居酒屋で飲んだので
家から15分位の最寄り駅の下にたこ焼き屋さんがある。そこでは酒も出してて居酒屋みたいな感じの店だ。
俺はそこでたこ焼きをつまみにハイボールをたまに飲む。
新年初仕事も何とか終わり俺はその店にふらっと立ち寄ってた。
ただし、いつもなら1人だけど今日は相方が居た。
「おー、広いね。意外と…もっと窮屈かと思ったよ。」
隣で椿が白い息を吐いてる。白いワイシャツにタイトスカート、上に薄水色のコートを羽織ってる。手には仕事鞄。
今日は午後休だったようだ。
仕事中に連絡が来て、「暇だから飲もう」と誘われた。
そして現在、2人で入店して席に着く。
「……椿と外で飲むの…初めてかも。」
「そーだっけ?」
「てか、午後休だったなら昼飯で飲めばよかったじゃねーの。今まで何してたん?」
俺の仕事終わりだから時刻は16時半過ぎ。
椿とは駅で待ち合わせしてたが……
「あ?午後休だって言ってんのに仕事が15時まで終わんなかったんだよ。」
わー仕事が遅いですねー。口調どうした?
つまりイライラしてると。今日はヤケ酒ですね?嫌だなぁ帰りたい。
「おー、結構色々ある…てか、こんな店あるなら教えてくれればいいのに……」
「知ってるかと思ってた。だって駅の下だし……」
「駅そんなに来ないもん。」
「……ですね。俺の家から会社近いからな。いい加減家賃取るぞ?」
「やだ。ねー、何頼む?」
「たこ焼きと、ハイボー……や、まずはビール。あと、たこ唐。」
「ポテトもイイっすか?ハルさん。」
「イイっすか?ってなに?まさか俺が払うの?」
「……。」
「誘ったのお前だよな?え?」
「……割り勘で。」
「帰るか?」
5分ほどの口論の末割り勘になった。解せぬ。
というか頼みすぎた。こんな時間に食べたら晩御飯食べれない。あと早く帰らないと、琴葉が待ってる。
「……家で飲みゃいいのによ。」
「たまには外でさ……あ〜そうだ。私来週実家帰るんだ。」
「お、寂しくなるな。琴葉にはよろしく言っとく。」
「違う、正月帰ってないから!戻ってきます!」
「仕事は?」
「休む。」
新年早々よく午後休だの有給だの使えるな…うらやま。
「そうか……帰んないって言ってなかった?」
「うーん……ハルがうるさいから……」
「俺のせいにすんな。まぁ…いいことだよ。顔見せてあげな。」
「めんどい……父さんに会いたくない……」
こいつ家族と何があったんだろう……まぁ、知ったこっちゃないが……
「お待たせしましたー。」
※
注文して15分後に最初のメニューが届いた。ビールの中ジョッキとたこ焼き。
店員が戻っていくのを確認して椿がなにやら険しい顔をした。
「……遅くない?」
「混んでるからなー。こんなもんだろ。」
「いや、遅い。」
「たこ焼きは時間かかるんだよ。」
「遅い!」
2人してビールを流し込んでから、8個入りのたこ焼きを4つずつ取り皿に分ける。
「……なんでたこ焼きってマヨネーズかけるんだろ。」
「あ……マヨ抜きって言い忘れた。」
たこ焼きを白く染める油の塊を前に椿と俺が固まる。俺たちたこ焼きにもお好み焼きにもマヨネーズをかけない派。
「ま、いいや……」
「ところでたこ焼きはどっち持ちですか?」
「は?どっち?」
「お金。」
いや知らん。
「割り勘だから……合計を2人で2で割って……」
「いやどっち持ちですか?」
「……メニューで分けんの?」
「どっち?」
「……じゃあお前。」
「じゃあ1個ちょうだい。」
こいつ……っ!
「……俺今月誕生日だから。」
「だからなんやねん。」
「誕生日プレゼント。」
「……いいよ。」
いいんだ。
「……たこ焼きってさ、誰が考えたんだろうね……熱っ!!」
「遠藤って人……ラジオ焼きをアレンジして作ったんだって。」
「……ラジオ焼き?」
「ん〜……牛スジ肉の入ったたこ焼きみたいな?」
「……おー、美味そう。作って。」
「てめーで作れ。」
「なんで大阪って美味しいものいっぱいあるのかな……」
「台所だから…日本の……」
「……。」
なんですかその顔は?
「お待たしましたー。唐揚げとフライドポテトです。」
狭いテーブルに唐揚げとフライドポテトが盛られた皿がそれぞれ置かれる。ビールもなくなりそうなのでハイボールを注文。
「……。」
「……これはどっち持ち?」
「ポテトはお前だろ?」
「唐揚げいくら?」
「……ひと皿320円。」
「ポテトは400円……ハル、ポテト食べていーよ。」
「黙れ。」
そういえば最近唐揚げにレモンをかけるようになった。
取り皿に唐揚げを取ってレモンをかける。椿は何もかけずにかぶりつく。
「……椿、なんで唐揚げにはレモンをかけるんだろうか。」
「あっさりするからじゃない?皿うどんにレモンかけるのと同じ理屈。」
「……なるほど。」
「フライドポテトはケチャップつける派?」
「……塩味の効き具合による。」
「私はつける派♪」
「む?ここのポテト太いぞ?」
「ハルは細いのが好き?まぁ、分かる。細いのが美味しそうだもんね?」
「マ〇クのポテトが至高。」
「あ!そういえばマ〇クのポテト、Sサイズしか売らないんだって!?ハル知ってた!?」
「あれ年末までだろ?」
「あれ?そうなん?」
「今は普通通り売ってんじゃねーの?」
「そっか……良かった。マ〇クのポテトなかったら死んでた。」
「そんな食わんだろお前……売らなくなる訳じゃねーから?MとLは売ってたんだろ?」
「……セットのポテトってサイズなんぼ?」
「Mじゃね?」
「……どうでもいいけどサイズのS、M、Lってスモール、ラージ、あとMってなに?」
「ミディアム?」
「あー……」
「ほんとどうでもいいわ……」
「いや……うちの後輩がね?スモール、ミニ、ラージって言っててさ……ぶっ!」
なんか一人でツボってる。こいつの壺はたまによくわからん。
「スモールもミニも同じだよね?面白……くくくっ!」
「笑い方怖いっ!」
「あはははははっ!あ……スモールもミニも小さいって意味だよね?どう使い分けるんだろ……」
「知らん……」
「えー?お馬鹿だなぁ……」
「俺の英語3点の男。お前こそ訊く前に調べろ。」
赤らんだ顔でスマホを取り出す椿。本当にしょうもない疑問だと思う。
「……ミニ。あー、主に名詞に付くと……なるほど。ミニスカートとかね。スモールスカートとは言わないもんね。だって!」
分かってんのか……?
