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彼と私の物語  作者: 雨の日
今の私たちの話

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2/24

彼と私の昔の話

突然だけど、私には生まれる前の記憶がある。

いわゆる前世の記憶、というものだ。一番古い記憶は何十年前なのか何百年前なのか、それは分からない。その記憶にある世界はこことは違う世界だった。


悟とは、そこで初めて出逢った。



その世界で私は盲目の女で、悟は異形の化け物と呼ばれていた。


産まれながらに盲目の私は実家から厄介者として冷遇されながら生きていた。

どうやらその頃の私は盲目でありながら、なかなかの見た目をしていた様で、年頃になると売られる様に嫁に出された。しかし婚家でも盲目で家業も手伝えぬ女と姑に詰られ、夜に帰ってくる夫はそれを制するでもなく、気持ち悪い手つきで私を弄ぶばかりだった。夫のお手つきがある間はそれなりに過ごせたが、一年経ち二年経ち私に懐妊の兆候が見られない日々が続くと、状況は変わってゆく。そして三年経ったある日、突然森に捨てられた。盲目の奥様は、家業を手伝えぬばかりか子を産めぬ身体であった為、自ら家を出て行方をくらませた。そういう筋書きになるのだと、私を馬車に乗せていた御者が伝えた。


目の見えない私を森に捨てる。それは死を意味する。そうやってあっけなく、必要のなくなったゴミを捨てる様に私は世間に捨てられた。

そこが森だとわかったのは、咽せ返る様な土と木の香り、そして足をくすぐる草の感触。捨てられて二つほど夜を超えたと思う。見えないが、虫や鳥の声がそう伝えていた。盲目の人の多くがそうである様に、私も視覚以外の感覚が鋭かった。だから、ゆっくりと森の中へ進んで行く途中で人の気配を感じられた時、安堵と同時に恐怖も沸き起こった。

たぶん、かなり森の奥まで来てしまった。微かに聞こえた川の音を頼りに、水辺の近くには村があるだろうと助けを求めて歩いていたのだ。人の気配は、その時感じた。村が近いのか、それとも無法者か。どちらにせよ、誰かに助けを求めねば私は死ぬだろう。意を決して私は誰かに声をかけた。

「どなたか、いらっしゃるのですか?」

私の口から出た声は震えていた。

ガサリと草をかき分け人が現れる気配がした。

「どなたか存じませんが、助けて頂けませんか?森の中で迷ってしまい、人里を探しています。」

人の気配のする方を向いて懇願すると、その気配が私に近づき

「お前、目が見えぬのか?」

と、静かに聞いてきた。低い男の声だった。それが、前世の悟だった。




「じゃあ、また明日」

悟の言葉に、もう家の前まで来ている事に気づいた。昔のことを思い出してるうちに、ここまで来たらしい。遠い目をして昔のことを考え無言になっていた私を気にすることなく、悟は目線で私に家に入る様に促す。悟はいつも、私が家の中に入るまで門の前で見守っている。2人で登下校が始まった小学生の頃からの習慣を、疑問に思うこともなく受け入れていた。


「悟君は、紳士なのね」

いつだったか、母が悟にそう言っていた。

「いや、別に。一緒に帰ってきて、ここで迷子になられても困るし」

ぶっきらぼうに答える彼に、玄関まできて迷子になる程器用じゃないと頬を膨らませる私に、あらあらまぁまぁと母は朗らかに笑っていた。



玄関ドアから顔を出し、じゃあね、ありがと!と言うと、ん、と短く返事をして悟は自分の家の方へ向かう。それを見送り私はドアを閉めた。


「ただいまぁー」

そう声をかけると、おかえりーと母の声がして、リビングを開けると温かい空気と夕飯のいい香りがした。

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