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彼と私の物語  作者: 雨の日
カリネキア国の話

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アナタに会いに

アリアは風魔法を使い、一気に山岳を駆け上る。山の上の方は地上より空気が薄いとのレインのアドバイスにより、顔周りの酸素濃度を調節することも忘れない。

途中で襲いかかる魔物はサポート魔術師に任せ、作戦開始から10分程で頂上クレーター付近にたどり着いた。魔物の発生源には、黒い瘴気が沸き上がると言われていたが、視界は良好だった。


次の瞬間、クレーターから瘴気が湧き上がり一瞬で視界を悪くする。魔力の塊を3つ感じ、新たな魔物が生まれ出されたと思い、アリアは身構えた。



同時刻“地獄の洞窟”の最奥で、コリンは拍子抜けしていた。予想の半分にも満たない量の魔物の討伐で、ここまでたどり着いたのだ。他の魔術師に入り口近くまで引き返して待機するよう伝え、コリンは光魔法で最奥を照らし観察する。

(ホントにここが3大魔物産地の1つってか?フツーの洞窟だがねぇ)

そうして、踵を返した瞬間、後ろから広がる漆黒の瘴気。しまった!と思う間もなく視界を奪われ、自分を軽く上回る質量の魔力を複数感じる。

(こりゃ生きて帰れねーかもなぁ)

緊張の冷や汗が背中を流れるのを感じた。




さらに同時刻“魔物の森”。森の中心に向かうにつれ濃くなっていく瘴気、強大になっていく魔物。ギルバートは止まることなく走り抜けて行った。

薄黒く染まる視界、それが突然途切れてギルバートは足を止める。


花が咲き、泉の水面が風で優しく揺れる。傍らに建てられた小さな家。

おとぎ話の世界の様な場所にギルバートは立っていた。

(なんだ?ここ…)

ギルバートは剣を構え警戒を解かない。


『マァマァ?』

後ろから聞こえた禍々しい赤子の様な声に背筋がゾッとした。

振り返ると漆黒の塊が蠢いていた。

『ニ…ロ…ア…ゲ…』

濁った低い声で意味のない発音をしながら黒い塊が近づいてくる。


(魔物!?しかし、言葉の様な発音をする…人型の魔物…魔王か…?それにしては…)


近づいてくるソレと距離を取るため少し後ずさる。禍々しい魔力、しかし動きは愚鈍で姿も漆黒の霧に包まれる様にはっきりしない。


ソレはギルバートが後ずさると近づくのをやめ、ユラユラと辺りをゆっくり歩き出す。

『マァ…マァ…』と甲高い声で言ったと思えば『ア…ア…ゲ…ロ…』と低く言う。


まるで迷子の子供が泣きながら母を探す様な姿。我々が魔王と恐れているとも知らずに。


その時、一匹のリスが漆黒に近づく。漆黒は立ち止まり、リスの近くにコロリと樹の実を落とした。リスがそれを持ちギルバートの近くで食べ始めた。


おとぎ話の様な空間で、リスに樹の実を与える…まるで絵本の中のプリンセスの様だ。

(プリンセスにしちゃ、禍々しい姿だな)

夢中で樹の実をかじるリス。その動きが止まる。ブルブルと小さな身体が揺れ「ジギュッ」と苦しみの音を出したと思った瞬間、新たな2つの目が現れた。


魔物化した!と思った瞬間には、手のひらサイズだったリスがギルバートの膝くらいの大きさに成長する。

「おいおい、聞いてた話と違うじゃねーか」

ギルバートは魔物化したリスに剣を向ける。

実験では、魔物化は緩やかだっだ。それは、実験に使われた魔物の魔力量が関係していたのだろう。

生物を一瞬で魔物に変える魔力、あの漆黒の塊は間違いなく我々が魔王と呼ぶものだった。


「もっとカッコイイ姿を想像してたんだがな。拍子抜けだ」

みるみる姿を変えた、先ほどまでリスだった魔物を剣で真っ二つにして、ギルバートは漆黒に向かった。


アレが生物を魔物化するのであれば、討伐以外の選択肢はない。

(そんな悪いやつには思えないけど…悪いね。人間様の為に死んでくれ)


『マァ…マァ…』と言いながら美しい泉の近くまで移動していた漆黒に、ギルバートは一瞬で距離を詰めた。

その漆黒の霧に聖剣が触れた瞬間。


漆黒の霧がそこから吹き出す様に溢れ出て、視界全てを暗くする。聖剣が強い力で弾かれ、ギルバートは後ろに吹き飛ばされた。姿勢を持ち直し無事地面に着地したギルバートは、先ほどの漆黒の魔王の他に2つの強い魔力が現れたのを感じた。


(仲間を呼んだか…!?いや…この魔力…)

それは、ギルバートのよく知るもの。


「アリア!?コリン!?そこにいるのか!?」




アリアは突然、黒い霧に包まれ気を張り詰めていた。魔物が生まれ出されたと思ったからだ。

その時ギルバートの声が聞こえ、混乱する。

「ギル先生!」

いや、そんなはずは…ギルバートのいるカリネキア国とアリアのいるリンビア王国は、海を挟んだ反対側だ。

移転魔法で?なら、魔物の森の討伐はもう…。


「アリア嬢!?これは、どういう事だ…」

動揺して、気づくのが遅れアリアは声の方へ構えた。

「おいおい、やめてくれ。俺だよ。コリン・ランヴァルドだ」

「え…?なんで…?」

「ホントにそのとおりだよ。なんでここでアリア嬢に会うんだ?俺は洞窟にいたぞ?」


「あの野郎、空間を捻じ曲げてやがる」


ギルバートが姿を現し、そう言った。


「ギル先生、あの野郎って…空間を捻じ曲げるって、そんなの不可能では…」

「相手は魔物だ。俺達の常識に当てはめられるか?」

3人は警戒を解かず背中合わせで情報共有を始めた。


「つまり、魔王は漆黒の霧に包まれた状態で姿はハッキリしないんですね?」

「ああ、しかし魔物化させる能力があるのは確実だ。実際にこの目で見た」

「聖剣が弾かれたんだろ?どうやって倒す?」

「わかんねー」


『マァ…マァ…』


「来たぞ!」




漆黒の霧の塊が、ユラリと姿を現す。

アリアはそれを見た。


『ア…ゲロ…』


先ほどの甲高い声とは違う、低い声。

知ってるものよりも濁って聞こえるそれは、アリアがずっと聞きたかった声。


「ジャック!!」


悲鳴にも近いアリアの声が響いた。




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