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お前と寝るとロクなことないので

 

  「おやすみ……」

  「はいおやすみ。」

  「琴葉ちゃん、おやすみ。」


  日付が変わるくらいの時間、就寝。

  場所、琴葉の部屋。琴葉と俺と椿3人川の字、ついでにベッドの横にポテチ。


  なんかみんなで寝る感じになっちゃった。

  壁側に椿、琴葉を挟んで端っこに俺。下に手を伸ばしたらポテチのごわごわした毛並みに触れる。

  ひとつのベッドに3人はきつい。ちょっと身動きしただけで琴葉や奥の椿の脚にぶつかる。ただ汗をかきそうなくらい温かい。


  眠かったようでベッドに潜って数分で琴葉は夢の中へ……椿の胸に顔を埋めてすやすや寝息を立てだした頃にベッド横のスタンドの明かりを消した。


  部屋が真っ暗になると周りの環境音も消えたような気がして、人肌を感じるのに無音の室内は不思議な雰囲気。例えるなら、修学旅行の就寝時間、みんな寝てるのに自分だけ起きてるかんじ。

  明かりが消えると暗闇が音まで吸い込んでしまうような感じだ。


  しばらくベッド下のポテチの体をまさぐってたらいい感じに眠気が来た。

  寝よう……


  「ハル?起きてる?」

  「寝ます。」

  「私なんか眠くないや。」

  「羊でも数えてろ。」

  「羊ってなんて数えるの?匹?頭?」


  うるさいなぁ……

  小声でぺちゃくちゃ喋りだした。琴葉は眠りが浅いから、静かにして欲しい。


  「匹じゃね?」

  「……牛ってさ、一頭二頭だよね?羊は匹なの?この違いとは?」

  「知らんがな。体重?」

  「へー…」

  「いや知らん、適当。きっと牛は頭が大きいからだよ。」

  「適当だな…像もカバもサイも頭って数えるよね?やっぱり体の大きさかな…?」

  「じゃね?」

  「調べよ。」


  ベッドの奥が青白く光った。てめぇスマホ弄ってないで寝ろ。


  「琴葉起きるって。」

  「…寝てるよ。私の胸に埋まってるから多分大丈夫。明るさ抑えるわ。」


  こいつまだ眼鏡してやがる…


  「……おー、へー…」

  「なんだって?」

  「人より大きいのは頭、小さいのは匹。」

  「へぇ…」


  羊って人間より小さいか?


  「牛って昔はheadって数えてたらしいよ。その名残だって。」

  「へぇ…」

  「羊って人より小さいの?」

  「それな?」

  「…………へー、子羊は匹、大人は頭だって。」

  「まじか。」

  「寝る時はさ、羊は一匹って数えるよね?てことは子羊なのかな?」

  「そーいうことだな。」

  「……よくさ、羊数える時羊が走って柵飛び越えて行くイメージあるじゃん?子羊って柵越えられる?」

  「知らんて。てかはよ寝ろ。」

  「そもそも羊って柵越えられるのかな?え?越えられたら意味無くない?あれって脱走防止だよね?」

  「越えらんねーんじゃね?」

  「……羊ってどれくらいジャンプできるんだろ…」


  こいつ寝る気ある?


  「どんくらいかな?2メートルとか?」

  「2メートルも跳べるか。もう寝ろっての。俺は眠いの。」

  「あれー?なんでだろ…全然眠くない。」


  コーヒー飲んだ子供か。


  「結構飲んだし……眠気が来てもいい気がするんだけど……」

  「頭皮マッサージでもしてろ。」

  「それで寝れるの?」

  「知らん。けどさ…生え際辺りを爪でカリカリしたら気持ちよくね?」

  「それ頭皮マッサージ?」

  「やってみ?」

  「生え際…?」

  「こう…前髪持ち上げて、生え際の皮膚のとこを……あ、ベッドにフケ落とすなよ?」

  「フケとか出ないもん……んー…………。」

  「眠くなってきたろ?なぁ?」

  「………………。」

  「どうなのさ?」

  「別に……」

  「……。」

  「……。」

  「でも気持ちいいだろ?くすぐったい感じが。」

  「……。」

  「生え際でも若干髪の毛の上ら辺から……」

  「……。」

  「……。」

  「……うーん……」

  「……椿デコ広…」

  「は?あ?広くないもん!!」

  「声でかいってば。」

  「やば……」


  すやすや。

  良かった。起こしたかと思った。椿のバカ。


  「……ハルのが広い。」

  「俺は広いよ?デコの広い人は頭がいいんだぞ?」

  「そんなの毛の薄い人の負け惜しみだね。」

  「馬鹿野郎。」

  「ね、ね、ハル。シャーロック・ホームズ知ってる?」


  話題の変わり方が唐突すぎるし、もうまじで寝ろ。なんかテンション上がってんの?


