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FPSがしたいので

 

  『ゲームしたい。』


  いつも終電を逃して食事と寝床を求めてやってくる椿からそんな電話を貰ったのは、琴葉を風呂に入れて着替えを用意してやっている時だった。


  「は?ゲーム?」

  『同期がさ…なんか、オススメしてきて。なんて言うの?銃でバンバン撃ち合う〜…あの〜…』

  「FPS?」

  『それだ。で、スマホになんかインストールしたわけよ。それを…んだらさ、ハマっちった。』


  電話越しにてへぺろしてる椿が目に浮かぶ。


  『で、そ〜いやハルやってたな〜って…だからさ、今日やろーぜ?殺し合い。』


  嬉々として弾む声でとんでもなく物騒な提案が飛んできた。そんな椿の声音にあぁ、こいつも疲れてんだな…って思った。


  まぁ、確かにFPSはストレスの発散にはいいかも。爽快だし…

  ただしそれは、「勝てる時」だけ。負けがこむとイライラしてくるのは俺だけだろうか?

  多分椿も同じタイプだと思うんだけど…昔あいつの部屋で一緒にス〇ブラやったら連勝してブチ切れられた。

  椿はゲームで熱くなってしまいにキレだす一番一緒にゲームしたくないタイプ。


  そんな椿がハマったのなら、もしかして強いのかもしれない。オンラインなのかプライベートマッチでフレンドとやっているのか知らないが、勝っているからハマったんだろう。


  え〜…やだな。負けたくない。


  やっぱりあの手のゲームは勝たなきゃ面白くない。


  『10時頃そっち行くね?』

  「は?10時?お前今日は定時なのか?」

  『いや10時が定時なわけあるか。まぁでも今日はそんな遅くはなんないかな…?だからゲームやろ?ね?』

  「……電車あるなら帰れよ。」


  一体何をしに来るんだこいつ。しかも早く終わるから家寄るって22時って早くねぇし。いつもよりは早いけどそんな時間に突然押しかけてくるとか俺以外なら普通に迷惑なやつだし。


