第5話 波乱の卒業パーティー
「はぁぁ……緊張しますわ」
私は豪華なドレスに身を包み、学園の大広間前にて深呼吸をする。テオの襲撃事件から数ヶ月が経ち、本日は卒業パーティーである。
今日までトムとは特に何か起きることもなく、何時も通り陰から見守りながら本日を迎えた。
男装していたのが私であると気付かれる心配はあったが、私の魔法を駆使した男装は完璧だったようだ。寝込んでいた数日間、トムを観察することが出来ず。悔しい思いをしたが後悔はしていない。私に心の癒しを与えてくれた、トムを守るのは当然のことであるからだ。
楽しかった学園生活も今日で最後である。正直に言えば、婚約破棄をされた令嬢が一人で参加するのは勇気が居る。何故ならば、最後にダンスタイムがあるからだ。その時は壁の花を決め込むしかないだろう。
針の筵である卒業パーティーに参加した理由は一つである。このパーティーには、会を盛り上げる為に下級生も参加するのだ。勿論、トムである。
卒業をすれば会うことは出来ない。最後に彼を目に焼き付けてようというわけである。
因みに、私の身を心配した父が同伴すると申し出くれたが丁重にお断りした。癒しであるテオを観察するのに集中する為である。
エスコートしてくれる相手は居ないが、私にはトムとの思い出が詰まった魔法手帳があるのだ。寂しくも悲しくもない。
「行きましょう」
私は魔法手帳を胸に、大広間に続く扉を開けた。
◯
「はぁぁ……可愛い。本当に癒しですわ」
大広間の柱に隠れつつ、卒業生の為に動き回るトムを観察する。婚約者が居ない為、無駄な会話をする必要がない。更には私の境遇を知ってか誰も私に近付こうとしないのだ。癒しであるトムを観察することに集中出来るのは、幸運である。婚約破棄をされて良かった。
「でも……少しお疲れなのでしょうか?」
日々から彼を観察私からすれば、本日のテオには少し違和感を覚えるのだ。何がとは言い表すことは出来ないが、彼が何時もと違うということを感じる。それが卒業パーティーという普段と違う雰囲気によるものかもしれない。ただ私には何処となく、彼が疲れているように見えた。
「全員、動かないでいただこう!」
突然、大広間の扉が乱暴に開かれ、数名の騎士団員が入室した。突然の事に先程までの楽しい空気が四散する。ざわめきながら教職員が騎士団に近付き説明を求めている。王都の治安維持に努めている騎士団が、学園の卒業パーティーに乱入するというのは由々しき事態だ。
「プライマー伯爵令嬢! 前に出たまえ!」
「っ!?」
騎士団の制服に身を包んだ、元婚約者であるエリック・フェレッタ侯爵子息が私の名前を呼んだ。貴族の義務を放棄し、自分勝手な行動をする不愉快極まりない存在である。彼とは婚約後の食事以来、会っていない。一体今更、私に何の用があるのか、予想する事も出来ない。だがこの状況を作り出した原因が私にあるのならば、事態の収集を図る必要がある。
「私は此処ですが、騎士団が何用ですか?」
私が広間の中央に歩み出た。すると私に視線が集中する。
「アンネット・プライマー伯爵令嬢! 国家反逆罪で捕らえる!」
「えっ!?」
元婚約者は、氷のように冷たい瞳で私を見下ろした。