恋する乙女なら胸キュンする
他人と関わりが減ったのは、あの声の主のせいではない。幽霊が見えたからでは、ない。友達がいないのも性格の問題だとしているリコは、他人に興味がなくなっている。そうすれば楽だから。気を遣ったり言葉使いとかを悩む事もないからとそう言い聞かして昼休みに誰もいない屋上前の階段に行き手作りのお弁当を食べる。
便所弁当よりマシだと言い聞かせながら少し焦げた卵焼きを頬張っていると息を切らしながら翔が、現れた。
「リコさん!どうして誘ってくれなかったんですか!?僕、探したんですよ。クラスも知らなかったので、片っ端から全クラスに行ったんですからね」
「うわ…引くわ」
「ありがとうございます」
「褒めてない。どうして私を探していたの?嫌がらせ?」
さりげなく隣に座る翔を冷たい目で見てリコは、そう言いおにぎりを食べた。翔は、どうやら菓子パンだ。メロンパンを頬張り幸せそうにする。
「もっと栄養があるものを食べたら?」
「栄養があるものは、ありますよ。ほら、野菜ジュース」
「メロンパンに野菜ジュースの組み合わせって…」
少しだけリコは、自分の弁当箱を見て翔を見る。友達でも無い。ただ朝に出会った通りすがりの同じ学校の同じ学年の男子生徒に手作り弁当のおかずをあげるのは、ダメな事なのだろうか?ほんの一握りだけの良心が痛む翔の昼ご飯であるメロンパンと野菜ジュースを見て少しだけ悩むリコは、考えて考えた末に考えるの諦めて弁当箱の中身を全部食べた。
「リコさん。少し聞きたいことがあります」
「あの…亀井くん…馴れ馴れしく名前で言わないでよ。せめて宇佐美さんって言って欲しい」
「外見も可愛いのに更に名前も可愛いらしいと思いまして、親しみ込めてリコさんって言わせてください」
「……本気でそう思ってるの?」
照れ隠しで、思わず出た言葉。翔は、眩しすぎるほどの屈託もない笑顔で頷いた。邪神がある者なら浄化されるのではないだろうか?悪意がある者が近寄って来て、彼を騙すのでは無いだろうかと思ったが、キョンシーにされた事を、リコは、忘れていない。
「で?どうして私を探していたの?」
「リコさん…貴女は、呪われていますね」
「……どうしてそう思うの?」
単刀直入すぎてリコは、少しだけ警戒をした。翔は、肩を指して
「僕は、人の魂の色が見えるんです。リコさんは、純粋な白色なんですがそこだけ黒く濁っています。呪われた方は、黒く濁りそして濁りは、次第に大きくなりいずれは死をもたらします。しかしリコさんの場合は、淀みも感じられずただそこだけ黒く濁ってます」
死をもたらす。その言葉に息を呑み目を逸らした。そして簡単だが翔に説明をした。5歳の頃に起きた話をした。すると翔は、少しだけ考え
「それは、多分神隠しですね」
「神隠し?」
「はい。いつの間にか神様の国に行って、人間界に行ったら数日…数年経っていたと言う話し知ってます?」
リコは、頷き少しだけ考えた。あれは、神様では無い。別の何かだ。
「でもリコさんの場合は、幽霊の国に行った感じですね。呼び寄せられたんでしょうね。リコさんの魂の色のせいで」
「私の魂の色のせいって…白かったらダメなの?」
「いいえ。ダメでは、ありません。純粋で真っ白い魂の色は、霊にとって美味しいらしいです」
美味しいらしいって常に並んでいた幽霊は、魂を狙っていたって事になる。そして急に幽霊が見える様になったのは、幽霊の国へ行ったからだと言うのも納得する。しかし呪いが全く理由がつかない。
「その呪い…“これは、自分の獲物だから食べたらダメですよ”って意味でしょうね」
「ある意味守られているって事?」
「いい意味で言えばそうです。悪い意味で言うと“保存食”ですね」
「それは、嫌」