  なんか椿の中で俺に対する配慮とかがなくなってきてる気がする。長い付き合いの弊害だ。


  「…別に来なくてもできるだろ?」

  『え?来んなってこと?なんか都合悪い?』

  「普通22時に他人の家にゲームしに来ない。大学生か。別に悪かねぇけど…」

  『いーじゃん。こういうのは隣でわいわいやるのが楽しいんだよ。じゃあ、ビール買ってく。』

  「ビール家あるし、ウイスキーがいいな。あと豆腐買ってきて。後で金出すから。」

  『おっけ。ウイスキーと豆腐ね?私はビールの気分なので冷やしといてください。』

  「飯は?」

  『食べてく。じゃ後で。』


  迷惑な友人はそれだけ言って通話を切った。

  でも、俺は騙されない。

  「○○時に行くね。」と言って、やつがその時間に来たことは無い。大体残業かなんかで3時間くらい遅れて来る上、約束を取り付けるのはいつも夜だ。たまったものじゃない。

  俺はそれを見越してつまみの準備をしようと…いや、ビール飲むなら買ってきた豆腐で冷奴でいいか。俺もビールにしよう。


  「兄ちゃん!上がったよ?眩しくて見えない!」


  脱衣所からそんな琴葉の声を聞いて、俺は慌ててそちらに向かう。多分奴が来るのはいつも通りの日付が変わる頃だ。

  それまでゆっくりしようと……




 ※




  「お〜っす。」


  本当に22時に来た。

  玄関先で陽気に手を挙げる椿を目を丸くしながら出迎える。スマホの時刻は21時47分。なんなら早い。


  「はいこれ。豆腐と酒と…あとお客さんにクッキー貰ったから琴葉ちゃんに…」

  「……普通に帰れよ。」

  「んん?なに?なんか怒ってる?」

  「……いや。」


  こんなこともある。俺は椿を招き入れて玄関の鍵を閉めた。


  「風呂は?」

  「後でいいや。琴葉ちゃんは?」

  「もう寝た。起こすなよ?じゃあ酒か?」

  「ん。あ、チン借りていい?やっぱめんどくさくてコンビニで買ってきた。」


  コンビニ袋を掲げて椿が言う。中身はレンジチルド麺だろうか。電子レンジで温めるだけで食べれるやつだ。


  「だったら電話しろよ。作ったのに…余ってるし作ろか?」

  「うわぁ溢れ出るお母さん力…ハルがお母さんだったら良かった。」

  「やかましい。」


  戯言をほざく椿が居間にジャケットを脱ぎ捨てて台所の電子レンジへ。眺めながら俺も一応軽い軽食を用意する。


  「暑い…クーラーつけよ?」

  「は?まだ5月なんだけど?」

  「いやいや、暑いって外。スーツで歩き回ってみなよ?死ぬよ?溶けます。」


  シャツの胸元を大胆に開け放しバタバタとつまんで扇ぐ。その間に電子レンジの中で二郎系ラーメンがくるくる回っている。


  「冷奴食べる?」

  「食っべる〜。あと、生卵もね。」


  チンが終わる頃に俺のつまみの準備も出来た。

  熱々のラーメンを大事に抱えて居間に移動する椿に、卵と冷奴とビールをお盆に乗せた俺も続く。


  「…こんな時間にそんな重いものを…太るぞ?」

  「なっ…いいんだよ。野菜いっぱい乗ってるし。」


  二郎系ラーメンといえばてんこ盛りの野菜。食べたことないけど。


  「いっただきまーす。」

  「ゲームすんじゃねーの?」

  「待って待って。食べてから。熱っ!」

  「…卵は?」

  「ん?あぁ…あんねー。生卵に麺つけて食べるんだ〜。美味しいんだよ?すき焼き風。」

  「…へぇ。」

  「ハルも食べる?」


  と、割り箸でつまんだ麺をこっちに押し付けてくる。熱そう。


  「いいや。じゃああれ?別で皿に卵開ける感じ?」

  「食べなよ。美味いのに…そうそう。卵にくぐらせて〜…」

  「別で皿持ってきてやるよ。」


  椿が麺をすするのを横目に俺は台所から底の深いお椀を持って戻ってくる。ついでに卵ももうひとつ。


  「せんきゅー。」


  椿がお椀に卵を落としてかき混ぜているのを眺めながら、俺は冷奴を口に運んでビールを飲む。

  社会人になってから酒ばっかり飲んでる。将来お腹が出てこないか心配だ。

  ……まぁいいか別に。出ても。

  自分の容姿にこだわりがないので、デブっても禿げてもいいや。


  「ほらほら、ハル。こうやって食べんだよ。」

  「ん?」


  椿が声をかけてくるのでそっちを見ると、生卵と絡んだ麺が黄色く輝いている。確かに美味そう。


  「あ〜ん。」

  「いいって。」

  「ほらほら、一口。ほらあ〜ん。」


  ……なに?めっちゃ食わせようとするじゃん?


  「……。」


  あんまりしつこいので仕方なく一口。このまま拒否を続けたら頬っぺに押し付けられて火傷しそう。


  椿から箸を奪い取って麺をすする。確かに美味しい。ラーメンに卵ってそういえばトッピングでもあるしそりゃ合うか。

  生卵につけただけで確かにすき焼き風。濃い味のスープの絡んだ麺が生卵でマイルドになってる。


  「どーだ美味かろう?コンビニのラーメンもバカにできませんぞ?」

  「ハイハイご馳走様。」


  一口食わせて満足したのか椿は自分も卵に麺を絡めてすする。湯気で眼鏡が曇ってる。


  「夜中の10時にラーメンとビール…やばい……」

  「だから言ったじゃん。太るよ絶対。」




 ※




  ラーメンを完食した椿が冷奴をちびちびつまみながらスマホのホーム画面をドヤ顔で見せてくる。


  「ほらぁインストールしたんだよぉ!やろーぜ?殺し合いしよ。」

  「殺し合いになればいいけど…俺のひとり遊びかもしれんぞ?」

  「それなんだっけ?ハンターのジン?」

  「暗黒大陸もう行った?」

  「まだじゃない?」


  元々PC版のFPSゲームだったみたいだが、最近スマートフォン版がリリースされたんだとか。詳しくは知らんけど。俺は動画配信サイトの実況配信で知ってインストールした。


