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もうすぐクリスマスなので

 

  「もうすぐクリスマスだねー。」


  膝に毛布をかけた椿がおでんをつつきながらそう言った。徳利から熱燗をお猪口に注ぎながら聞き流す。


  「クリスマスだねー。」

  「……。」

  「クリス--」

  「バイ〇のクリスって今いくつ?」

  「最新作で47歳。ねぇ、クリスマス--」

  「おでん美味いね、何が好き?」

  「大根。」

  「俺も。」


  最近クリスマス近くになって予定がないとぼやき出す椿さん。彼女はなにか勘違いしている。クリスマスは特別な日じゃない。もういい加減聞き飽きた。


  まだ20日もあるのに椿はもうクリスマスクリスマス言っているのか…合コンで知り合った大学生とデートでもしてろ。


  「……クリスマス。」

  「はいはい、椿は予定あるの?」

  「あるさ!仕事さ!」

  「今年のクリスマスは土曜だっけ?」

  「仕事さ!」


  悲しいな。でもね、君だけじゃないんだよ?人間自分で思ってるより不幸でも幸せでもないものさ。


  「世間では24日と25日はどっちがクリスマスなんだろうね?」

  「25でしょ?」

  「でもはしゃぎ出すのは24の夜から…」

  「どっちでもいいんだよ。」


  俺の偏見かもだけどみんなイブの方が忙しい気がする。イブって本番前夜なのに…


  「……ところでハルよ。サンタクロースって実在するって知ってましたか?」

  「全国に居るよ。世間のパパはクリスマスにはみんなサンタ。」

  「違う。デンマークサンタクロース協会ってのがあるんだって。日本人でも1人公認のサンタさんが居るらしい。」

  「……へぇ。ところでサンタクロースのサンタってなんて意味か知ってる?」

  「聖人って意味。」

  「……詳しいな。サンタに…」

  「プロテスタントは聖人信仰を認めてないからサンタクロースは非公認らしい。」

  「非公認ってなんだよ…プロテスタントが公式なの?てか、じゃあプロテスタントはクリスマスどうすんの?」

  「クリスマスとサンタさん関係なくない?」

 

  ……そうか、サンタさんは後付けか?


  「あ、でもプロテスタントでもクリスマス祝わないとこあるみたい。」

  「クリスマスってキリストの誕生日だろ?」

  「それも諸説あるみたい。」


  なんでそんなに詳しいの?サンタさんガチ勢。


  「あとね、フィンランドはサンタクロースが暮らす国って公言してるらしい。」

  「フィンランドってサンタクロース居るの?」

  「居るから言ってんじゃない?」

  「へー…サンタさんって北極に住んでるんじゃないの?」

  「違うよ。フィンランドだよ。」


  知らなかった。俺が小さい頃はサンタさんへのプレゼントのリクエストは北極宛だったのに……いや北極に届くわけないけど…


  「じゃあサンタさんは実在するってことだな。俺も公式サンタクロースになろうかな。琴葉の為に…」

  「無理だよ。サンタクロースになるにも厳しい試験があるんだよ。」

  「……試験?」

  「えっとね、体力測定でプレゼント持って走らせるらしい…あと英語かデンマーク語喋れないといけないっぽい。」

  「体力測定!?」

  「でね、試験を受ける条件が…」

  「いや調べんでいいわ。やめた。サンタさんやめた。」

  「やめたってサンタさんなってないじゃん。えーっと…既婚者で子供がいて、サンタクロース経験者で、体重120キロ以上。」

  「サンタクロース経験者!?体重120キロ!?」

  「早死しそう。」


  過酷だ。そこらの国家資格より難易度高そう……


  「ハル今何キロ?」

  「この前の健康診断で48キロ。」

  「は?」


  おでんの玉子が椿の箸から逃げていく。やめてテーブル汚さないで?


  「48!?嘘でしょ?」

  「まじ。」

  「BMIは?」

  「何それ?知らん。」

  「え?痩せた?」

  「痩せてない。多分学生時代からそんな変わってない。」


  何がそんなに衝撃なのかジロジロ俺の全身を舐めるように見つめる。


  「……まじ?大丈夫?ご飯食べてる?」

  「今食ってるし飲んでる。」

  「……え?毎日飲んでなんで太らんの?」


  そんなにショックか?さてはお前太ったな?


