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屁をこいたので

 

  日曜日。お昼。

  朝っぱらから出社して仕事を片付けて帰宅(?)した正午。


  琴葉ちゃんからあついお出迎えを受けて居間に行くとハルがもうお昼の用意して待ってた。


  「あれ?来たの?今日来ないと思った。」


  待ってなかった。


  「うん…明日電車乗ってくのめんどいから…私の分は?」

  「え〜……?」


  ブツブツ文句言いながらも台所から私の分を取ってくる。今日のお昼はオムライス。サッと出てきたあたりなんだかんだ用意してくれてたのか……

  やっぱり待っててくれた。


  「食べよ!ポテチもう食べてる。」


  スプーンを振り回しながらポテチの隣に座る琴葉ちゃんがもう食べ始めた。待ちきれなかったのかな。


  「いただきます。」

  「はいよ。」


  ケチャップで黄色い玉子の上に飛行機を描いてからスプーンを入れる。私の遊びを琴葉ちゃんがじっと見てた。


  「柚姉、琴葉のも描いて。」

  「いいよー。」

  「…え?上手。メイド喫茶で働け。」

  「私高校の頃バイトしててさ……」

  「まじ!?」


  仰天するハル。もちろん嘘だけど信じたのかな?

  琴葉ちゃんのオムライスにデフォルメした帆船を描いてあげる。3分の1くらい食べられてたから狭くて描きづらい。


  「マジで?ねぇ椿。ほんとにしてたん?いつ?お前テニス部は?」

  「夏休み期間にね……すっっっごい人気だったんだから!」

  「柚姉、人気者だったん?偉いね。すごい。」

  「そーだよ?お姉ちゃんモテたんだから。」

  「めいどきっさって何?」

  「メイドさんが居る喫茶店のこと。」

  「兄ちゃん!琴葉も行きたい!メイドさん会いたい!」

  「大きくなったら自分で行きな。」


  琴葉ちゃん、メイドってなにか分かってるかな?

  皿を空にしたポテチが目をシパシパさせてる隣でオムライスを1口。


  美味し♡玉子がトロトロです。


  「ねぇ、やっぱり嘘だろ?椿よ。俺そんな話聞いたことない。」

  「めいどって、ご飯作って洗濯してくれる人?」

  「そうそう。お家のことしてくれる人。フリフリのエプロン着てね……」

  「アキバにいる人?アイドル?」

  「そうそう。アキバのアイドル。」

  「嘘だろ?お前がメイドとか有り得ん。吐きそう。」

  「吐きっ……!?いくらなんでも酷くない?吐かないだろ!!」


  失礼な。人をなんだと思ってるんだ?

  実際私がメイド喫茶で働いたら大人気なはず……

  だって顔悪くないし?胸あるし?愛嬌だって……



  --ぶっ!!


 

  「……。」

  「……?」

  「……。」

  「…にゃお。」


  ……あ、やべ、屁こいた。





 ※




  凍り付く茶の間。沈黙の時……


  「……今日外すごい寒くてさー。」

  「おい。」

  「琴葉ちゃんも風邪引かないようにね?」

  「んだ。」

  「おいってば。」

  「コタツとか買おうよ〜、大体この家いっつも寒--」

  「今屁こいたの誰?」


  ………………。


  「ぶって聞こえた!」

  「ね?聞こえたね。琴葉?」

  「違うよ。ポテチ、聞こえたね。ぶって。」

  「……うにゃ。」


  なぜ人はおならしたら犯人探しをするんだろうか……

  この時間が人生においてどれほど無駄な時間か……それを理解してる?


  おならなんて誰だってするでしょ?なに?犯罪なん?おならしたら罰せられるの?

  いいじゃないかおならしたって……


  「おいアキバのアイドル。」

  「はい?」

  「おならした?」

  「ううん。」


  自らの主張をあっさり覆す私。

  誰でもする、したっていいじゃない……なら何故隠すのか。


  人前でおならをしてはいけない存在だって居る……そう、女の子。


  「……ポテチじゃない?」

  「猫って、おならするの?兄ちゃん。」

  「……知らない。」


  寝そべってポテチと視線を合わせる琴葉ちゃんが「どうなのさ?」と訊いている。可愛いね。満腹なデブ猫は開いてんのか閉じてんのか分かんないくらい細い目で喉を鳴らしてた。