  FPSはそれほどしたことはない。スマホゲームのFPSで有名なやつなら4作目と5作目を少しプレイしたけど、下手くそすぎてやめた。

  それに比べたらこのアプリは遊びやすい印象。まぁそれほどやりこんでいる訳でもないが。


  とりあえずフレンドになってプライベートマッチ。タイマンだ。


  「よっしゃ叩きのめしてやる。」

  「あんま大声出すなよ?」


  キルスコアの多い方の勝ち。スコア上限は5キルで2ラウンド先取。


  「…ハル、最近仕事どう?」

  「出た。話題振って気を逸らしてくるやつ。無駄だよ。」

  「そーいや、こないだ話した後輩。結局40代のおじさんと付き合うことになったって。」

  「絶対嘘。」


  1キル。先取点。


  「おおおっ!?」

 

  この1回で察する。こいつ弱い。

  マップが狭いのでリスポーンと同時に撃ち合う。共に武器はアサルトライフルだが、椿のこれが当たらない。かすりもしない。


  「ぎゃあっ!?」

  「弱。」

  「おい。弱いとか言うな。やめろ死体撃ちすな。」


  足下に転がる椿の死体を撃ちまくる。本当はマナー違反だがフレンドマッチだしいいや。


  「死ねぇぇぇぇっ!!」

  「ヘッドショット。」

  「うわぁっ!」


  3キル。弱すぎる。


  「ハル。ハル。あなたエイムアシストオンねさては?ずるい。」

  「ノー。ノーエイムアシスト。」


  初心者の癖に意外と知ってる。4キル。


  「ちょっとぉぉ?嘘だぁ。壁!壁!!壁抜けんのかこれ?」

  「いや丸見え。雑魚。」


  このままではぼろ勝ちだ。アサルトライフルからハンドガンに持ち替えて突っ込む。


  「おらぁぁぁぁぁっ!!」

  「バンバンバン。」

  「いやぁぁぁぁぁっ!」


  1ラウンド終了。…つまんな。


  「…雑魚め。」

  「は?ふざけんなし。チートだチート。だって壁抜けてたもん。」


  2ラウンド目が始まる。2ラウンド目以降は負けた側が武器種を指定できるらしい。


  「私ライフルの方が得意なんだね〜実は。」

  「やめとけ。」


  2ラウンド目。ここで勝てば試合終了だ。狭いステージなのでスナイパーは使いずらいが…


  「ばきゅん。」

  「ほわっ!?」


  ぼろ勝ちだ。結局10キル。無失点勝利。本当に殺し合いにならなかった。一方的な殺戮だ。


  「……。」

  「まだやるー?」


  訊きながら俺は次のマッチの部屋を立ち上げる。どうせまだやるだろう。戦意喪失するまで付き合ってやろう。


  「……やる。」

  「おっけーいらっしゃい。」


  別にハンデのつもりは無いが、最初からハンドガン。ただしカスタムもりもり。単純にハンドガンが好き。あと普通に強いし。


  「うちの部署に岡部って主任がいるんだけどね?」

  「うん。」


  早くもゲームの中での会話が消えた。椿に相槌を返しながら1キル。普通に危なかった画面が真っ赤だやばい。


  「あっあっあっ!今!今死にかけたでしょ?よっしゃ!」

  「喘ぐな。で?岡部さんがなに?」

  「いやさ、その岡部主任さ、結構お酒飲むんだけど。酒のアテ何食べるって話でさ、その人紅しょうがばっかりって言うの。」

  「へ〜、関西人?」

  「いや?なんで?」

  「いや関西の人紅しょうが好きそう。大阪とか。紅しょうがの天ぷらとかあんじゃん?」

  「紅しょうがの天ぷら!?何それ?」

  「だから紅しょうがの天ぷらだって。紅しょうがの。」

  「あ、死んだし。へ〜美味いの?かき揚げ的な感じ?」

  「いや?牛丼に乗っけるみたいのじゃなくて、平べったいやつを揚げるの。味は知らん。」

