうとしてジャックはアリアが兄と呼んだ男に胸を貫かれる。

胸に刺された剣が引き抜かれ、ジャックは力なく地面に倒れた。


兄と呼ばれた男と後輩と思われる魔術師が何やら話しながら自分の元へ近づく。

「この化け物、マジで連れて帰るんすか?触るのキモいッス」

「仕方ないだろう。討伐の証拠品だ」


嫌そうにジャックに手を伸ばす魔術師に、黒い影が被さった。

ヌチャリヌチャリと嫌な音がする。

「は!?何だコイツ!魔物!?」

兄と呼ばれた男の声に反応した黒い影は、一瞬でその姿を飲み込んだ。

ヌチャリヌチャリ、と静かな森に音が響く。


アレは、森の主だと老魔術師が言っていた。アレの側に居ると、徐々に魔力が増すが代わりに姿形をも変えてしまう恐ろしい力を持つ神のような存在なのだと。

老魔術師は、アレと不戦協定を結んでいるとニヤリと笑っていた。だから、お前もアレを気にしなくていいと。我々に害を与えるものではないからと。


(ジジイが死んでも、アレはコチラに何もしなかった。近づきもしなかったのに)

薄れゆく意識の中でジャックは思った。けれど、神と呼ばれる存在に、我々の概念など当てはめられない。もしかしたら、今更になってジジイが死んだ事に気づいて、不戦協定を撤回したのかもしれない。

(でもまぁ、仇とってくれて…礼を言うよ)


ヌチャリ、と音が止む。黒い影はゆっくりとアリアの方に向かう。

「お…い…」

そのまま息絶えようとしていたジャックは焦った。

あのままでは、アリアが、子供が、食べられてしまう!

「アリア…!にげろ…!」

力を振り絞って叫ぶが、すっかり血の気を失ったアリアが反応することはなかった。


黒い影が、ゆっくりアリアの身体を飲み込んだ時。

『ギュゴッ』

と変な音を鳴らし、黒い影は動きを止めた。

ブワッ!と凄まじい爆風が自身の体の上を通り過ぎるのをジャックは見た。

黒い影が弾け飛ぶ様に広がり、一瞬でまた1つの塊に戻る。


ジャックは痛みに耐え、身体を起こした。起こすことが、出来たのだ。彼の身体は出血を止め、身体を巡る魔力が彼を生かそうとしていた。

黒い影とジャックのいた草原を残して辺り一面、焼け野原だった。


体を引きずるように黒い塊に近づく。影の時は人の数倍大きかったのに、今はとても小さかった。


『マァ…マァ…』


黒く小さな塊は、赤子の姿をしていた。

小さな小さな、まだ産まれるはずではなかった、我が子だと直感した。


「あぁ!そんな!」


きっと子供は自分に似て強い魔力を持っていたのだ。母親が死に、自身の命も黒い影に捕食された時。命を守る本能が魔力暴走を起こしたのかもしれない。

しかし、相手は人智を超えた存在だ。吹き飛ばされたソレは自身の姿を取り戻そうとした。


そして、結合してしまったのだ。


黒い小さな塊は、禍々しい漆黒を纏い始めていた。

『マァ…マァ…』

母を求める我が子を、そっと抱きしめた。


漆黒の霧が、体を包み込む。抱きしめた腕が、我が子と結合されてゆく。

森の主は、側にいるものの姿形を変えると言っていた。主と結合した我が子も同じ力を宿したのだろうか。

ジャックは、それでも構わなかった。


『マァ…マァ…』

「あぁ、そうだな。ママを探そう。アリア…どこにいる?」


漆黒の霧が、自身と周囲を包み込む。


それからずっと、2人で彷徨った。森の中を、高い山の頂上を、暗い洞窟の中を。

だけど、アリアは見つからない。

子供はとても優しい子で、森で拾った樹の実を近づく動物によく与えていた。


『マァ…マァ…』

『ア…ド…ゲ…』


どれくらいの月日が流れたのか、分からなかった。

今日も2人でアリアを探している。



完全に取り込まれるには、魔力の強すぎた親子の物語。

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