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超能力アイドルの憂鬱な夜

「ねぇ、見て夜景が綺麗よ、鈴花。草」

「わぁ、ホントだぁ。綺麗ですね史帆さん。草」

東京都八王子市ー山中。いつものように仕事終わりに連れ去られるように現場に来た、史帆と鈴花。2人の目はどんよりと死んでいた。

「ライブ前のさ、通しのリハってホントキツいよね。」

史帆は遠い目をしながら、夜景の見える公園のベンチにへたり込んだ。

「やばいですよね。空気感とか。ピリピリしてるし。新曲も初パフォーマンスだし、失敗出来ないプレッシャーを感じます。」

鈴花も隣に座る。

「でさ、なんで、なんでまたあたし達はここにいるの?」

声を荒げる気力も無いのか、史帆は呟いた。

「今回は史帆さんに同感です。さすがにしんどい。」

普段は文句を言わない鈴花も、さすがにぼやいていた。

「あんたさ、副隊長なんだから断るとかしなよ。」

史帆はプラスチック製のバットを振り始める。

「無理ですよー。こんな時ばっかり副隊長扱いしないでください。いっつも私がなんで副隊長なんだって言ってますよね。」

鈴花はゆっくりと立ち上がった。

「史帆さん、そろそろ来ますよ。」

鈴花の顔が険しくなった。

「さっさと終わらせましょう。」

史帆はバットを肩に乗せてトントンと叩いた。

静寂の中何かがゆっくりと近づいてくる。

「!・・・人?」

鈴花が眉をひそめる。(いや、そんなはずは無い。この辺一帯は自衛隊が封鎖してるはず。)

「史帆さん、変です。いつもと違います。」

鈴花の声に緊張が走る。

「わかってるわよ。あんたこそ、気合い入れなさいよ。」

史帆がニヤリと笑った。

近づいてくる人型の影。歩き方はぎごちなく、ヨタヨタと歩いている。黒い影のような人型のそれは、所々に赤い光が亀裂のように光っている。頭の部分には目も鼻も無く、口のようなものだけが大きくついていた。

「い#@☆ご・・・&$○・・・」

人型のそれが何か言葉のようなものを発した。

次の瞬間、人型のそれは炎に包まれていた。身の毛もよだつような嫌悪感が鈴花を支配していた。パイロキネシス(発火、燃焼)が鈴花の能力だ。人型の何かが人の言葉を話そうとしている。その事が耐え難かったのだ。人型のそれは炎に焼かれながら近づいてくる。史帆はプラスチック製のバットをテイクバックし、狙いを定めフルスイングした。バットから光の棒のようなものが飛んでいき、人型の頭部らしきものを吹き飛ばした。サイコキネシス(非接触による物体操作、念動力による物体の破壊)が史帆の能力だ。

「キモいんだよ。」

史帆は乱れた髪をかきあげ、人型だったものが霧散するのを睨みつけた。

「・・・」

鈴花はチリひとつ逃さない様な目でその光景を見ていた。現場はいつの間にか自衛隊員で埋め尽くされ事後処理が手早く行われていた。人型のナイトメア・・・こびりついた過去の記憶・・・。間違いなど起きない最強の布陣。全員が限界を超え、勝ったにも関わらず全員が救急搬送される事態となった。その時の記憶が鮮明に残っているのだ。


ー翌朝ー

「みんな、ちょっといいかなぁ。」

久美が緊張した面持ちで口を開いた。

「昨日のナイトメア討伐の件で鈴花から報告があります。」

久美が「お願い。」と言って椅子に座ると、鈴花がみんなの前に立った。

「昨夜23時21分八王子市山中にて、ナイトメアと接敵。形態、人型。身長180cm、全体的に黒い影の様な状態。体の一部がひび割れのような状態になっており、そこが赤く発光していました。頭部と思われる部分には目、鼻、耳などは無く、口のようなものがついていました。体の一部は湯気のようにユラユラとしていて、安定した状態では無いかと推測できます。また交戦前に言葉のような、何か音を発していました。歩行速度はヨタヨタといった感じで、歩く事が不慣れな感じがしました。」

鈴花は淡々と昨夜の事を詳細に伝えた。ざわざわと騒ぐメンバーの口を挟む余地が無いように業務的に話した。そう…人型。過去一度だけ出現し、メンバーに大きな被害をもたらした。久美、京子、陽菜、そして長期休業を余儀なくされた菜緒。苦戦するなど考えられない最強の布陣。勝ったにも関わらず全員が救急搬送される結果となった。メンバーはその時の記憶を鮮明に残していたのだった。

「ねぇ、あたしもいい?」

史帆がゆっくりと立ち上がった。

「アタッカーならわかると思うけど、あいつ硬かった。」

昨日の感覚を思い出すように左の手のひらを見る。

「さっき鈴花が言ったけど、多分あいつは完全体じゃない。なのに大きな岩を叩いたみたいに手がしびれた。」

本来なら攻撃の効かないナイトメアに対して、唯一の攻撃手段として超能力がある。超能力による攻撃もいくつか種類がある。能力による直接攻撃、体の一部に能力まとわせての打撃、能力をまとわせた物で攻撃、まとわせた能力を飛ばしての攻撃。どの攻撃方法でも術者の多くは触感に近い感覚があり、硬い、柔らかいなどを感じる事が多い。その為相手の強度や、反射スキルなどで衝撃が戻ってくるバックラッシュによるダメージを負うこともある。

「正直なところ鈴花のデバフが入って無かったらヤバかったと思う。」

思い出して史帆は苦い顔をした。

「最近ナイトメアの出現が頻発すぎる気がする。しかも同時に。意図的な物を感じるわ。」

愛奈がこめかみを押さえた。

「私もそう思う。私と美玖が担当した現場もファンシー系のナイトメアだったけどこれまでより強く感じた。」

久美は全員を見回すと

「作戦行動中は2人1組とし、各現場には4人体制で臨みます。私のサポートは沙理菜。美玖は私と同じ班でサポートは優佳お願い。京子のサポートは好花。史帆のサポートは鈴花。この2班で行動する。」

全員に緊張が走る。名前を呼ばれたメンバーは立ち上がって静かに頷いた。

「戦力的には芽依が欲しい所だけど、いざとなった時現場から救出出来るのは芽依だけだから明里と本部待機でのバックアップをお願い。彩花と美玲は対人能力なのでひよりと陽菜の面倒をみて。」

久美の言葉に一同が笑った。

「愛奈、本部はお願いね。」

久美は愛奈の肩を叩いた。

「任しとき。」

愛奈が微笑んで、親指を立てた。

「愛奈の予報だと今夜も2箇所に出現する。どちらかに人型が出る可能性もある。両方かもしれない。みんな気を引き締めて行こう。アイドルの仕事もね。」

全部乗り越えられる。そんな核心を持った久美の笑顔が憂鬱な朝のミーティングをプラスに変えた。

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