  「へ〜…でさ、まぁ天ぷらはいいんだけど、あっ、リスキルじゃん今の。」

  「フラフラ歩いてるから。」

  「で、どう思う?ツマミが紅しょうが。」


  どう思うって言われても…


  「ありなんじゃない?腹に溜まんねーし。美味いし。」

  「え〜…紅しょうが“だけ”だよ?紅しょうが単体で食べるもんじゃなくない?」

  「じゃあ、どうやって食うの。ていうか弱くないほんとに。まじか。」

  「え?紅しょうが単体で食うの?牛丼とかさ、なんかに乗っけて食べるでしょ?もしかして寿司のガリとか好きなタイプ?」

  「俺寿司食わねぇ…ガリはガリだけで食うじゃん…まぁ、紅しょうがはそのままは食べない…」

  「でしょ?あ痛った!今ナイフ?」

  「いいじゃん別に。好きならそのままでも食うだろ。」

  「いやぁ…ないわぁ…」




 ※




  2回戦1ラウンド目、また俺の勝ち。2ラウンド目。武器種はアサルトライフル。


  「エイムアシストオンでいいぞ?」

  「やだ。」


  エイムアシストオンで勝っても実力に感じないのは、まぁ分かる。それにしてもつまらん。弱い。


  「なー、椿はさ、上司とかに飯奢ってもらうことある?」

  「あるよ?なに?」

  「そういう時、苦手なもん出てきたらどうする?」


  俺の質問に椿は不思議そうな顔をして首を傾げる。


  「そんな経験あんま無い。だってラーメンとか牛丼とかでしょ?」

  「天ぷらとか。」

  「紅しょうが?あっ!リロード中なのに!」

 

  リロードは負けの言い訳にはならない。


  「ん〜…別に、食べるんじゃない?だって奢りでしょ?」

  「やっぱそうなるか…」

  「奢ってもらったの?」

  「うん。天ぷら。」

  「え?天ぷらで食べれないものってある?」

  「ナス。」


  あ〜と、納得したような声を出しながら椿は俺の銃口の前で倒れる。


  「ハル無理だもんね。てか好き嫌い多すぎ。」

  「あと、定食だったんだけど、なんか大根?かなんかの酸っぱい感じの漬物的な…」

  「大根無理?ぶり大根とかおでんの大根とか食べるじゃん?」

  「漬物無理。」

  「大人になりなよ。で、食べたの?あ、死んだ。」

  「食べるだろ…お金出してもらってんだし…で、そういう時どうしたらいいと思う?食べるけどさ、残していいのかな?」

  「その上司次第じゃない?てかいくつ?その人。」

  「67くらい…?」

  「うわ、おじいちゃんじゃん。なんか怒りそう…」

  「え?歳?」

  「だって当時の価値観でしょ?」

  「食べ物残すとかありえない的な?」

  「ていうか、上司とご飯食べてて先に箸つけるなとか、お冷空にすんなとか、絶対先に食べ終わって待たせるなとか…それこそ残すとかさ…」

  「あ〜…やっぱそういうもん?」

  「知らん。偏見だけど…私は飲みの席とかあんま行かないし…あっ!」

  「あっ!?」


  無駄口を叩いていたら俺の画面で俺が倒れている。その上で椿の操作するおっさんが激しく屈伸。

  …殺られた。


  「よっっっしゃああああああっ!」

  「まぁぁぁぁじぃぃぃぃ!?」


  まさか、まさかの、2回戦目で…


  「うええええいっ、この雑魚。ざぁぁこ!やったっ!ハル倒したうええええいっ!」

  「ズドン。」

  「あ。」


  いつまで喜んでいる。とっくにリスポーンしたわ。

  すごく悔しかったのでぶっ倒れた椿の上で死体撃ちプラス屈伸。


  「ざぁぁこ。この、ざぁぁぁこ。まぐれで喜んでんじゃねーよ。」

  「…………うわぁ、一番一緒にゲームしたくないタイプ。」


  声を大にして煽り散らす俺に椿が白い目を向ける。は?


