第8話 一件落着?
「なっ……殿下、何故……」
王太子殿下の当然の登場に大広間が騒めき、元婚約者は啞然とし尻餅を着いた。私自身も、混乱を極めている。可愛い癒しであるトム・ロマイの正体が、王太子殿下であると知らされたのだ。私は王太子殿下にお会いしたこともなく分かる筈がない。いや、きっと顔を知っていたとしても完璧な変身魔法を見抜くことは出来なかっただろう。
彼が身分と姿を偽り、何故この学園に滞在していたのか不思議でならない。
「それは勿論。君の動向を知り、アンネットを守る為ですよ」
「えっ……私ですか?」
元婚約者の言葉に王太子殿下が答えるが、それが益々私を混乱させる。只の伯爵令嬢に王太子殿下が動くことは有り得ないことだ。しかし彼が噓を口にしているようには見えない。
「殿下、そろそろ……」
「嗚呼、そうだね」
中年男性の騎士団長が、殿下へと近付き声をかける。その声に聞き覚えがあった。確かトムの姿をした殿下が裏路地で襲撃された後に、彼の身を案じていた男性の声と同じものである。王太子殿下が城下町に居るのだ。騎士団長が傍にいたことに納得がいくと同時に安堵する。
「エリック・フェレッタ。我々は君の実家であるフェレッタ侯爵家と、隠れ家も押さえてある。君の言うところの証拠と証人は沢山あるよ。それでもまだ、言い訳をするかい?」
「そ、そんな……こんな筈では……」
王太子殿下の凛とした言葉が大広間に響く。元婚約者は項垂れ、騎士団に拘束されると大広間を後にした。萎んだ林檎のような変わりように、先程まで抱えていた怒りが四散する。
「皆さん。ご覧の通り、プライマー伯爵令嬢は無罪でした。楽しい卒業パーティーを邪魔して申し訳ありません。これはほんのお詫びとお祝いです」
殿下は大広間に居る全員に聞こえるように声を張り上げると、指を鳴らした。すると大広間の高い天井に暗闇が広がり、色とりどりの花火が打ち上る。殿下の高度な魔法だ。夜空に咲く綺麗な花を目にし、歓声が上がった。
「アンネット、君はこっちだよ」
「ふぇ……は……はい」
花火を見上げていると、殿下に声をかけられテラスへと出た。