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琴葉ちゃんが可愛いので

 

  今日はお客様のところに寄ってそのまま上がりだった。腕時計で時間を確認したらまだ17時前。


  「……奇跡?」


  早退でもないのにこの時間。こんなことってあるのかしら?メガネが踊り出す。

 

  ハルが骨を折ってから大体二週間。来週には退院だ。私はずっと琴葉ちゃんとあの家で暮らしてる。

  第2の自宅みたいなものだけど、ホームシックに駆られた私は久しぶりに我が家に帰ってきた。


  というのも、ノートパソコン取りに来た。仕事で使うやつじゃなくて、単純にプライベート用の。


  「……うわぁ。」


  久しぶりの自宅は足の踏み場もないくらいものが散乱してる。でもまぁ、一人暮らしの部屋なんてこんなものでしょ?

  ……というか、ハルの家も今こんな感じ。忙しいからね。


  私が帰ってきたら琴葉ちゃんが洗濯物を片付けている始末。私は直ぐに力尽きる。

  着々と汚部屋へと成長を遂げていくハルの家も何とかしなければ……


  「……見っけ。」


  ノートパソコンはなんとベッドの下に潜り込んでた。こんなことあるのか…パソコンだぞ?ついでにパソコンの下にバ〇オヴィレッジがあった。


  ヴィレッジやった。重い腰あげて。怖かった。みんな怖いって言ってた赤ちゃんやばかった。チビった。

  私はゲームそんなにやり込む派じゃないけどバ〇オシリーズに関しては結構やってる。最高難易度、Village of Shadows?めっちゃキツかった。


  「……ハルにもやらせるか。」


  あ、でもP〇5ないよね。持ってくのだる。またいつか……


  「とにかくグラフィック凄かったもんなー……あれは、技術の進歩を……お?」


  一人でブツブツ感動してたらまたなんか出てきた。


  ……卒業アルバムだ。高校の時の。


  なんでベッドの下にこんなものが有るんだろ?何かの時に引っ張り出してそのままだったのかな?


  何となくその場でページをめくってみる。体育祭とか文化祭とか修学旅行とかの写真がいっぱいあった。


  ……懐かしいなぁ。


  ひろちゃん、まきちゃん、トモちん……よくつるんでた。トモちん陰キャだったけど面白い子だったなあ……

  船越、私の高校の時の彼氏。

  あーあ、なんで付き合ったんだろ?時間の無駄だった。スケベ野郎。


  ページをめくってたらその度に昔を思いだす。大した思い出ないけど、部活と、友達と、ちょっと恋愛……そんな普通な青春だった。

  なんだかんだ言って、友達居て部活充実して彼氏いて、それなりに楽しんだんだよなぁ……


  「……。」


  卒アルの写真、探してもハルの写真がない。個人撮影とかクラス写真には写ってるけど、行事とか日常風景とかの写真、一枚もない。トモちんすら写ってるのに……


  「……そーいや修学旅行とか来なかったっけ。」


  考えてみれば、そりゃそうだ。琴葉ちゃん家に一人にしておけないもんね。


  修学旅行…みんな馬鹿みたいにはしゃいでる。若さとエネルギーを持て余した私たち。みんな楽しそうだ。


  ハルの家庭のこと知ってた子ってクラスで何人くらいだろ?

