表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

すれ違う2人が出会うまで

「あれ?京子まだ来てないの?」

史帆は事務所の中をキョロキョロと見回した。

「多分、久美さんの所じゃないですか。毎日のように行ってるみたいだし。」

鈴花はニヤニヤしながら史帆を見た。

「ずーるーい!久美と1番仲良いのあたしなんだけど!」

史帆はバタバタと地団駄を踏んだ。

「来た瞬間から騒がしいなぁ。」

愛奈が眉間にシワを寄せる。

「なんなのよ!京子ばっかりズルい!この間の人型だって・・・一撃って。いつの間にあんなに強くなったの!あたしも、今から久美の所に行ってくる!」

まぁまぁと言いながら優佳が史帆にペットボトルのお茶を渡す。

「一撃って言うか、あの人型久美さんの攻撃で瀕死の状態でしたからね。・・・まぁ、それにしても想定外の威力でしたけど。」

鈴花は思い出してブルっと震えた。

高尾山の一件から3日が過ぎていた。久美も美玖も意識が戻らない状況が続いていた。メンバーはアイドルとしての仕事をこなしながら、毎夜続くナイトメアの討伐を繰り返していた。

「感情が爆発したんでしょ。京子は普段怒らない分怒った時が怖いのよ。」

愛奈はコーヒーを片手に英字新聞を読んでいた。

「感情のコントロールは大切ですよ。わたし達の超能力ちからは感情に左右される部分が多いですからね。」

優佳が物陰から現れ、何を読んでるんですかーと愛奈を後ろから覗きこんだ。

「わ、びっくりした。」

愛奈が驚いて新聞紙をクシャクシャにした。

「TheNew York Times懐かしい〜。後で読ませて。」

優佳がニコニコしながら言った。

「いきなり後ろからこんといてな。・・・まぁ読み終わったらええよ。私もこれから出かけなあかんし。」

愛奈は新聞に目を移し静かに返事した。




今日も久美の病室には、京子が来ていた。シンガーとしても認められ、個人の仕事も多くこなし、合間を見ては久美を見舞っていた。そしてベッドの横の椅子に座りながら寝ていた。

2人の出会いは6年前。久美が17歳、京子が16歳の頃だった。幼少の頃から久美は超能力研究の被験者として、国の研究機関に保護されていた。日本の超能力研究は遅れており、どう進めて行くべきなのかを専門家達が議論していた頃だった。久美の超能力は強力で、他国に知られれば暗殺の可能性さえあった。しかしながら日本の超能力研究は低く見られていた事もあり、あまり注目を浴びなかった。久美は監禁などされる事なく、学生生活を送りながらバイト感覚でプロジェクトに参加していた。そんなある日プロジェクトリーダーの女性から呼び出された久美は京子の存在を聞かされる。

「ねぇ、久美ちゃん。ある女の子をスカウトして来て欲しいんだけど、お願い出来るかなぁ。」

美人のメガネ女子。久美の憧れの人だ。

「どんな子なんですか?」

久美は興味津々の面持ちで問いただした。

「ふふ、興味津々って顔ね。とっても可愛い子よ。でもね、彼女は今自分の力をどう使っていいのか悩んでるの。あなたが力になってあげて欲しいの。」

イタズラっぽい笑顔で久美をみた。

「私も、昔はどうしていいか分からなかった。お兄ちゃんにしか相談出来なかったけど、誰か1人でも悩みを知ってくれていると安心したんです。私その子に会ってみたい。悩んでるなら助けてあげたいです。」

自分と同じ思いをしている子がいる。そう思っただけで胸が締め付けられる想いだった。

「久美ちゃんならそう言ってくれると思ったわ。彼女、今近くにいるみたいだから会ってみない。」

不思議な笑顔。(この人のお願いを断れる人っているのかしら)そんな事を思いながら「会いたいです。」と言っていた。


(・・・な、何じゃこりゃ〜)

久美は東京の街中にポツリと出来た工事現場に連れて来られた。そこにいたのはまるで人形のような女の子と、野太い腕にタトゥーが入った男達の横たわる姿だった。ゴスロリコーデにハーフツイン、帽子のヘアアクセをつけた女の子が、横たわる男達を睨みつけていた。久美17歳、京子16歳、衝撃の出会いだった。状況が掴めずあたふたする久美をゆっくりと顔を上げながら京子が睨んだ。

「あんた、何?こいつらの仲間。」

可愛らしい風貌からは想像できない程の低音で久美を睨みつけながら京子が言った。(何この子。めっちゃ怖いんですけど)そう思いながらも久美は後ずさらなかった。ここで下がってしまったら京子を拒絶しているように思われるからだった。

