リラの瞳
リラの瞳。
神秘的な薄紫に輝く瞳は、普通の人間には見えない魔力の流れが見え、より繊細な魔力操作が可能になる。魔力量だけでなく属性も見抜くことが可能だ。
その繊細な魔力操作は、自身の属性の魔力を他の属性に変換し使用することでさえ可能にする。
ギルバートは、リラの瞳を持ち世界で唯一の全属性が使用できる魔術師としても知られている。
アリアは200年ぶりと言っていたが、この薄紫の瞳を持って生まれたものはギルバートより前にも何人も存在していた。
しかし殆どの者は魔力量が多いわけでもなく力を使いこなせなかったのだ。瞳の力を引き出すには大量の魔力が必要だからだ。
薄紫の瞳に膨大な魔力。両方を持ったものだけが“リラの瞳を持つ者”とされた。
そして、200年ぶりにその両方を持って生まれたのがギルバートなのである。
飛び抜けた魔力を持ったギルバートの魔力コントロール指導は困難を極めるだろう、なにせ彼を上回る魔力を持つ者は居ないのだ、、、という周囲の心配も何のその。ギルバートは古い文献を読み漁り、過去にリラの瞳を持っていた者の残した資料を元にアッサリと魔力を制御してみせた。
学園へ行けば学業成績はトップクラス。フィールドワークでは持ち前の身体能力で魔物を一捻り。顔も良く女にもモテた。
あっと言う間にトップクラスの魔術師となり、世界最強と呼ばれるまでになった。
ギルバートは挫折を知らない男だった。
つい、最近までは。
「だからさ、コントロールしようとするから出来ないの。フンッて感じでさ。こう、ウーンってなるでしょ?だからその感覚を維持したままヒョイってするの、わかる?」
「はい!わかりません!」
ギルバートの指導力は壊滅的だったのである。なにせ、自分は指導を受けたことがない。古い文献を見て、ウーンとやってヒョイとやってのけたのだから。
「ちょっと、アリア?君ホントにどんくさい。冗談は顔だけにしといたら?」
「先生の教え方でコントロールを出来るようになる人っているんですかね?あと私は我が領地で1番の美人さんだと父が言っていました。私は父を信じています」
「へぇ~、ダーリンガム領ってブスの名産地なんだね」
バチバチと火花を散らす2人。
魔力制御もままならぬまま数ヶ月共に過ごし、最初に被っていたネコも裸足で逃げだし、大変仲良く喧嘩する仲になっていた。
「お二人とも、その辺でお辞めになって」
涼やかな声にアリアはパッと表情を明るくし、その声の主ダリアに顔を向けた。
ダリア・ダウンバード公爵令嬢。ギルバートの2歳下の妹であり、ギルバートに負けず劣らずの絶世の美少女である。
「ダリアお姉様!聞いてください!ギル先生が酷いんです」
「フフッ聞いていましたよ。こんなに愛らしいアリアにお兄様ったら…相変わらずクズでいらっしゃいますわね」
「ホントの事言って何が悪いよ。あんだけ教えてんのに、まーったく進歩しないアンポンタン、俺様見たことねーよ。まったく」
「いや、教え方の表現が抽象的すぎますよ!ウーンってしてヒョイってなんですか」
「ほらほら、そのへんにして。お客様をお呼びしたのです」
そう言って後ろを向き手招きをすると、扉の向こうから一人の男性が現れた。
艶やかな黒髪を後ろに1つに束ねた長身の男性。柔らかな微笑みは落ち着いた所作と相まって、人を引きつける様な雰囲気をまとっていた。
「やぁ、ギルバート久しぶりだね」
「うぉ、誰かと思ったらレインじゃん!久しぶり〜いつコッチ帰ってきたんだ?」
「一昨日だよ。しばらくこちらでゆっくりしようと思っていたんだけどね。ダリア嬢からのお誘いは断れないよ」
そう言って女性陣にウインクをする。キザな仕草なのに、彼がするとしっくりくる。アリアは頬を赤く染め下を向き、ダリアを照れたようにフイッと顔を横に向けた。
面白くないのはギルバートである。つい数ヶ月前、アリアを照れさせてやろうと、自慢のご尊顔を近づけたのに思いっきり引かれた。
なのに今はどうだ、一端の女の子みたいに顔を赤らめてモジモジしている。
俺様の方がカッコいいし、強いし、金持ちなのに!
「で?ダリアに呼ばれてなんでココに?今は生徒の授業中なんだが?」
不機嫌に問えば、レインはギルバートの不機嫌の原因に思い当たり苦笑しながら答えた。
「その授業が行き詰まっていると聞いてね。何か力になればと思ったんだよ。君が教えるのに向いていないのは学生時代からよく知っているからね。」
スイッとレインの視線が自分に向くのを感じてアリアは顔を上げた。髪と同じ、黒曜石の様な瞳と目が合う。
「ご紹介いたしますわ。こちら、数ヶ月前からお兄様に魔術コントロールの指導を受けていらっしゃいます、アリア・ダーリンガム伯爵令嬢です」
「始めまして。アリア・ダーリンガムと申します」
「始めまして、アリア嬢。私はレイン・コルトナー。ギルバートの同級生で学生時代からの友人だ。先日まで隣国の魔術研究機関に派遣されていたんだ。しがない研究員さ」
「まぁ、魔術研究機関にお勤めでいらっしゃるのですか?すごいですわ」
「いやいや、凄いのは一部の才能ある学者たちで、僕みたいなのは下っ端の雑用だよ」
「はい、ストップ。で?チカラになるって何?魔術コントロールは俺しか教えられないよ」
放置されたギルバートにより弾みそうな会話は中断され本題にはいった。
魔力コントロール訓練で放出力を見誤り事故を起こしそうになるのは、誰にでも起こりうるミスだ。だからこそ、その力を上回る魔術師が側でサポートする。それが魔力制御授業におけるセオリー。
要するに、魔力コントロール訓練はギルバートしか教えられない、を前提にその壊滅的語彙力と共感力の欠如を補うためにレインがサポートする、ということである。
「これからよろしくね」
そう微笑むレインは、本当にギルバートの同級生なのだろうか。すごく大人っぽくて素敵だ、、、とアリアは行き詰まっていた授業に少し希望を見いだした。