翔は、焼きそばパンを取り出した。2個目のパン。大きかったメロンパンの次に焼きそばパン。甘いのから塩っぱいの…体には、悪いが美味しい組み合わせだと言わんばかりの顔で美味しそうに翔は、食べ始めた。
「僕ならリコさんを助けられるかもしれません」
「助けてって言ってない」
「保存食が嫌なんですよね?なら、助けてって言わなくても僕は、助けます」
此処は、泣いて喜べば、良いのだろうか?リコは、少し戸惑い目を逸らす。普通の乙女なら胸キュンしているセリフだが、動じないリコにとってヒーローや王子様の様な存在を信じていない。リコにとっては、虫唾が走るのだ。
「そう言うヒーローものをやるなら他所でやって…キモいしうざい。鬱陶しい。今日出会ったばかりの君に話すんじゃあ無かった。無駄な時間で、無意味な時間だった」
「本気でそう思っています?」
「……そうだよ」
誰かに助けを求める方が嫌いよりも諦めている。助けてくれるのだろうと期待すればするほど裏切られた時が辛いからだ。何度も味わったリコにとって、あの日の栄に色々と諦めている。
リコは、呪われていると良い加減気づいている。あの日以来、祖母は、亡くなり両親も亡くなっている。あの幽霊が連れ去ったのだ。誰かを愛せばその誰かが死ぬ。かと言って、自分が可愛いとい理由で、死を恐れたリコは、古びた家に向かっていない。そもそも約束の日がいつなのか分からないのだ。
弁当箱をしまって折りたたみ式のレジャーシートを畳み水筒を取り出しお茶を飲む。
「僕は、無意味でも無駄な時間でもありません。運命の人に出会えた気分です」
「…本気でそう言ってるの?」
「はい」
こんな男子生徒が現実には、存在しない。多分きっと何か裏があると考えたリコは、嫌な顔になり
「運命の赤い糸とかで結ばれているとか言いたいの?」
「アニメやゲームの世界ならあり得ますね。ほら恋をすると電気が走った様な気がするって…実際に感情とかは、脳細胞に電気信号が異常をきたし勘違いから始まると聞きました」
「夢がない返答ありがとう…
恋する乙女や夢見る少女では無いから言うけれど、それを他の誰かに言ったら殴られるよ」
やっぱりこいつは、天然だと思いながらデリカシーも欠片もない翔にリコは、ため息を吐いた。きっとこの学校一番可愛いと言われる永瀬由麻なら怒るだろ。由麻は、可愛い顔をしているが性格が最悪だとに意識しているリコは、口を裂けても言わない。言えば、彼女のファンクラブの連中に血祭りをあげられる。そんなことを考えながらリコは、廊下を見た。
にっこり笑う生首が廊下に落ちている。男性の生首だ。リコは、ふとその生首を見て今朝の溝にハマっていた体の持ち主だと思い出した。
すると翔は、生首を持ち上げて外を見さした。
「体は、あそこにハマっていましたよ」
「アソコ……ある?オデの…体…あそこに…」
「はい。だからもう大丈夫ですよ。僕が届けてあげますよ」
「ありがとう」
そう言って翔は、投げた。勢いよく。可憐に素早く一瞬で飛んでいった頭を見たリコは、あの国民的幼児向けのアニメを思い出した。しかし、口にしたら負けだと思い違う事を言う事にした。
「よく飛ぶ頭…」
「点と点が繋がっていれば何処にいても元に戻るんですよ。僕は、魂を繋げただけです。喰われなければ彼もまた元の姿に戻りますよ」
「へー…」
その後も教室に戻るまで全く興味が無いので、ずっと話している翔の話を適当に返事をしたのがダメだったのか翔は、目を輝かせ
「リコさんにあげたお札も師匠から教えて貰ったものなんです!かっこいいですよね!凄いですよね!」
「そう…っで……ん?師匠の話は、何処から来たの?」
「え?言いましたよ?僕の力の話を?」
リコは、翔の話を全く聞いてない事をバレてしまった瞬間だった。