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第7話 彼の正体

 

「……っ!? 何だ、お前は! 邪魔をするな!」

「無実の女性を糾弾し、挙句の果てには手を上げるなど騎士としての誇りが無いようですね」


  元婚約者はトムの登場に驚きながらも、掴まれた腕を乱暴に振り払い。二、三歩後退した。


「いけません、ロマイ様! これは私の問題ですわ、ロマイ様を巻き込むわけには参りません!」


  私を庇うように立つトムに、退くようにお願いをする。彼はこの件に関して無関係だ。私の可愛い癒しに、火の粉が飛び移るのは何とも阻止したい。


「いや、これは私が貴女を巻き込んだことです。私にはその責任を取る義務があります」

「……は、はい」


  優しく微笑む彼に、私は何も言えなくなった。可愛いく癒しの存在からの、お願いを断れるわけがない。私はトムに従い頷いた。勿論、元婚約者がトムに対して暴挙に出る場合は即座に制圧するつもりである。


「カッコをつけたいのかもしれないが、その女は罪人だ! 退け、将来の道が断たれてもいいのか!?」

「ご心配なく、将来の為にこうして行動をしているのです」


  元婚約者の怒鳴り声に対して、凛とした態度も素敵である。流石だ。


「……なんて言おうが、プライマー家から違法魔法道具が売りに出され発見をされた。この事実は揺るがない!」

「ならば、伯爵家を家宅捜索したら良いではありませんか? 貴方が言うように本当に製造販売に関わっているならば、物的証拠が残っている筈です。それこそ動かぬ証拠になるでしょう」


  違法魔法道具を製造するには専門的な施設が必要であり、販売だけでもその証拠や痕跡は簡単に消すことは出来ないのだ。私は無実の罪を晴らせるならば、実家を捜索してもらっても構わない。私はトムの意見に同意するように頷く。


「なっ……それは……手続きが……」


 先程の威勢が消え失せ。歯切れが悪い様子の元婚約者に、嫌な予感がした。


「加えてアンネット様を問い詰めるよりも、当主であるプライマー伯爵に話を聞くのが筋では? 嗚呼……ですが話を聞くことも、家宅捜索も出来ませんよね? 正式な捜査ではないのですから」

「……っ!? 何が言いたい!?」

「貴方は自分の罪を、アンネット様に被せようとしましたね。突然の婚約は王太子が行っている取締りから逃げる為です。貴方は罪が発覚するのを恐れ、違法魔法道具の保管場所に困った。魔力の高いアンネット様ならば、多少使用した所で体調の変化は現れて難い。だから彼女の贈り物として、製造した違法魔法道具を紛れ込ませた。違いますか?」


  トムの核心を突く言葉により、婚約自体が利用されたものであることを知る。

  悲しくはない。涙も出てこない。但、感じているのは腹の底から湧き出でる怒りである。勝手に求婚をし、違法魔法道具の倉庫としての扱い、用が済めば婚約破棄。人のことを本当に何だと思っているのだ。私は強く拳を握る。


「ち、違う! 俺は侯爵子息で騎士団員だぞ!? そんなことをするわけがない! 証拠はあるのか!? 冤罪ではすまされんぞ!?」

「勿論、ご用意しております」


  見苦しく大声で喚き散らす元婚約者。可愛い癒しの前で醜態を晒さないで欲しい。今すぐにでも、トムの視界から消し去ろうかと考える。しかしトムは気にした様子もなく、笑顔で指を鳴らした。


「旦那ぁ……これ以上言い逃れは出来ないぜ……全部バレている……」


  再び大広間の扉が開き、騎士団員が五人の拘束された男達を連れて来た。男達には見覚えがあった。裏路地でトムを襲撃した人物達である。リーダーである体格の良い男は、項垂れながら元婚約へ言葉をかける。


「……っ!? し、知らないぞ!俺はこんな奴らは知らない! 誰かが……こいつが俺を陥れようとしている!!」


 狼狽する態度が、トムの発言を肯定していることに元婚約は気が付いていないようだ。そして何を血迷ったのか、可愛い癒しを指差すと苦し紛れに叫んだ。


「……嗚呼、自己紹介が未だでしたね」


  トムが再び指を鳴らすと、彼を中心に優しい風が吹いた。私の前に立つ背中が大きくそして高くなり、髪の色も茶色から金色へと変わる。


「失礼、私の名前はロベルト・エルトレムと申します」


  紺碧の瞳を輝かせると、彼は王太子殿下の名前を口にした。



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