  「知ってる。」

  「あれさ、漫画とかあるじゃん?ああいう今の作家さんが描いたホームズって若いイケメンでしょ?」

  「大体……」

  「原作の挿絵知ってる?おっさんだよおっさん。しかもデコ広い。」

  「ほら、デコ広い人は頭いいんだよ。」

  「私ね?小学校にホームズの漫画置いててよく借りて読んでたんよ。」

  「え…?ホームズとか読むの?柄じゃねぇな……」

  「こー見えて読書家ですが?」

  「漫画は読書に入らん…」

  「でさ、そのホームズがもう目キラッキラのイケメン青年でね、私の初恋なんだけど……」

  「え!?」

  「そこから興味持って色々調べたらさ、あの目付きの悪ーいホームズが出てきて…ショックだったなぁ……」

  「うわぁまじか……初恋の人が漫画の主人公とかないわ……え?結構イタい。」

  「イタくない。」

  「だったら保健室の先生とかにしとけよ…」

  「それは男子じゃん。うちの保健室の先生女だったし……」

  「あっ!痛い!ポテチに噛まれた!!」

  「ハル、しーっ。」


  黙れなにがしーっだ。お前が黙れ。おしっこ漏らすぞ?


  「てかお前初恋の人体育の先生とか言ってなかったっけ?」

  「あれ嘘、本当はひとつ上の先輩。」

  「どれがホントだよ…ホームズ速攻乗り換えられてんだろ。」

  「あれは架空の人だからノーカン。」

  「じゃあ言うな。」

  「ハルの初恋の人は?」

  「高坂先輩。」

  「…………は?それ高一で童貞捨てたって人でしょ?別に好きじゃないって言ってなかった?」

  「今思えば好きだったのかもしれない。」

  「サイテー、フケツ。」

  「あ?好きだからエッチしたんでしょー?純愛。」

  「キモ。」

  「初恋なんて忘れたよ……過去なんて何度振り返っても意味は無いということさ。」

  「そう?過去大事。過去のデータは必要。人生のデータベース。」

  「お前の過去になにか学べるものがあるのかよ?」

  「ハルは仕事とかで昔の書類とか残しとかないタイプ?」

  「それは別だろ。俺マニュアル人間だからそういうのないと何も判断できない。」

  「私もー、自分で決めるのってこわいよねー?てか課長が怖い。」

  「俺が言ってんのはそういう話じゃ……なに?」


  急に椿がベッドから起き上がった。布団をめくられた琴葉が寒そうに足をスリスリ擦ってた。まだ寝てる。


  「トイレ。」

  「布団入ってからトイレ行きたくなると負けた気分になるよね。折角温めた体が冷えるのとか、すごい後悔。」

  「分かるー、飲みすぎたー。」




 ※




  トイレから戻ったら静かになったので、目を閉じる。寝れないのは尿意のせいだったようだ。

  指先で触れてるポテチの背中が上下しだして、寝息を立てている。琴葉もぐっすりだ。気づいたら1時近くて、早く寝ないととなんでか気が焦る。

  ていうか椿のせいで目が冴えてきた。


  「…ヤバい。」


  また始まった。


  「なんだ今度は。」

  「トイレ行ってる時思い出しちゃった……あのー…アン〇リバボーの似顔絵……」

  「は?」

  「昔あったじゃん?ホラー特集的なやつやってた時…あれ。ゆうちゃん。ゆうちゃんの似顔絵。」

  「で?」

  「目閉じたらまぶたの裏でゆうちゃんがこっち見てる。怖くて寝れない。」

  「黙れ。寝ろ。」

  「あの似顔絵怖くない?私怖い、ヤバい寝れそうにない。」

  「っざけんな。俺明日も5時半起きだから、寝れないならせめて静かにしてろ。な?」

  「アン〇リバボーってもうやってないのかな?」

  「やってんじゃない?いつの間にか観なくなったんだよなあれ……」

  「あれ、ネットとかで観る時さVTR以外飛ばさない?」

  「気持ち分かる。」

  「私あの番組でホテルニ〇ージャパン知ったんだよ。ハルはいつ知った?あの火事。」

  「ニ〇ージャパンみんな知ってるみたいな前提で話すな。なにそれ?」

  「すごい火事だったんだってよ?観て、今度。」

  「観ない。」

  「観てよ…アン〇リバボーと仰天ニ〇ースどっちが好き?」

  「ア〇ビリバボー、仰天ニ〇ースの奇跡のダイエット的な特集?あれあんまり好きじゃない。もっと昔の事件とか扱ってほしい。」

  「ああいうの観ちゃうよねー。」

  「寝ろ。」

  「あのVTRの役者さん、私誰一人知らないんだけどさ、なんかドラマとかで出てる俳優とかよりよっぽど演技上手いよね?」

  「迫真だよ。」

  「ねー?」

  「寝ろっての。」