  「椿は何キロ?」

  「やだ。」

  「俺は言ったのに自分だけ逃げるのか?言え。言うんだ。」

  「やだ。女の子に体重訊くとかありえんし。」

  「じゃあ俺より重い?軽い?」

  「……カルイヨ。」

  「重いのか……デブめ。」


  椿の横にあったクッションが顔面に飛んできた。あれ?なんか臭い。さてはポテチがおしっこしたな?


  「ねぇやめて。おでんの汁ついた。」

  「軽いって言ってんじゃん!」

  「嘘だな。」

  「なんでそんな頑なに否定?あのね、ハルが痩せすぎだから。心配になるレベル。もっと太ろ?日本が飢饉に襲われたら真っ先に死ぬよ?雪山で遭難したら1日で死ぬよ?生き残れない。脂肪つけろ。」

  「もしかして朝走ってるのってダイエット?」

  「太ってないってば!!」

 

  あ、まじで太ったん?でもそんなに太ってる感ないし気にしすぎじゃない?

  女ってなんでちょっと体重増えたくらいで深刻な顔してダイエットするの?


  「女目線で太ってるってどこからが太ってるの?」

  「だから太ってないってば。」

  「いやもういいよそれは…椿は何キロオーバーで太ったって思う?」

  「…プラス5キロ。」

  「5キロ増えたらそんなに体型変わる?」

  「変わるよー。スーパーのお米半分だぞ?」

  「よく分からん。」




 ※




  おでんが無くなった頃には俺も酔いが回って眠くなってきた。熱燗はすぐ酔っ払う。日本酒は普段飲まないけど、熱いお酒は酔いが回るのが早い…気がする。


  「…そういえばおでんの汁で日本酒割る飲み方あったっけ。」

  「出汁割?飲む?」

  「うーん……今日はいいや。」


  スマホを弄りながら椿は熱燗を口に呷る。こいつ最近酒強くなった?同じくらい飲んでるのに。


  「そういえば私プライム会員になったんだよ。先週くらい。なんか観る?」

  「プライムってA〇azon?」

  「うん。映画観たくてさ…」

  「それさ、商品が当日届くとかそういうのもあるんだっけ?」

  「あるんじゃない?私あんまりA〇azon使わないから知らないけど……そもそもネット通販信用してない。」

  「でもプライム会員なんだ……」

  「うん。」

  「なに観てんの?」

  「ワー〇ド・ウォーZ。」

  「出た。」

  「あとファ〇ナル・エクスプレス。」

  「出た。椿バ〇オといいさ、ゾンビ物好きなの?」

  「バ〇オは聖域だから。それとワー〇ド・ウォーZは別物。」

  「よく分からん。」

  「ハルだってアイ・〇ム・レジェンド好きじゃん?私ハルに付き合ってうんざりするくらい観たよ?」

  「サム可愛いだろ。」

  「私ゾンビ映画で走るゾンビ好きじゃないな〜。」

  「嘘だ。今言ったやつ全部ゾンビ走るし。ワー〇ド・ウォーZなんてあいつらのアクティブさ半端ないかんな?壁越えて来るからな?」

  「イスラエルだっけ?怖いよねあのシーン。こう……効果音といいさ、ゾワゾワって虫みたいに群がってるの無理。」

  「あれ続編あるらしいね?」

  「へ〜…まぁ続編は…別に…」

  「観ろよ。あの映画いいじゃん。すげー気合い入ってた。」

  「好きだけどね。」


  熱燗が無くなった。まだ飲みたいと言うので温めてたやつ持ってくる。

 

