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明けない夜は無いと君は言った

「お前の攻撃はヘロヘロしているな。美玖。」

未来虹は肩で息をしながらヘタリこんでいる美玖を睨んだ。

「いやいや、ヘロヘロと言うより、ヘニョヘニョですね。」

陽世はしゃがみ込んで下から美玖の顔を覗き込んだ。

「いや、そこはヘロヘロでいいだろう。」

未来虹が陽世に突っかかる。

「いやいや、ヘニョヘニョですよ。」

陽世は未来虹の言葉に耳をかざす、美玖を木の棒で突き始めた。

「やめないか!美玖はヘロヘロで動けないんだ。しばらく休ましてやれ。ヘロヘロなんだから。」

未来虹はコレでどうだと言わんばかりの顔で陽世をニヤニヤしながら見返した。

「いやいや、美玖はヘニョヘニョで動けないんですよ。あたしは今ヘニョヘニョを治してあげてるんですよ。」

陽世は美玖を棒でツンツンしながら未来虹に舌を出した。

「こんの!お前頭悪いくせに生意気なんだよ!」

未来虹が顔を赤くして怒った。

「ハルは頭悪くないです〜。頭悪いって言った方が頭悪いって知ってますか。顔が赤くなってましゅよ、お猿さん。」

頭を指でクルクルする仕草をしながら、未来虹の振り下ろした棒を避けた。

「猿帝をなめるなよ!」

未来虹が棒を巧みに振り回し、カンフー映画のようにポーズを決める。

「犬王の恐ろしさを思い知るです。」

陽世は四つん這いのような低い姿勢をとった。両者が睨み合い、緊張が走る。

「アホですか、2人とも。」

涼やかな声が2人を制した。茉莉は2人の間に割って入ると、交互に睨みつけた。

「アナタもこの一年間、ヘロヘロだのヘニョヘニョだの言われながら良くもまぁ毎日挑み続けますね。」

茉莉は文句を言う2人を無視しながら美玖を見下ろしていた。

「・・・強く・・・ならなくちゃ・・・」

ヨロヨロと美玖が立ちあがろうとするが、倒れてしまった。

「・・・仕方ないですね。」

やれやれと言った顔で茉莉は美玖に手を出して立ち上がるように促した。意識が薄れていく中、美玖は茉莉の手をとり立ち上がった瞬間意識を失った。

5時間後

美玖はハッと息を吐いて飛び起きた。

「痛っ!」

強打した首や、左手に激痛が走る。「ここは・・・」と見回すと四畳半程の和室の布団の上にいることがわかった。枕元には甘い香りのするお香が焚かれていて、静寂が包んでいた。

「ようやく起きましたか。」

襖の向こうから聞き慣れた声がして、茉莉が入って来た。

「あの、ここは」

美玖はこの屋敷で1年住んでいるがこの部屋は見た事がなかった。

「ここはお屋敷の離れです。大きな怪我や、魔力が枯渇した時に使用する特別な部屋です。」

茉莉が「コレを飲みなさい」と美玖にお茶をだしながら言った。

「こんな所があるなんて初めて知りました。」

体中が痛く、口の中も切っていて沁みるのを覚悟したが、美玖はお茶をゆっくりと口に含んだ。すると体中の痛みが消え、傷が無くなっていくのがわかった。

「すぐに飲ませてあげたかったのですが、あまりにもボロボロだったので少し回復してからと思ったので先ずは寝ていただきました。」

茉莉はいつものように無表情だったが、この部屋も、お香も彼女が用意してくれたのは明白だった。

「ありがとうございます。茉莉さん。」

美玖は布団から出て深々と頭を下げた。

「礼はいりません。それより、湯を浴びて来なさい。話はそれからです。」

茉莉が少し微笑んだ様に見えた。


「・・・さて、今後の計画を話したいのですが・・・なぜ、アナタ達もいるのですか?」

茉莉は美玖の横にちゃっかり座っている未来虹と陽世を睨みつけた。

「言われてるぞ、猿。」

陽世がお茶をすすりながら未来虹をチラ見する。

「お前の事だ、駄犬。」

未来虹もお茶をすすりながら陽世を見返す。

「あのー、私を挟んでバチバチするのやめてもらえますか。」

美玖は今にも殴り合いを始めそうな2人に挟まれて軽く引いていた。

「・・・まぁ、いいでしょう。時間を無駄にしました。本題に入りましょう。アナタがこちらにいられるのも後2年が限界です。アナタ達の世界の時間で2日です。なので特別に私が指導してあげましょう。」

茉莉がコレでもかといったドヤ顔をした。

「えー、あたし達だけで充分だよー。」

陽世がブーブーと言いながら口を尖らせた。

「はい、はい。この1年何の成果も出さなかった人の言葉とは思えませんね。まぁ、フェイントや、駆け引きは上手くなりましたが。」

茉莉は「口を挟まないで下さい。」と2人を睨みつけた。

「私なりにアナタの超能力ちからについて考察しました。アナタは内包している超能力を上手くコントロール出来ていません。パワーを瞬間的に集中することが出来ない。ここまではあっていますか?」

美玖は静かに頷いた。

「アナタは以前トリガーの話をしましたね。」

茉莉が口にしたトリガーと言う言葉に美玖は不思議そうな顔をした。

「トリガーってあのトリガーですよね。」

美玖は茉莉に怪訝そうな目を向けた。

「そう、アナタのお友達が能力発動時に持っているライターやバットの事です。そもそも何の為にそんなものを持ってるんですか。」

茉莉は美玖が曇った表情を浮かべているのを構わず話を進める。

「トリガーは超能力の発動の確率を上げる為に使う物です。そもそも私たちの使う超能力は普通の人には使えない、あり得ない能力なんです。超能力を保有している人でも、絶対に使えると信じていなければ発動しません。つまり私たちはこの有るか無いかわからない能力を信じ切らなければいけないんです。その為にその力を連想させる物を持ったり、発動時に持っていた物を持つ事で確実に能力を発動させているんです。」

促されるまま美玖がトリガーについて説明した。

「それがそもそも違っているんですよ。聞きますが、アナタのお友達はそれが無いと超能力は使えないんですか?」

茉莉は人差し指を立ててチッチッチッと指を振った。

「・・・使えます。」

美玖がそう言えば・・・と声を漏らす。

「よりイメージを強化すると言うところは間違いないでしょう。でもそれは発動の確率を上げる為ではなくて、能力自体の強化の為だと結論付けました。」

そう言うと茉莉が白いヘッドホンを出して来た。

「え、それ私の・・・」

美玖は見覚えのある白いヘッドホンを手に取った。

「今のあなたに必要なのはもっと自信を持つ事と、没入するような集中力です。考えながら戦っていてはダメです。戦略を練り、戦う前に勝利すらイメージを持って戦う事が大切です。」茉莉は天才ですから!とドヤ顔しながら言った。

「・・・うん、ありがとう。っていうかこのヘッドホンどうやって手に入れたの?」

そんな事よりと言いたそうな顔つきで美玖が聞いた。

「ああ、それですか。あなたのお姉様からお預かりしたのです。あなたの魂の所在を知っていると言ったら殺されそうになりました。あの人は人間ですか?強すぎます。」

茉莉は思い出したのか一瞬ぶるっと震えた。

「あぁ、お姉様から伝言です。強くなって帰って来なさい。そうしたらアナタに返したいものがあるから・・・と。」

茉莉は「おしゃべりは終わりです。」と言いながら襖を開け、促すように出て行った。


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