  「ハルじゃないの?」

  「失礼な。」

  「こういう時って周りを疑う人が1番怪しい。」

  「怪しいぞ兄ちゃん!」

  「ん〜?そんなこと言って、本当は琴葉じゃないの?」

  「違うもん。」

  「琴葉ちゃん。おならは恥ずかしいことじゃないよ?」

  「違うもん!」

  「嘘をつくことの方が恥ずかしいんだよ?」


  ……ごめん、琴葉ちゃん。


  「…そうだぞ椿。くだらんことで重ねた嘘が、いつか取り返しのつかない事態を呼ぶんだ。俺も昔仕事で--いや、この話はやめよう。」

  「え?なに?」

  「なんでもない。忘れろ。」

  「やだ。気になる。どんな取り返しのつかない事態?」

  「なんでもない。」

  「気になるよね?琴葉ちゃん。」

  「んだ。」

  「ハル、琴葉ちゃんの教育だと思って--」

  「はよ食べんかいやかましい!」


  怒んなくてもいいじゃん。

  むー…ハルは自分こと全然話さない……つまらん。


  「……本当は誰がおならしたの?ねぇ。」

  「琴葉ちゃん、その話は終わったんだよ?」

  「終わってねーから。食事中のおならとかテーブルマナーがなってねー。誰だ?おい椿。」

  「あのねぇ?私じゃありませんから。証拠は?証拠はあるのかね君。」

  「あるのかねきみ。」

  「……ポテチにケツ嗅いでもらおう。」


  おいおいなんてこと言い出すんだい。


  「兄ちゃん、テーブルマナーってなんだ?」

  「ご飯の時のマナーだよ?学校で習わん?」

  「箸の持ち方?」

  「それもあるね。食事中にしちゃいけないこととか…下品なこととかね?食事中の正しい振る舞い?とか……」

  「おならとゲップってどっちのがアウトなんだっけ?ハル。」

  「どっちもアウトだろ……あ、でもインドではごちそうさまの代わりにゲップするらしいぞ?」


  なんだそりゃ。信じられないんですけど?いや、食事中に屁こいた私が言えたことじゃないか……


  「ゲップ?」

  「そうだよ琴葉。インドではね、ゲップは食事に満足しましたって意味でむしろ良い意味があるんだってさ。」

  「けぷっ!」

  「こら。」


  インド人の真似して琴葉ちゃんの口から可愛いゲップが出てきた。ハルが軽く琴葉ちゃんの頭を小突く。


  「ここはインドじゃないからね?それに、まだごちそうさまじゃないでしょ?」

  「ごめんなさい。」


  ぺこりと頭を下げてスプーンを取る琴葉ちゃんに習って食事を再開--


  「じゃなくて、誰ほんとに?椿。正直に言え。」

  「もー、なんなのさ!しつこっ!引くくらいしつこいわ!いいじゃん誰でも。アレだよ。コロポックルだよ多分。」

  「居るかそんなもん。」

  「ころぽっくる?」

  「アイヌの人達の伝承に伝わる小人さんだよ。」

  「あいぬ?」

  「今の北海道。」


  説明してやると琴葉ちゃんは明後日の方を向いて未知なる小人に思いを馳せる。かわいい。琴葉ちゃんの想像するコロポックルってどんなだろう?


  「白くて首カタカタしてる人?」

  「それもの〇け姫のこだま。あ、も〇のけ姫って北海道ら辺?」

  「知らん。蝦夷とか出てきたような……」


  琴葉ちゃんのおかげでいい感じにまた話題が逸れたその時だった。

  不意に立ち上がったポテチがのっそのっそと歩いて私の後ろを横切った。


  「ふにゃっ!?」


  その瞬間のポテチの声。

  まるで突然何者かに攻撃でも受けたかのような、普段のボテっとモサっとしたイメージからは想像もつかないワイルドさに満ち溢れている。


  その場でゴロンと寝転んでタプタプのお腹を見せながら、悶絶したように鼻をゴシゴシ擦り出した。


  そしてそれをその場の全員がしかと見ていた。


  「……。」

  「……?」

  「………………。」

  「……椿よ。嘘をつくことこそ真の恥ぞ?」


  いや……あの……

  そんな臭かった?