「荒れてんね。ちょっと落ち着いてお茶でも飲まない。」

久美は一歩前に出て京子に微笑んだ。

「・・・何それ、新手のナンパ?マジうけんだけど。」

京子は戸惑っていた。この状況を見たら悲鳴を上げながら化け物を見るような目で走り去って行くのがいつもの事だったからだ。

「ねぇ、冗談抜きでちょっと話さない?私、あなたと話したいの。」

久美は真剣な顔で京子を見つめた。

「・・・つまんなかったら帰るわよ。」

久美の真剣な表情に押され、京子はしぶしぶ話しを聞く事にした。

「おいおい、ホントにめっちゃかわいいじゃん。」

工事現場の入り口からゾロゾロと男達が現れた。格好はそれぞれだが、全員でかい体にタトゥーが入っている。

「えー、あいつらやられてんの!?ウソだろ!」

「なんか持ってんのか!この野郎!」

「あーあ、こりゃ慰謝料だなぁ。まぁこれからたっぷり払ってもらうけど。」

7、いや8人。ゆっくりと京子達に近づいて来る。

「おい、お嬢ちゃん。選ばせてやるよ。抵抗しねーなら優しくしてやるぜ。抵抗するならちょっと痛い目をみてもらうけどな。」

リーダーらしい男がニヤニヤしながら言った。京子はうつむきながら、肩を揺らしていた。

「可愛そうに、震えてんぞ。おーよしよし。優しくしてあげまちゅよ。」

ニヤニヤしながら男達が詰め寄って来る。

「・・くっ、くっ、ヒーダメだ〜ムリムリムリ。めっちゃ笑える。」

京子は体をくの字にして笑い出した。その異様さに男達は立ち止まった。「あのー」

「あいつ怖すぎて頭いかれちまったんじゃねーの。」

1人が言い出すと男達は一斉に笑い出した。「あのー」

「いや、いや、鏡見てこいっつーの。・・・くひっ。」

京子はもうたまらないと笑いながら言った。「あのー」

男達の表情がガラリと変わった。

「おい!下手に出れば調子に乗りやがって!」「あのー」

「後悔させてやんぞ、コラ!ビデオ回して稼がせてもらうぜ。」「あのー」

「おい、顔はやんなよ。まぁ、きっちりけじめつけさせろや!」「あのー」

リーダーらしい男の言葉で男達が一斉に声をあげて突っ込んで来る。

「・・・ちょっと!完全に巻き込まれてるんですけど!」

「あのー」と言い続けたが無視され続けた久美が京子にキレた。

「あ、いいよ帰って。」

京子は久美に手を振って笑顔を見せる。・・・ブチッという音と共に久美は一瞬よろけ、完全にキレた。大声を上げて男達が後数歩という所まで押し迫って来る。

「・・・うるさい。」

久美が小さな声で呟くと、ドン!という音とともに男達は地面に這いつくばっていた。久美のグラビティコントロールによって全員に300キロ以上の重さがかけられていた。なんとか意識を持っている者もいたがほとんどは意識を失っていた。

「・・・あんた・・・」

京子は久美を見て何かを言おうとしたが、ゆっくりと目を閉じて言葉を飲み込んだ。

「あとはアンタだけだな。」

京子はリーダーらしい男に言ったが、多分男には聴こえていなかった。何が起こったかわからず、逃げる事も、叫ぶ事も出来なくなっていた。「アホくさ」京子が男の持っている携帯を爆発させると、男は爆発音と、痛みで意識を取り戻し、叫びながら逃げていった。

意識を取り戻した男達に全員連れ出させ、工事現場には久美と京子が2人になった。どちらも目を合わせず、言葉も発しなかった。外の喧騒とは裏腹に工事現場は静寂を保っていた。

「いつもこんな事してるの?」

久美は思い出した様に口を開いた。

「別に・・・巻き込まれてるだけだし。」

京子ほパタパタとスカートのすそを払った。

「それよりさ・・・あんたも使えんの?超能力。」

京子は口にするのをためらったかの様に言い淀んだ。

「あんたじゃない。久美・・・生天目なばため久美。」

久美は横目でチラッと京子を見ながら言った。

「わたしは安居院あぐい京子。初めて見た。わたし以外の超能力者。」

京子はどこかソワソワしながら久美をチラチラと見ていた。

「ここじゃなんだし、場所変えようか。」

久美はそう言うと工事現場のフェンスから顔を覗かせタイミングを見て京子に出てくるよう合図した。


2人は喧騒に紛れて小さな喫茶店に入っていた。

「改めて、私は生天目久美。よろしくね。」

久美は笑顔で京子を見つめた。

「私は安居院京子。16よ。あんたは?」

京子はまだ警戒を解いていなかった。

「あんたじゃ無い。久美よ。ちなみに17歳。1個上だから。」

久美はふふんとドヤ顔した。

「何それ。別に年上だからって敬語とか使わないわよ。」

京子は何よ!といった感じで頬杖をついた。

「ふふ、生意気ね。・・・そうね、何から話そうか。」

久美はポツリポツリと読み聞かせるように、自分の生い立ちを話し出した。子供の頃の事。超能力を初めて使った日の事。兄を怪我させてしまい、家族から距離を置かれてしまった事。

「なんでかなぁ・・・こんな事話すつもりじゃ無かったのに。なんか全部話せる人がいるって思ったら止まらなくなっちゃった。・・・っちょっ・・・なんで?なんで京子が泣いてるの。」

久美はポロポロと涙を流しながら、肩を震わせて泣く京子を見た。さっきまで大男と喧嘩をしていたとは思えない程、小さく可憐だった。

「・・・わたしも・・私も同じだから。」

京子は唇を振るわせながら、呟くように口を開いた。

「私も家に居場所が無いの。まぁ、自分のせいではあるんだけど。超能力を使うことがどういう事かも考えずに、好き放題やったから。腫れ物に触るように扱われて、普通に会話出来なくなっていったの。」

京子の目からは感情が失われ、「ははっ」と乾いた笑いを漏らした。

「居場所が無いなら作ればいい。ううん。私が作ってあげる。京子、今日から私の隣があなたの居場所よ。」

京子の話を黙って聞いていた久美が顔を上げ、京子を見つめた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