  そういえば電子レンジで熱燗を作れるらしいんだが……


  「で?観る?なんか。」

  「ペ〇ト・セメタリー。」

  「キング好きね。ハル。」

  「椿は何が好き?」

  「ミザ〇ーかI〇。」

  「ミ〇トは?」


  お猪口に熱燗を注いだら2人で舌を濡らす。椿的に〇ストのブームは去ったらしい。まぁ賛否あるストーリーだし。

  椿はステ〇ーブン・キングはハマったり飽きたり…

  〇Tがリメイクされた時は観に行ったらしい。


  「ペッ〇・セメタリーはリメイク版と最初のと2どれが好き?」

  「2?」

  「続編作られたんだって。評価良くないけど…」


  スマホでペ〇トセメタリー探しながら椿が尋ねる。続編なんて知らなかったよ。


  「俺は2019年のが好き。てか観ないけど…」

  「観ないの!?買っちゃったんだけど!?」

  「買うなよ。会費払ってたらタダで見放題なんじゃないのか?」

  「……買っちゃった。」


  知らない。買ってなんて言ってない。


  「てかさ、椿お前もっと流行りの映画観ろよ。周りと話題合わないだろ?」

  「I〇は話題でしょ?」

  「いや、ジャンルとしてそういうニッチなのじゃなくて恋愛ものとかあるだろ?」

  「ホラーとかゾンビはニッチ?」

  「……若い女の子が友達とステ〇ーブン・キング観るかな…?」

  「それは偏見だハル。てかハルの言う流行りってなによ?」

  「……ア〇ハラとか?」

  「なにア〇ハラって?」

  「恋愛映画だろ?漫画かなんかが原作よ……ほら、知りもしないじゃん。」

  「ハルだって知らないでしょ?てかそれいつの映画?全然流行りじゃなくない?」

  「椿さんよ。友達や職場でワー〇ド・ウォーZ観てる人が何人居るかね?俺は昔から君のそういうところが心配なわけよ。」

  「ハルより友達多かったけど?」

  「過去形な時点でお察しだ。」

  「そうかね?朝とかまだ誰も出社してない時間に来た時自動扉の前で扉開けられない新感染ゾンビごっことか後輩とするけど?」


  ちょっと何言ってるか分からない。ゾンビごっこするOLとか嫌だわ。


  「パイレーツ〇・オブ・カリビアンは好きだよ?」

  「そうそうディズニーとかそういうの。美女〇野獣とかあったじゃん?エマ・ワ〇ソンのやつ。」

  「私恋愛映画興味無いんだよねー。今はね、キ〇ビンとかブレア・ウイ〇チ・プロジェクトとか観たい。」


  ニッチ過ぎる。ゾンビ関係ないし。

  でもキ〇ビンいいよね?終盤のあのカオスっぷりはすごくいい。


  まぁとにかく今は映画を観る気分じゃない。酔っ払ってて寝落ちしそうだしそもそももう日付変わったし。そんなに起きてたくない。てかもう眠い。


  「……そのプライムって世〇も奇妙な物語観れる?」

  「なに?ハマってんの?てか…あ〜……酔った。」

  「おい、ねぇってば。観たい。走る取〇とか昨日よりいい人とか……」

  「さっ〇よりもいい人、ね?懐かしーわ。私全然観てないから覚えてないけど……えーとね……」


  観たい。無性に観たくなった。世にもなら長くて1話20分くらいだから観れる。


  「……ないっぽいわ。」


  なんでだよ。


  「ほ〇怖とかはあるよ?観る?」

  「やだ。ないならいいや。」

  「私も観たくなってきたな…にわかなんだよね。おすすめある?」

  「取的、懲〇30日、理想〇スキヤキ、戦争〇なかった、耳〇き、マニ〇アル警察、透き通〇た一日。」

  「どれが1番オススメ?」

  「透き通〇た一日。ストーリーは微妙だけど北〇きいがかわいい。」

  「……楽しんで観れるエピソード教えてよ。北〇きい好きだけど……」

  「あ、恋愛経験値低めの椿には栞〇恋とか。堀〇真希だし。」

  「演者で選んでる?」

  「いやあれいいよ?ストーリーすごくいい。観ろ。今観ろ。」

  「えー、Y〇utubeあるかな?」

  「知らん。」


  ほんとに観たくなってきた。フ〇テレビさんY〇utubeの公式チャンネルとかでやってくれないかな……?


  「じゃあさ、怖いやつ。いっちばん怖かったのは?」

  「缶〇り。」

  「観たことあるわそれ。知ってる。有名よね?」

  「まじでトラウマ。なんか知らんけど怖すぎた。正直よく覚えてないけど…」

  「昔缶けり中に死んじゃった子供が化けて出てきて缶けりする話よね?」

  「うん。」

  「それは観たから他。」

  「0.03フレーム〇女、墓〇。」

  「墓〇も観た。じゃあ今度その女のやつ観よ。」


  結局喋ってたらただ観たくなっただけだった。消化不良。明日にでもビデオ借りようかな?


