3歳の娘が「わたし、かんらんしゃあれるぎぃなの」と言い出したので観覧車に乗せてみた。
「わたし、かんらんしゃあれるぎぃなの!」
「観覧車アレルギー?」
初斗は、3歳の娘ミツキの言葉に首を傾げた。
医者を生業としているが、医学書で観覧車アレルギーなる文言を読んだことがない。
何を言っているのか全く理解できなかった。
意味がわからないながらも、ミツキは観覧車に乗りたいんじゃないかなと考えた。
「ミツキは観覧車に乗りたいんですか?」
と尋ねると、ミツキは元気よくうなずいた。
「うん、かんらんしゃあれるぎぃなの!」
その言葉を聞いて、初斗は思わず笑ってしまう。
「明日はお休みだから、ママと三人で行ってみようか」
「わぁい!」
そんなわけで、家族3人で横浜にあるショッピングモールの観覧車に乗ることとなった。
モール到着すると、ミツキは興奮気味に観覧車の前で飛び跳ね、「かんらんしゃあれるぎぃ!」と何度も繰り返す。まわりのお客さんもクスクス笑ってミツキを見ている。
ネルも「そうそう、観覧車に乗りたいんだね」と言い、家族でチケットを買った。
観覧車に乗り込むと、ミツキは向かいのネルの膝に座って聞いてくる。
「パパ。かんらんしゃのると、くしゃみ、でる?」
「出ないよ。観覧車で病気になる人はいない」
ミツキは首を傾げる。
「でも、おとなりのおじいちゃ、かんらんしゃあれるぎぃっていってた」
初斗は一瞬驚いたが、ネルが思い出したように言った。
「ああ、お隣の蜻一おじいちゃんが『寒暖差アレルギーでこの時期は辛いなぁ』って言っていたよ。ミツキには寒暖差が観覧車って聞こえてたんだね」
観覧車が一周して地上に降り立つと、ミツキは満足げに「かんらんしゃあれるぎぃ、たのしかった!」と元気よく言った。
家族三人で歩きながら、ミツキはまた「かんらんしゃあれるぎぃ」と繰り返していた。
隣家の前では、蜻一がテーブルセットを出して水タバコのフルーツフレーバーを嗜んでいた。
ミツキはフルーツの香りがもくもくしているところにかけて行く。
「おじいちゃーん。かんらんしゃあれるぎぃ、かんらんしゃにのるとでないんだって」
蜻一はにっこりと笑い、「観覧車アレルギーは大変じゃなあ。でも、ミツキちゃんは元気そうで何よりじゃ」とミツキの勘違いに合わせてくれる。
「蜻一さん、アレルギーがお辛いなら漢方を処方するので、いつでも来院してくださいね」
初斗はネルと共にミツキの手を引いて玄関の扉を開けた。