  まさか同級生で妹を一人で育ててる子が居るなんて思わないんだろうなぁ……


  「……。」


  琴葉ちゃんのことで、あいつが愚痴ったことは無かった。それだけ琴葉ちゃんが大切なんだ。でも、きっと、初めからじゃない……


  「……なんか、変な気分になってきた。」


  私は赤い表紙を閉じてカバンに重たいパソコンとアルバムを詰め込んだ。カバンが重い。


  「ノートパソコンって全然軽くなってないじゃん。薄くなったり軽くなったりとか言ってるけどさぁ……これなら分厚くていいからUSB端子返してよ。」


  最近のA〇pleさんは時代に先行しすぎ。私は今だにホームボタン欲しい。やっぱり7くらいがいいよ。




 ※




  「ただいまぁ。」

  「おかえり!」


  重たいカバンは坂道には地獄。悲鳴をあげる私の肩が解放されたのは玄関にカバンを下ろした時だった。


  「早かったねぇ。」

  「そーなの。お部屋お掃除しないとね。」

  「大変だ。」

  「手伝ってくれる?」

  「んだ。」


  琴葉ちゃんを抱えて居間に移動。居間には琴葉ちゃんが取り込んでくれたであろう洗濯物が無惨な姿で横たわっていた。私のシャツが……


  「洗濯物いつもありがと。」

  「んだ。」


  琴葉ちゃんにしっかりお礼を言ってから洗濯物をベッドにするポテチを追っ払って洗濯物を畳む。

  居間から私の部屋にかけて散乱した衣類等もこの機会に畳んでしまう。


  「姉ちゃんケータイ貸して?」

  「いいけど、宿題終わった?」


  私が尋ねると琴葉ちゃんはそこら辺に放られたランドセルから算数のプリントを見せつける。無論、全て埋まってた。


  「終わった!」

  「流石。琴葉ちゃん偉いね。」


  私はスマホのロックを解除してやってから琴葉ちゃんに手渡す。暇な時はこうしてY〇utubeとか観てる。


  「お姉ちゃんは宿題とか後回しだったもんなぁ……」

  「兄ちゃん、怒るんだもん。」

  「ちゃんとやらないとね。でも、兄ちゃんが居なくてもちゃんとできるのは偉いよ?やっぱり琴葉ちゃんはいい子だね。」

  「ご飯なに?」

  「いい子だからカレー。」

  「昨日もカレー。」

  「琴葉ちゃん?カレーは二日目が美味しいのだよ?」

  「兄ちゃんは二日目うどんにしてくれるよ?」


  そういえばそうだった。ハルはカレー作ったら2日目はライスだけじゃなくてうどんとかなんかアレンジしてくる。こういうのも、琴葉ちゃんが飽きてしまわないようにっていう工夫なのかな?


  毎日同じものが出てきたことってあんまりない。毎日のことなのにダブらないってすごいよね。


  「……うちはよくダブってたな。」

  「う?」

  「晩御飯。」


  大体花嫁修業とかってお母さんとするの?私がする時はハルに弟子入りしよ。今花嫁修業とかあるのかな?