  というかほんとに眠い。もう寝たい。


  「椿、俺もう--」

  「あれ?お酒もう無いの?」

  「マジで?まだ飲むの?」

  「……なんかおつまみ欲しいな。」

  「お前さっき酔ったっつったじゃん?」

  「ハル、酔ってからが本番でしょ?」





 ※




  この女に付き合ってたら朝が来る。いい加減寝ないと。今日はほんとに眠い。


  2階に上がるのも面倒臭いので居間に毛布を被って寝っ転がった。

  居候娘は勝手に冷蔵庫を漁ってハイボールと炭酸水とレンジで温めたチョリソーを持って戻ってくる。


  「マジで寝るん?」

  「眠い…おやすみ。」

  「風邪ひくぞ?湯たんぽ持ってくる?」

  「……要らん。お前もはよ寝ろ。」


  瞼が重くなってきた俺の横でお構い無しにウイスキーを作る。グラスに当たる氷の音が鈴の音のように軽やかだ。


  「寒い…暖房つけてよ。」

  「やだ。」

  「ほんとに風邪ひくって。てか私の毛布取らないで欲しい……てかさ、話戻るんだけどクリスマスイブの夜予定ないの私だけなんだよねぇ…後輩とか彼氏作ってさ?」

  「……。」

  「なんか…彼氏とクリスマスを過ごすじゃなくてクリスマスに向けて彼氏を作る的な?どう思います?ハルさん。」

  「……寂しいと?お前毎年家で食っちゃ寝してるか仕事だろ?」

  「嫌だねぇ…いや、ここで食っちゃ寝はいいんだけど仕事が……」

  「合コンの大学生は?」

  「あんなのとっくに連絡先消した。」

  「ひで。」

  「……なんかさ?『椿先輩彼氏いないんですか?え〜?』みたいなノリが多くてね……最近。」

  「そもそも彼氏の定義って何?」


  右から左に流れる椿の声をキャッチして朦朧とする意識の中尋ねた。

  どうでもいいけど。ただの相槌程度の質問。


  なのに目の前の酔っ払いは真剣な表情でそれを受け止める。もう寝かせて。


  「……なんだろ?大前提として好き同士、お互いが恋人って思ってたら、女から見たら彼氏じゃん?」

  「……うん。」

  「他になくない?」

  「関係性は?」

  「は?」

  「男友達と彼氏の境界…」

  「だから好きかどうかじゃない?」

  「……そーだね。」

  「どったの?哲学的だね?」

  「……つまりお互い好きかどうかってとこだけが友達と恋人の違いだと……」

  「……さぁ。ほら、友達と恋人だと付き合い方も違うし……一概に気持ちだけの違いとは言えなくない?ただの友達とはエッチしないでしょ?」

  「……だから、俺が言いたいのは…たったそれだけのことだってことなのさ。」

  「え?」

  「僕達私達友達です、でも好きですってなったらそれだけで恋人関係になり得るなら彼氏なんて簡単に作れるでしょ?」

  「簡単?」

  「好きになればいいんだから…」

  「簡単か?相手は?」

  「好きにさせればいいんだから……お前なら簡単だろ?」

  「簡単?それ褒めてる?」


  会話が終わらん。何喋ってるかよく分からんけどとりあえず眠い。椿お前はいい加減黙れ。


  「つべこべ言ってないで欲しいなら作ればってこと。世の中の男女はそんな簡単なことをこなしてるだけなのさ……」

  「……。」

  「クリスマスに甘い時間を過ごしたいなら作ってみたら?」

  「……ハルはいいのかね?私に恋人ができても?」


  ほっぺをつねるな。やめろ。

  こいつもだいぶ酔ってる。顔赤いし。これは明日まで残るな。


  「……言いも悪いもないし……」

  「そもそも彼氏できてもクリスマス仕事だし……」

  「じゃあ…諦めたら?」


  こいつこんなに彼氏彼氏言うキャラだっけ?酔っ払って本心出てきた?


  「彼氏がって言うか…後輩とかからいじられるのがウザイ…最近やたら『ほんとに居ないんですかぁ?』って詮索されてなんかもう……」


  寝返りうって椿に背中を向けた。俺の横顔にじっと視線が降り注ぐ気配。


  いい加減寝る。睡魔が俺を引っ張ってる。椿の声も遠くなっていって……


  「……それってさぁ、ハルのせいなんだよねぇ。」


  なに?何が俺のせいって?


  「……ハルさぁ。いっそ--」


  ぼやぼや不確かな響きが鼓膜に沈んでくる。椿の何か言いかけた台詞を最後に俺は完全に眠りに落ちていた……



  ……何がいっそなんだ?


 

  翌朝2人して頭が痛かった。


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