表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
268/280

268 火属性の守護者 vs シルエ

申し訳ありません

こんな時に火炎や土砂や濁流といった場面が続きます

更新を止めようかとも思ったのですが…

「ちょっと今は嫌かも」「不謹慎」と思われましたら、とばしてくださいませ

<(_ _;)>


「それから、『守護者』には核がある筈」


サラドに補助術をかけながら、ノアラは続きを述べる。


「核を砕けば、再生が不可になる…理論的には」

「ああ、なんか見えたな。崩壊中に一瞬チカッと、骨の隙間で」

「ノアラの魔力を吸った呪詛の土塊みたいなもの?」

「原理は同じかもしれない…が」


ノアラはソワソワと右手をギュッと握り開いた。急激に啜り取られた魔力が魔物化する感触を思い出すように。その経験から自魔力の結晶化を編み出したが、未だほんの小さな欠片が限界。


「ま、簡単には終わらせてくれないと思った方がいいね。四体が互いに力を補い合って、同時でないと倒せないなんて、それだけでもうどんな仕組みか謎だけど」


「調べられないのが残念だね~」とシルエが軽口を叩けば、ノアラは複雑そうに頷いた。


 ズズズ…と地揺れが強くなっていく。


「そろそろ破られる。時間が動き出す」

「もう待ったなしか。こうなったら、全力でやってやろうじゃない。因みに、僕の攻撃なんてあれしかないからね。核を探して壊すなんてまどろっこしいことしないよ。一撃で、塵ひとつ残さないつもり。唱え始めは合図する」


 座標を組み込んだノアラ謹製の魔道具を指し示す。確認のためにリン…と一度鳴らした。

察した三人は了承の意を示した。幾度とない闘いで、それぞれの技も癖も欠点も熟知している。術の発動までにかかる時間だって体が覚えている。離れた場所で間を合わせられるかは、その感覚が頼り。


「それで、誰がどこに行くか、だけど」


シルエが横目でディネウを見る。


「できればここは俺が…いや、俺に守らせてくれ」

「無論」

「ま、そうだよね。攻撃パターンも見えてきてるだろうし、その方が良いよね」


ディネウの懇願に弟たちの返答は早かった。


「ディネウはここでの方が本領を発揮できるよ」


サラドはディネウの頭の上や周りに目を遣って頷き、最後に暗闇で塗り込まれた先にある湖を見る。


「…悪ぃな」


サラドがにこりと笑み、シルエがひょいと肩を竦め、ノアラがこくりと頷く。


「他の『守護者』が出現している大凡の場所は推測できるけど。火山島にはどう行くか。他との移動時間の差をどう埋めるか。それまでディネウ一人でここを守るのか、それとも」

「あ、頼んである。最高位精霊が迎えてくれるって」


 問題点を挙げたシルエにサラドが何でもないことのように返した。


「えっ、本当に?」


どんな窮地であっても、解決方法を堅実に模索してきたサラドの言動に、シルエばかりでなく、ディネウもノアラも驚いている。


「それは助かる…けど、いいの?」


最高位精霊に頼み事など畏れ多いというのは、心持ちだけでなく、大き過ぎる力の影響が計り知れないからだ。

最高位精霊ともなれば、ほんの僅かな干渉であっても、この世界に満ちる魔力の均衡を崩す懸念がある。仮令、それが力の一部だけだとしても。


しかも、四大の最高位精霊から同時に助力を得られるなんて俄には信じられない。

比較的好意的な水と、自由闊達な風はまだしも、慎重で頑固な土、呪詛の件で火山島を沈めようとしたくらい立腹している火の協力があるとは。


(事は一刻を争う。きっと、サラドの決断は正しい。だけど…)


協力を願った事実に驚いているだけではなく、シルエの苦慮は力を貸してもらうための代償について。大きな力を持つ存在への見返りはそれなりに…。


「お願いします」


不安を口にするのを躊躇った間に、サラドの希う声は発せられた。


「えっ、ちょ…」

「!!」


 陽炎が立つ向こうから炎の腕が伸ばされ、サラドと手を取り合う。シルエは突風に攫われ、ノアラは足下に開いた深い穴の中へ――。



◆ ◇ ◆ 


 ゴウゴウと唸る風に巻かれたシルエは瞬きの間で王国の東、国境を為す崖山の裾野に降り立った。

鳥たちがバサバサと羽を打ち鳴らして逃げ惑っている。


「えっ、ちょっと…いきなり?! そりゃあ、サラドが火の元で、ノアラが不可侵の森に行くのは決まったようなもので、必然的に僕がここだろうけどぉ」


シルエの当惑と愚痴は間に合わず、音となって口から出たのは、ほぼ移動後だった。


――あら。ここに良い道があるのは確かだけれど、我らは場所に執着なんてないのよ。

あなたも、そうでしょ?


クスクスと笑う声が聞こえた気がする。脳裏に浮かぶ、鏡面のような大きな目と光を透かす玻璃のような翅。


――それ、人間が地中に置いていった忌々しいもの。何とかしてくれるのでしょう?