 ※




  21時をすぎた。夜中から降り出すとは言ってたけど、カーテンを閉める頃にはガラスを雨粒が叩き出した。


  琴葉ちゃんは雨が大好き。日差しの強い日は外に出られないから。

  琴葉ちゃんはポテチを膝に抱いて窓の外を見てた。


  「……ぼちぼち台風シーズンかな。またできたらしいし……」

  「台風だって、ポテチ。」


  琴葉ちゃんの膝の上でゴワゴワの毛を撫でられるポテチが小さく鳴いた。


  「……そろそろ寝よっか?夜更かししたらおちびになるよ?」

  「夜はこれから。」

  「その通り、そして夜は寝る時間なのだ。さ、おいで。」


  最近の琴葉ちゃんの夜更かしがひどくなってると、ハルが嘆いてる。

  二人で晩酌してたら突然現れるなんてことも、最近あった。


  規則正しい生活を送らせてあげなければハルの入院してる間に夜更かしが悪化してたら何言われるか分かんない。


  琴葉ちゃんを抱えて2階の寝室に移動してベッドに一緒に入る。ポテチも琴葉ちゃんが寝る時は着いてくる。仲良し。


  「姉ちゃん、ケータイ貸して?」

  「ダメです。寝なさい。」

  「まだ眠くない。」

  「だーめ。目が冴えちゃうよ?」

  「やん。」


  格闘すること15分。琴葉ちゃんはうつらうつらし始める。時々思い出したように目を開いてベッドの下に手を伸ばす。その度にポテチが身を起こして体を擦りつけている。


  ……可愛いなぁ。


  琴葉ちゃんが完全に眠ったのは21時38分。私はいつも琴葉ちゃんが寝るまで一緒にいる。


  琴葉ちゃんが隣で寝息を立て始めた頃、私は隣でスマホを取り出した。

  最近急に寒くなったものだから、ベッドから出たくない。もう少し、天使ちゃんの体温を拝借する。


  画面を暗くして琴葉ちゃんに背中を向け、何となくカメラロールを開く。


  並んだ写真を遡る。

  アルバムの中は琴葉ちゃんの写真がいっぱいだ。この子はレンズを向けたらいつも寄ってくる。写りたがり。


  社会人になった時、学生時代の写真の大半はスマホからパソコンに移した。普段目につくところに置いときたくなかった。


  「……懐かしいなぁ。」


  それでも何枚かは取ってある。

  私と琴葉ちゃんが二人で写ってる。私は部活のユニフォームを着て、琴葉ちゃんを膝の上に乗っけてた。


  これはなんかの大会で優勝?したのかな?2位だか3位だったかも…

  この時--ていうか、琴葉ちゃんはいっつも私が試合で勝つと喜んでくれた。


  ……にしても若いな、私。


  20歳にしてそんなことを思う。これは高二位の時だ。メガネで分かる。メガネかけてる人はかけてるメガネで大体の年代の予想がつく。メガネは恋人。


  「……ポテチ、これ誰か分かる?」


  ベッドの下で丸くなるポテチの前にスマホの画面を持ってくる。細く目を開いたポテチが匂いを嗅ぐように顔を近づける。

  分かるよね?2~3年前だし。


  この頃は髪も長かった。今より長かった。自分で言うのもあれだけど…可愛い。


  それにしても琴葉ちゃんとのツーショット多いな。見返してみたら、ホントの姉妹みたいだ。


  ……琴葉ちゃんと初めて会ったのって、確か高一の文化祭…

  あの日、初めてハルの家に行った。


  初めて琴葉ちゃんと会った時、あの子はハルの背中にずっと隠れてて、ハルから離れようとしなかった。

  ハルがクラスの出し物の準備でクラスのお店から離れた時、そこから離れなかった琴葉ちゃんがハルが居なくなって泣いた。

 

  ……あの時確か5歳……とかだっけ?


  その時、私はずっと琴葉ちゃんに付きっきりになった。

  一緒に手を繋いでお店を見て回ったり、たこ焼き食べさせてあげたりした。不安で泣きじゃくる琴葉ちゃんを見て、ハルに腹が立ったのも覚えてた。


  あの時はハルの家のこと、まだ知らなかった。だから、あんなふうに「こんな小さい子を放ったらかしにするなんて」って憤った。

  多分、まだハルともそんなに親しくなかった。


  だからあんなふうに怒ったんだと思う。多分、ハルも疲れてた。


  部活の仲間と一緒にあやしたっけ。気を紛らわす為に軽音部のコンサートに連れていったら音が大きくてびっくりしてた。


  「……可愛かったなぁ。」


  琴葉ちゃんが私とハルを知り合わせてくれた。


  隣の琴葉ちゃんの頭を撫でる。髪の毛サラサラだ。ベッド横のスタンドライトのオレンジの光が白い髪の毛に暖かい色味のコントラストを添える。


  「……ありがと。」


  起こさないようにそっと、琴葉ちゃんのほっぺにキスする。柔らかくて、温かい。


  もうしばらく隣で寝顔を見てたくなって、私はそのまま琴葉ちゃんの顔を見つめてた。メガネ外したら見えないから、そのまま枕に頭を乗せる。耳の後にメガネのつるがくい込んで痛かった……


 

  ……次の日の朝起きたら、メガネ折れてた。


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