「……スモールは小さいって意味ある?」
「……多分…ない!」
俺らの会話、多分中学生レベル……
※
しばらく飲んでたらようやく全ての注文が出揃った。
その頃には程よくお酒も回って、なんだか眠くなってきた。
眠い……
「……ハル、ちょっと聞いて欲しいんだけど……って、あれ?」
「……なに?」
「ここで寝ないでね?まじで……」
「……無理。」
「ほら、たこのやわらか煮食べな?」
「……うん。」
美味い……
「で?なんやねん。」
「なんで関西弁?あー、まぁ半分寝ててもいいから聞いてよ。実は入社した時からお世話になってた先輩が会社辞めるんだけど……」
「……。」
「その人実家に帰るんだって……静岡らしいんだけど……」
「……。」
「静岡って言ったら富士山じゃん?でね、今日その人と谷川っていう……聞いてる?」
「……ごめん、聞いてない。なんだって?」
「聞けよ。」
「半分寝てんだから聞けねーよ。大事な話か?どうでもいい話かと思ったぞ。」
「大事な話。」
「なに。」
「え?また最初から?」
「富士山は山梨県だと思う。」
「聞いてんじゃん……」
すっかり冷めてきたフライドポテトを口に入れる。塩気が舌に乗って味覚の刺激に眠気が少しだけ和らいだ。
……てか、今何時?
「そう!でさ、谷川さんは山梨出身でね、その人と谷川さんと私で話してる時に富士山は何県にあるかと……」
「揉めたわけだ。」
「大喧嘩。」
子供かよ。
「まぁそれでね?その静岡の人にはお世話になったし退社前になにかさ……ほら。あげるじゃん?」
「うん……」
「でも谷川さんともよく仕事するわけよ。」
「……うん。」
「どっちの肩を持てばいい?」
「子供かよ。」
「当事者にとっては切実な問題。」
「いや、富士山の話……」
「だから切実な問題なんだよ。富士山は日本の象徴みたいなものだから……」
「日本の象徴は天皇だろ?」
「ところで富士山ってどっちだと思う?」
「知るか。」
どっちでもいいじゃん。県またいでるわけだからどっちとも言えるじゃん。
日本の象徴だと誇れる県がふたつもあるなんて素敵じゃん?
「……富士山かぁ。そういや初夢なに見た?お前……」
「え?急だな……初夢……まだ見てないかも……ハルは?」
「猿夢……」
「見たらダメなやつじゃん…それ。」
「なんで鷹とナスと富士山なんだろう……」
「一富士二鷹三茄子ね……なんでだろーね?縁起良さそうだから?」
「俺ナス嫌いなんだよねー……」
「え?あ、そうだっけ?え〜…ナス美味しいのに……あんま食べないけど……」
そんなことより今何時だよ。
「そんなことより、どっちの味方したらいい?」
「……げっ!?もう18時なるじゃん!?早く帰らんと……」
「おーい……」
「おい、帰るぞ?俺は帰る。」
「え〜……」
「家でも飲めるだろ?」
「待って待って。せめてどっちの味方を……」
知るか!調子に乗って飲みすぎた。フラフラする。
「いや世話になったならなんかやれよ。それは別に肩を持ったことにならねーだろ。社交辞令みたいなものだ。」
「だよねー。何がいいかな?ナス?」
「知らん!勝手に考えろ!俺帰る。」
「ハイハイ……今日晩御飯どうしよっか……入らないよね?」
「……なんか今日来るみたいな口ぶり……」
「え?家で飲み直すから……」
「電車あるだろ!?」
「……ハル、そんな酔ってて帰れるの?」
椿に指摘される俺の千鳥足。財布を取り出す手元もはっきりしない。
まずい……相当飲んだみたい。心臓がバクバク苦しい……きつ……
「帰れますかー?」
なにニヤニヤしてんだ。
「……別に帰るのにお前がいようがいまいが……」
「んー?」
「……やめろうざったい。もう帰るなら帰るよ。はよ。」
「よし帰ろう。」
「……伝票押し付けてくんな。」
財布も出さずに伝票を押し付けてくる椿が俺の指摘に「ちっ!」と分かりやすい舌打ちを返す。
「……忘れたと思ったのに。」
「忘れるか!……割り勘な?」
「えーと、私がたこ焼きとポテトとやわらか煮とビールとハイボールと……」
「……え?ダル。」
てか、品物事に会計分けたら割り勘じゃなくね?
いや……これも割り勘?割り勘の定義とは?
「じゃあハルはビールとハイボールとたこ焼きとポテトと唐揚げとたこ唐とやわらか煮と--」
「調子に乗んな。」




