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機概騎士ノワール  作者: 木ノ本 光
ノースシティ編
9/10

慢心はいらない

洞窟の入り口に立つと、ぬめりとした生暖かい風が頬を撫でた。

フラクル村にあった洞窟では感じたことのない暗い雰囲気がある。


「…早く終わらせよう。」


洞窟の中に踏み入れると、わずかに腐臭がする。壁は水気があり、地面に滴り土と混ざって濁った水溜りが出来ている。

ふと足元を見下ろすと、小動物の骨が転がっていて少し怖気づいてしまったが、足は止めない。

慎重に奥へ進むと、闇のさらに向こうから甲高いうなり声が聞こえる。


「ブピギィィィーー……、」


2つの赤い光がこちらを見ている。

だんだんとその光が大きくなるにつれて、僕の心臓の鼓動も大きくなっていく。


「……参る!」


絶対に先手はとる。

父の教えに従い、全速力でヒューマピッグに襲いかかる。

同時に右手の指輪を短剣に、左手の指輪を小型のクロスボウに変形していく。

ヒューマピッグは狭い洞窟に似合わない大きい図体の前に大剣を盾のように構え、防御の姿勢をとった。

クロスボウを右腕に添え、まずは3発撃ち込む。

大剣にに阻まれるが、その隙に脇に飛び込み斬撃を放つ。


「……_ッ!」


ヒューマピッグはその巨体からは考えられないほど素早く斬撃を避け、拳を振りかざしてくる。


(想像以上に速い……!単純なスピード勝負はしてられないか)


短剣と銃を長剣に変形し、牽制をしながら壁際へと誘導していく。こいつを仕留めるには、素早い動きを封じるのが最適だ。


壁に追い詰めると、壁に立て掛けられていた松明の灯りでその巨体が照らされた。人間のような形に、豚の頭部を持つ異形の魔物。鈍く赤黒く光る瞳からは殺意しか感じられない。全身を黒い毛で覆われ、腕は異様に長く、その先端には鋭い鉤爪が生えているが、その鉤爪はさっきから繰り出している斬撃で削り切った。


「…僕の糧となれ。」


ヒューマピッグが最期の覚悟で突進してきた瞬間、半身になり攻撃を長剣を使って受け流す。

そして、渾身の力を込めて首を切り落とした。


――ザンッ!


刃から魔物の血が滴り落ちる。周りは暗くてよく見えないが、恐らく血まみれだろう。


「これで1匹か……」


余裕だな。…初めは少し驚いてしまったが、討伐してみると充分上手くやれた。

さっさと終わらせて帰ろう。


しかし、歩こうとすると、


……足が動かない。足元に目を下そうとすると、目の端に一点の光が見えた。

…次の瞬間、矢が壁に刺さった。

なんとか避けたが、またすぐに次が来るだろう。氷で固まっている足を強引に引き剥がし、左手には盾を、右手には剣を形成する。

今回の盾は奴らの素早く重い打撃に耐えられるよう、硬度の高い金と銀を使う。剣は1発で殺せるように切れ味を高くしながら硬度も考慮した銀と紫で形成する。


「ブゴオオォォ……!!」


洞窟の奥から地響きのようなうなり声が響いた。

松明の揺れる光の先に、蠢く影が………5つ。


「……それぐらいじゃなきゃあな、」


震える身体を奮い立たせる。

汗が背筋を伝う。まさか、こんなに群れているとは思わなかった。ヒューマピッグは基本単独行動なだけに、油断していた。


ヒューマピッグたちは心なしか獰猛な笑みを浮かべ、こちらへと向かってくる。


剣と盾を構え、あくまでも先手をとりにいく。


「……ハアッ!!」


剣を横に一閃。一体目の胴体を切った。

魔物が倒れたが、すぐさま2体目、3体目が襲いかかる。


(……くっ、おかしいな、やりにくいぞ…!)


1体だと純粋な戦闘力で対処できるが、2体は厳しい。一方は左から打撃を、もう一方は右から剣でついてくる。


両方に対処していると防戦一方だ。

1体の鉤爪が脇腹を掠める。焼けるような痛み_______

さらに奥からは一息つく間に矢が飛んでくる。


やがて______


今度はこちらが壁に追い詰められた。


「…ハア、…ハア…」

(……どうすれば…。)

(いっそのことでかい大砲で全員吹き飛ばすか…?、いや、そんなもん形成している間に殺されるのがオチだ。)


10分ほど攻めあぐねていると、何処からか声が聞こえた。


『…騎士になれ』


何処かで聞いたことのあるその声に導かれるように、身体が動いた。両手を前に出し、仁王立ちのような構えをとる。

武装を解除し、剣と盾が指輪に戻っていく。

それと共に指輪は黒く変色していく。そして黒い剣を一振り形成する。洞窟の闇を更に暗くするような、黒。

その剣を眼前に構え、


「剣を構えろ!」


同時に、襲いかかる2体の胴体を一閃。

更に飛びかかる矢を切り伏せながらゆっくりと歩みを進める。


身体と世界の速さが合わない。頭だけは高速で目に映るものを処理している。


「…強かったよ。」


敵の眼前に立ち、言い放つ。

そして、残りの2体とも縦に真っ二つに斬った。あたりに血が飛び散り、肉が裂ける音が響く。洞窟の中は僕とヒューマピッグの血の匂いで満ちていた。


「……こんなんじゃ、だめだ。」


この洞窟に入る前の自分を思い返し、つぶやいた。

師に認められ、ギルドでも優遇され内心では思い上がっていた。


___だが、そのままでは常識を超えた強さは得られない。


「……騎士に、なるんだっ!」


声に出して言う。絶対に、騎士になって目的を遂げる。それまでは慢心しない。そう心に誓い、深く息を吸った。

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