冒険の前に
ノエルが冒険者ギルドに向かっている頃、ユーリ・カノッサ邸には客人が訪れていた。
その男は白髪をフサフサと靡かせ、門の前に立った。
「やあ!来たよユーリ!」
透き通るようなよく通る声からはその男の自身に対してのある程度の自信感を滲ませていた。
そんな声を聴き、ユーリは露台に出て、
「君がこの街に降り立った瞬間からそのいや〜な存在感は感じていたよ、ライアン。なんの用かな?」
(まあ、大体察せられるがな)
「勿論、君が拾ったものの話さ。とにかく入れてくれ。」
「…いいだろう。」
門がガチャガチャガチャンと開き、露台まで金色の階段が形成された。ライアンは軽快に階段を上がり、ユーリの前に立った。
「…部屋には入れてくれないのね。まあ、入ったことないんだけど。」
「用件だけ話したまえ。今日は可愛い弟子の初めての冒険なのだよ。」
ライアンはニッコリと笑みを浮かべ、前屈みになってユーリの顔の目の前に顔を近づけた。
「僕の小鳥たちによると、ここユーリ・カノッサ邸で3日前から身元不明の少年が連れ込まれ、何やら機概を操ることも出来るらしいね。」
「…それがどうしたんだい?」
「いやね、ここより北にあるフラクル村が何処かに消えた件とタイミングが重なってね、王立機概騎士団から調査を依頼されただけさ。」
「…ふむ。彼らは何を疑っているんだい?」
「ハハ、ユーリ、君の知ってることを聞きに来たんだがね。まあ、良い。…王立機概騎士団はある程度までは掴んでいるよ。あの村には『柱』の1人が居たからね。」
「…ふむ。だから私の家に来たのだね?だとしたら、5年後には王都によこすつもりさ。安心したまえ。」
「お偉いさん方も喜ぶよ。もし良かったらユーリも王都に来てくれたら僕も楽しいし皆ハッピーなんだけどなー。」
「ふん、行くわけがないだろう。私が王都に行くのは王の首が危険な時だけだ。では、お帰りいただこう。」
ライアンはゆっくりと顔を上げ、
「では、聞きたいことも聞けたし言われた通り帰らせていただくとしよう。…また会おう。」
そう言うと、ライアンの指10本に装着されている指輪、両手の腕輪が銀色の光と共に変形を始めた。
銀色の板が組み合わさり翼のようなものが形成され、その先端からマフラーが形成されて行く。
風防眼鏡をつけ、
「では!」
ドオオォーン、ゴオオォ
と言う轟音と共に、ライアンは音と共に南の空に消えた。
崩れかけた露台の形成を修復しながら、
「…だから嫌なんだ。あいつが来るのは。」