19ゴミ拾い 鎧の男VS諜報員
台地が裂けた場所に対峙する2人の男は、互いに相手の出方を伺っていた。
相手がどんな能力を持っているか分からないのに、こちらから攻撃を仕掛けるのはリスクが大きい事を互いに知っているからだ。
ベテランの冒険者というわけでもあるが、それ以上に対人を想定とした戦い方をよく知っている。
モンスターならば、モンスター図鑑を読めば大抵は攻撃方法や対処方法が分かるからだ。
先ほど鎧の男が、身の丈程ある巨剣を振り下ろした際に、諜報員の男は微動だにしなかった。
攻撃が当たらないことを知っていたのかあるいは、動けなかったのか。
鎧の男はその場で巨剣を振り下ろしただけなので、単純に攻撃が届かないと思ったのかもしれない。
それならば。と鎧の男が仕掛ける。
『スキル発動! 切歩』
心の中でスキルを唱え、先ほどと同じようにその場で巨剣を振り上げて振り下ろす。
同じように鈍い音が、周囲に鳴り響いたが先ほどと違う部分もあった。
振り下ろした先から次々と地面が破壊されているのだ。
『地面関係の力か? いやこれは斬撃が向かってきている!』
すぐさま諜報員はその場を離れる。
破壊される地面の先には、巨大な岩がある。
見た目は、地割れがどんどんと続いているような印象だ。一見すると斬撃が動いているようにも見える。
巨大な岩が真っ二つに割れたのを見て、諜報員はこの攻撃が斬撃であることを確信した。
「見た目に似合う能力だ」
諜報員の最大限の褒め言葉だ。
『最初の一撃は攻撃起点をポイントするためのものか……』
さすがは諜報員。
鎧の男の切歩というスキルを正確に把握していた。
一撃目で攻撃の起点を定め、二撃目で一直線上のものを切断破壊する攻撃である。
破壊したり切断できる物や硬さ、一直線の距離は、スキルのレベルに比例する。
「貴様に褒められても嬉しくないわ!」
身の丈ほどもある巨大な剣をいとも簡単に振り回しながら、鎧の男が諜報員に近づく。
諜報員は諜報員であり、戦闘に特化しているわけではない。
加えて装備の差もある。
鎧を着た男と軽装な男では、ある程度無謀に攻めてもダメージを受けないのは鎧の男の方である。
「技を出しあぐねていると死ぬぞ?」
距離を取った諜報員の男に対して、鎧の男が次のスキルを発動した。
火斬と呼ばれる、よく見るスキルだ。
よく見るということは、使い勝手がいいということであり効果的であるということ。
武器。主に剣の刀身に火を纏わせるスキルだが、スキルレベルが上がると、この火を飛ばせるようにもなる。
「我の火斬は飛ぶぞ?」
距離を取った諜報員に向かって、鎧の男がそう宣言した。
周囲を木々に囲まれたこの場所では、さぞかし効果が絶大であろう。
●
『防戦一方だな……』
近づけば力でゴリ押しをされ、離れれば飛ぶ斬撃と火がやってくる。
かと言って諜報員のスキルは調査に役立つが戦闘には不向きなものばかり。
「……」
諜報員が周囲を見渡す。
既に木々は燃え尽き、諜報員と鎧の男は火に囲まれている。
『拙者が死んでも他の者が後を継いでくれるはずだ……』
諜報員がスキル煙玉を発動して、身を隠す。
「またそれか!」
鎧の男が、スキル昇風を発動すると突風が下から上へと発生して煙がかき消された。
「煙に隠れて何かをしようとしたのだろうが我には無駄なこと」
しかし諜報員はこの一瞬で鎧の男との距離を一気に縮めた。
片手の平を開き、そのまま鎧の男の腹に勢い良く当てる。
『! 内側にダメージを与えるスキルか?』
鎧の男がすぐさまその場を離れたのは、さすがである。
踏んだ場数を思わせる。
しかし諜報員にとって重要なのは、ノーダメージで鎧の男に手のひらを当てることであり、その後のことはどうでもよかった。
「マーキング成功」
諜報員が呟くと、顔中に何やら不気味な痣が現れた。
「貴様……それは……」
鎧の男はその痣の正体を知っていた。
「ほう? これを知るか。花晴のギルドも侮れないものだな」
ニヤリと諜報員が不気味な笑みを浮かべると、手にしたクナイで自分の首を掻っ切った。
「き……さ……ま……」
鎧の男の何度もの攻撃で大地は避け、後に台地が裂けた場所と呼ばれたこの地で、2人の男は命を落とした。
先の戦いで使われた力がどのようなものだったのか。今となってはもう分からなくなってしまった。
「あーあ。また死体が増えちゃうよー」
幼い声がしたと思ったら背の小さな、女の子が木の影から現れた。
どうやら彼女にとっては、今の戦いも先の戦いで使われた能力も興味がないようだ。
「ボクの力ってホント最強だよね」
2人の死体に近寄って死体に向かって話しかける。
「帰ろっか」
少女がくるりと背を向けて歩き始めると、鎧の男の死体は幽霊のように起き上がり、両手と首をだらりと降ろしたまま少女に黙ってついて行った。
諜報員にいたっては、首を脇に抱えて少女に黙ってついて行く。
「みんなでボクと一緒に世界をお掃除しようね」
少女の不気味な言葉だけがこの場に残った。