  「あ、俳優と言えばさー……」

  「永眠させるぞ?」

  「モンスターパニックものの映画で1番好きなクリーチャーなに?」

  「何が悲しくて21の女と深夜にクリーチャー談義しなきゃならないわけ?」

  「ザ・グリ〇ドって知ってる?」

  「観たことないけどタコみたいなやつは知ってる。」

  「観て。」

  「そのうち。」

  「私さ、M〇Gってサメ映画観たんだけど、クオリティの高さにびっくりしちゃった。」

  「最近のモンスターパニックはクオリティ高い。クロ〇ルも良かった。観てないけど。」

  「あれ怖かったー、観に行ったもん。やっぱり水場の演出怖い。水怖い。」

  「お前水泳好きじゃん。」

  「え?怖くない?水。先の見えない水中からさ、バケモノが襲ってくんだよ?」

  「おれ海洋恐怖症だから無理。」

  「海ってさー、宇宙より解明されてないんだって。不思議だよねー。地球ってあんなに丸いのになんであんなに水場溜まるんだろ?」

  「…椿、ブループって知ってる?」

  「なにそれ?」

  「アメリカ海洋大気庁が観測した原因不明の音。すんごい大きい生き物の声っぽいって話題になった。」

  「深海に居るってこと?」

  「かもねってこと。もしそうならシロナガスクジラよりでかいんだって。」

  「えー…怖。なんかロマンあるね。」

  「南極の氷の崩落音ってのが今のところ最有力らしいけど。」

  「生き物じゃないの?」

  「だから、はっきりとは分かってないんだと。」


  ……あ、ヤバい。どんどん眠気が遠ざかる……


  「私深海魚トラウマなんだよね…昔のファインデ〇ング・ニモ観た時チョウチンアンコウが衝撃的でさ。」

  「俺もニモ観た、俺はチョウチンアンコウが1番好きまであるぞ?結構コミカルだし。」

  「どこが?」

  「水中メガネに引っかかっるとことか……」

  「あのでっかい白濁した目が無理。夢に出たもん。」

  「イカすデザインだけどなぁ…」

  「で、話戻るけどクリーチャーで何が好き?」

  「ミ〇トの序盤に出てきたタコ。あとパイレー〇・オブ・カリビアンのクラーケン。」

  「ハルってタコ足好きよね?グリ〇ド観て?絶対気に入る。」

  「お前は何が好きなん?」

  「私はー、バ〇オのリッカー。」

  「まじで好きだなバ〇オ。そういや新しい映画あるだろ?確か?」

  「私が好きなのはゲームであって映画は別物。でも後の方のマジニとかでっかいリッカーとかのクオリティはすごいと思う。そ!ラクーンシティでしょ?あれ期待してんだよなー。あれ?もうやってなかったっけ?」

  「期待してんのになんでそこがあやふやなわけ?」

  「どーせ観に行く時間ないしノーチェックだった。1月とかからだった気が……」

  「俺あれ観たい、牛〇村。」

  「あー……怖いんでしょ?あれ。」

  「気になるじゃん?〇鳴村も気になってた。多分観らんけど。椿犬鳴峠行かね?」

  「行かない。」

  「椿って自分はなんでも付き合えって言うくせに付き合い悪いよね……」

  「え…?そんなことなくない?傷ついたわ、今。」

  「ある、俺朝のランニングとか付き合ったじゃん?」

  「私だって家電買いに行くの付き合ったじゃん?車だしてあげてるじゃん?」

  「じゃあ犬鳴峠行こ?肝試ししよ?」

  「やだ。」

  「あたしを肝試しに連れてって?」

  「無理、キモい。」


  何ヘラヘラ笑ってんですか?


  「じゃあ今から飲むから付き合って。」

  「………………は?」

  「は?」

  「寝るんじゃないの?えー?あんだけ寝る寝る言ってたのに!?うそー。」

  「黙れ。誰のせいで目が覚めたと?寝酒じゃ寝酒。」

  「いや……明日も早いしもう寝ないと……」


  は?ふざけんなよ?

 

  「もう飲めないかなー?今日は……」

  「寝るな。寝たらゆうちゃん来るぞ?」

  「あ!いや!!なんでそんなこと言うし!!また思い出してきた!!もー!」

  「ほら……あー怖い。怖いなぁ……無理だよ?今寝たら夢に出るよ?」

  「あー、もー。分かったよ…いっぱい飲むぞー。」

  「いや……一杯とかでいいよ?」

  「今何時?」

  「…1時。」


  深夜だというのにぱっちり開いた目は暗闇にも慣れて、電気もつけないで部屋の中を歩き回れるほど……これは寝れません。


  おつまみ最強決定戦の2ラウンドといくか……



  ……翌朝寝坊しました。


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