  「で?解決策。」

  「なんの?」

  「嫌いなものが出てきた時。」

  「ないよ。食べる。以上。それか、ナスと漬物を克服する。」

  「無理。」


  この歳まで嫌いなものは治らないだろう。絶対無理。


  「え〜ナス美味しいけどなぁ…トロッとして。」

  「そのトロッが無理。」

  「なんでさ。あっ、じゃあ今度私が作ってあげるよ。そしたら食べれるよきっと!」


  ……は?どういう理屈ですか?


  「いや、なんで?てか、天ぷらとか作れんの?」

  「いや、だから料理できるって。一人暮らしの女性が出来ないわけないじゃん。」

  「……一人暮らし?」

  「いや、確かに入り浸りだけど…え?そこ?」


  お前ほとんど料理しねーだろ?たまには作れや。


  「いや誰が作っても食えないもんは食えない。」

  「なんでぇ?美味しく作るよ。」

  「やだ、イカ天がいい。」

  「あ、私もイカがいい。イカ天食べたい。今度はイカ天がいいなぁ……」

  「天ぷら大変なんだぞ?」


  気づいたら2回戦終了。1キル取られたけどやはり俺の勝ち。雑魚め。


  「まだやるかい?」

  「元気いっぱいだぜ。」

 

  こいつまだ懲りない。仕方ないので3戦目。いよいよ飽きてきた。そもそもFPSそこまで好きじゃない。

 

  「椿はさぁ。同期とかと飯行ったり遊び行ったりすんの?」

  「別にぃ?ウチブラックですし?休日はみんな死んでるし?まぁ、ご飯くらいはたまに…今日もさ、誘われたよ。」

  「へ〜。」

  「同期なんてほとんど一年目とかで辞めてったけど、だからこそ生き残りの結束強いよねぇ…まぁ、あいつら数字取れるから課長にも可愛がられて…おかげで私はいじめられてるけど…ビール飲も。」

  「同期って今何人くらい?」

  「5人…かな?男3人と女2人。で、私。」

  「ふーん。」

  「今日も早く上がったし飲みに行くって。」

  「別に早くなくね?まじ定時何時だよ…行きゃ良かったのに。」

  「ん〜?いいや。同期と飲むならハルの家で飲む。だってそっちのが楽しいし?」


  俺の方を見てくしゃっと笑う椿。

  うちで飯食って酒飲んでゲームして駄弁って…それでいいのかと思うけど…


  「ハルもさ、私と飲むの好きって言ったじゃん?ね?」

  「その手には乗らん。」


  ずいずいっと物理的に寄ってくる椿が、ゲームの中でもしゃがみながら後ろに寄ってくる。それを見逃すほど甘くない。リアルな撹乱にも動じず俺は正確なヘッドショットをかましていく。


  「……。」

  「ばかめ。お前ごときに惑わされる俺ではない。」

  「飲みに行けば良かった。」


  本気で拗ねたように頬を膨らませる椿をリスキル。椿はますますつまらなそう。まぁ、勝てなきゃ面白くない。そういうもんだ。


  「飲みに行けば良かったな。」

  「へーんだ。」


  やむくもに突っ込んでくる椿をキルして笑う俺に椿は舌を出しながら…


  「嘘だよ。やっぱり私はハルと飲むのが好き。」


  画面から目を離さないで何気ない口調でそんなことを言う椿に、俺は……


  「ばん。」

  「痛っ!?」


  容赦なくヘッドショットを叩き込む。すごくヘッドショットが決まるので気分がいい。


  一体何試合やるんだろう…そろそろ風呂にでも行って欲しい…

  なんて思いながら、俺はリスポーンしてくる椿をナイフでキル。


  ……椿がゲームに飽きたのは、それから5戦後のことだった。


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