気の所為などではなく、雲の霞に見え隠れする透明の存在が、つい…と下を指す。

そこには、真っ赤に燃え滾る巨人、否、炎を纏った骸骨が仁王立ちでいる。


ここに不穏な雨雲はなく、闇も迫っていない。シルエたちが育った村を含め、近隣の町村からは巨大で異様な火の姿だけでなく、そこから染み出る瘴気も見えていることだろう。


「は…」と声とも息ともつかない音を漏らし、シルエは不敵に笑む。


「もちろん! 跡形なく片付けますとも」


 シルエは〝不死者の静止〟をかける。神殿での正式名称は『彷徨い惑う苦しみを救う詩句』で如何にもだが、その実は無理矢理に動きを封じるもの。

降り注ぐ光に火を纏う骸骨が吠えて抵抗するが、動きはぎこちなくなった。


空かさず杖の下方を蹴って勢い良くグルンと回し、二重円を宙に描く。左腕を真っ直ぐ前に伸ばし、杖を水平に構える。そこに右手を添えた。


「…理をはずれしものに…」


紡がれる言葉と手指の動きに応じて文様が円を埋め、白く輝きを増していく。


(人とは骨格がちょっと違うな。特に頭骨。獣じみた牙が剥き出しだし。あの突起は角なのか)


シルエは意識的にいつも通りにと、考え事をするくらいの余裕を持つ。


(…ていうか、骨、あるんだ。あの体)


ギチギチと抗う音が空を震わす。ギロと睨む目、歯軋りする口、縛めを破ろうと力を込めて震える腕。


(あー、やっぱり単に死出の旅路を惑う存在とは違って、抵抗力が凄まじいな。ノアラの術もないし、もう保たない…か)


抑え込まれていた分、炎が大爆発を起こした。

天を焼く勢いの火柱が立つ。


(あっぶな。もう一発同じ出力をくらったらヤバいかも知れない。火の範囲は…)


最大級の防御を自身にかけ、ノアラにより魔術耐性も上げているため、シルエが灰になることは免れた。肝が冷える。

炎の一部は反射して守護者を襲うが、ただ魔力が流れるだけだ。


悲鳴、右往左往する足音、舞う土埃。

人の生活圏にまで炎が到達していないか、シルエは横目でサッと確認する。

姿勢を変えられないので、遠くまでは見通せない。森の一部から煙が昇っているのを目で追ったら、長い翅と二股の尾が光に照り、流れて行くのが見えた。


守護者を閉じ込めるように風が囲ってくれているらしい。火の切れ端が斜めに空へ引っ張られ、消えていく。

お陰で燃え広がる範囲も限定されたようだ。


(感謝します!)


魔力を吸い尽くされないように精霊が手を出すことはなく、距離も一定を保っている。

遠くからであれば、大きな火災旋風に見えたかもしれない。


守護者が腕を振るうと炎が波のように襲ってくる。防御壁に阻まれて流れていても方法を変えることなく単調な攻撃が続く。


(魔力を溜めるのが主目的なのか、積極的に排除しようというより、ただ条件に従って対処するって感じ…かな)


「…憎むべきは業 その罪に裁きを 魂には救いを…」


直火で焼かれなくても硬い殻の卵に入ったような状態はだんだんと熱が籠もり、蒸し焼きにされそう。

シルエはそれでも詠唱の拍数を普段通り、一定に保つ。熱風で喉がひりつき、気を抜けばつかえて遅れかける。


(はは…。一人で攻撃の全てを受けるなんて、さすがにこれは…キツイ)


ふと、熱が和らぐ。守護者の攻撃に変化があったのかと思えば、違った。

防御壁の内側、シルエのすぐ近くでもやたら湿っぽい風が緩く巻いていることに気付く。キラリキラリと乱反射する無数の光が舞っている。

サラドが精霊に守りの助力を願っていてくれたのだろう。


(ありがとう!)


感謝の念を伝えようと目礼代わりに一度ぎゅっと目を閉じる。再び開いた時には目がチカチカとするほどになっていた。


(前が見えにくい…。あ、違う。これは精霊の光じゃなくて、体が…ヤバ…)


じりじりと足の幅が開いていく。膝から力が抜けそうになる。

そうして、詠唱は結びの言葉に辿り着いた。


「…二度と拝めぬ光への渇望に その身を焦がせ」


クルリと手首を返して、杖の石突を下にしてトンと立てる。

術が静かに発動し、無慈悲な閃光が火を纏う骸骨を穿く。

太陽を呼び寄せたかのような白い光は赤い火の熱に勝り、骨をも蒸発させる。


(あれは…核?)


最後にチカッと光ったものを風の最高位精霊がふわりと手で掬い受けたように見えた。


あとには塵ひとつ残っていない。


(よし。一、二、三…)


心の中で十まで数えた。守護者が蘇る気配はない。


「…終わった…のか」


杖を支えにしてズルリと頽れる。


「ははっ。失敗しても成功するまでやるだけ、って思っていたけど。一発で終了だなんて僕の兄弟、さっすが」


シルエはぐるりと周囲を見渡した。残り火は見当たらない。

嘗て集落と畑があり、長く放置されていた平地が、野焼きされた後のようになっている。幾らか緑が回復しだした山に被害はなかったようで、ほっとした。


「さぁて、もう…ひと仕事…」


膝を突いたまま、力を振り絞って一帯の浄化に臨む。シルエを火から守っていた水蒸気に日暈がかかる。瘴気が払われる間、神秘的な七色に光る輪は現れ続けた。


(今って、こんな時間だったんだ…)


炎で赤と同化していたのか、陽は茜色で、空の端から宵の色が覗き出していた。


――ここはもう大丈夫よ。あとは下位の精霊(小さきもの)たちが見回っているわ。お行きなさい


頭に直接響いてくる声に、シルエはハッと我に返った。

装身用の魔道具に触れる。


「ノアラ! 僕をそっちに引っ張って!」




ブックマーク ありがとうございます

(* ᴗ ᴗ)⁾⁾

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