 ※




  私の部屋(客間)でゴロゴロしながら適当に持ち帰った仕事を消化してたらポテチを抱いた琴葉ちゃんが毛布を引きずって隣に来た。


  仕事の邪魔をするでもなく、その場に寝転んで私に身を寄せてくる琴葉ちゃんは、お腹を撫でてたらいつの間にか眠ってしまった。

  その頭ら辺で脚を折り曲げまるまるポテチ。

 

  ……おのれポテチ。許さんぞ。


  屁こきの罰として皿洗いさせられたじゃないか。


  仕返しに髭の先っぽをピンピン指で弾いてたら重い猫パンチを食らった。


  …それにしてもポテチはずっと琴葉ちゃんのそばに居るね。寝る時も一緒だし。


  「お兄ちゃんのつもりかい?」

  「呼んだ?」

  「違う。」


  別のお兄ちゃんがコーヒーを持ってやって来た。それを受け取ったらハルも隣に座る。


  「……なんでアイスコーヒー?」

  「俺熱いの嫌い。」

  「寒いよー。」

  「暖房効いてんだろ?」


  丸まるポテチを膝の上に乗せてなんでもないようにアイスコーヒーを喉に流し込むハル。今日の気温4℃とかだぞ?


  「気が利かないなぁ……」

  「じゃあ飲まなくていいよ。」

  「嘘ですごめんなさい。」


  ハルは私の隣で何をするでもなくポテチを撫で続けてる。しばらくは無言の時間の中でキーボードを打つ音だけが響いてた。


  「……クリスマスはなんか予定できたか?」

  「だから仕事だって……」

  「はは。今年も寂しいな。」

  「いいもーんだ。ここでチキン食ってやる。」

  「彼氏彼氏言ってくる後輩元気?」

  「元気元気。また合コン?やるんだとさ。呼ばれなかったけど。」

  「ふぅん…出会いが欲しいならお前こそ行けばいいのに……」

  「うるさいよーだ。」


  今日はよく喋る。どうしたんだろ?暇なのかな?


  何気なく見た外は灰色の空。UVカットフィルムの貼られた窓の向こうでどんよりした空が余計に重たく見えた。


  「……なぁ、この間言ったこと覚えてるか?」

  「この間?」

  「お前酔っ払ってたけど……なんか、『いっそ』とか言ってたけど……何がいっそだったの?」


  ……磯?


  磯ってなんだ?ん?

  と言うかいつの話?


  「何それ?」

  「おでん食った時。クリスマスがどーのって話したじゃん。」

  「したっけ?おでん……覚えてないや。」

  「……まぁ、酔ってたしね。」

  「うーん……おでん汁で出汁割したのしか覚えてないや。」

  「ほんとに覚えてないね。してないから。今日はいいやって言ったじゃん自分。」

  「えぇ〜?」


  そうだっけ?


  「ハルこそよく覚えてるね。私の話なんて聞き流してるのかと思った。」

  「じゃあ毎回ペラペラ喋りかけてくんな。」

  「酷くない!?一緒に飲んでるんだから喋るでしょ!?…んー、まぁ、テキトーに聞いてくれるから話しやすいんだよねぇ……」


  私とハルの間で琴葉ちゃんが寝言言ってる。ハルが白い髪の毛を優しく撫でてやる。

  ポテチも気になったのか鼻をヒクヒクさせながら琴葉ちゃんの寝顔を凝視してる。


  なんだか穏やかな時間……和むな。


  「うーん…やっぱり思い出せん。前後の会話はどんなだった?」

  「後輩が彼氏いねーのいねーのってうるさいと……で……なんだっけ?」

  「覚えてないんじゃん。」

  「うーん……」


  つまりどうでもいい話なんだよ。ねぇハル?


  「なんか……俺のせいって言われた。」


  ……俺のせい?

  後輩ってりっちゃん…?

  あ〜……なるほど…そんなこと言ったっけ?何となく分かった。


  色恋の話が好きなりっちゃんが私の事詮索して私がたまにハルのこと喋ったら「彼氏彼氏」言ってくる……アレだ。


  で?『いっそ』?


  ………………。


  「思い出した?」


  私の横顔を覗き込んでくるハルからぷいっと視線を逸らして仕事に戻る。気づいたら全然仕事進んでない。


  いかんいかん……仕事しなきゃね。


  「……?」

  「ハル?酔っ払いの話をいちいち真に受けたらいかんぜよ?」

  「……??」


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