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家族が増えたので

 

  椿が来た。

  猫に構ってたら朝ごはんを忘れてたので、朝食を用意する。


  「琴葉ちゃんお土産〜。」

  「モンブランっ!」

  「冷蔵庫入れとくねー。」


  椿のお土産に琴葉の意識が持ってかれた。もうお味噌汁とご飯は眼中にない。


  「兄ちゃん、食べていい?いい?」

  「んー。いいよー。ご飯のあとねー。」


  ねこまんまを作って朝ごはんをかきこむ。椿は勝手に冷蔵庫を漁ってる。

 

  「ハル〜、こっちに私のスーツとか置いてない?洗濯間に合わなくてさ……」

  「あんじゃね?部屋見てみろよ。」

  「シャツ洗濯してくれてる?」

  「してるのが当たり前みたいに言うな。」

  「……?何見てんの?」


  後ろからスマホをいじる俺を椿が覗き込む。


  「……猫の飼い方?」

  「うるせぇ。」

  「え?飼うの?……おっ!」


  椿が何やら声をあげたのでそちらを見る。縁側の戸を開けておいたらいつの間にか奴が縁側から部屋の中に上がり込んでた。

  奴……あのデブ猫である。


  「おはよう、元気ぃ?」

  「あっ!猫ちゃん!」


  椿と琴葉が無断で立ち入る侵入者の方にてくてく寄っていく。近づいてくる人間二人に対して奴は動じる様子もなくふてぶてしく板張りの上で横になった。


  「さっきね、ご飯あげたの。」

  「ご飯?ハル、まじで飼うの?」

  「兄ちゃん名前!名前決めよ!」


  勝手に何言ってんだか……


  「決めない決めない……動かなかったから心配しただけだっつーの。庭で干からびてたら嫌だろ?」

  「なんだかんだ気に入ってんじゃん。いいなぁ…私も猫飼いたい。」


  琴葉が奴の頭に触れる。指先でちょんちょんとつつくと、奴は耳をピクリと揺らせて反応を示した。

  おもしろいのか今度は耳を突っつく。目を細めた奴は鬱陶しそうに頭を振ったけど相変わらず寝転んだままだ。


  慣れてきたのか琴葉が頭を撫でる。椿も顎の下やお腹ら辺をくすぐるみたいに撫で始めた。すっかり人気者だ。


  「かわいい。」

  「ね、ほんとに嫌がらないね。あははっ、デブだなぁ。」


  椿が笑いながらお腹をタプタプ揺らす。寝転んだ奴はされるがまま。


  「琴葉、モンブラン食べないの?」

  「食う!」

  「琴葉ちゃん、ちゃんと手洗うんだよ?」


  ひとしきり奴で遊んだ琴葉が騒がしく台所に駆けていく。ちゃんと石鹸で手を洗ってるのを確認して俺は椿の隣に座る。


  髪の伸びた椿は後ろでひとつ結びにしてる。メガネもフレームが細いものになって学生時代みたいだ。こうして見ると俺らも高校生の頃からあんまり変わってない。

  まぁ、たかが2~3年の時間しか経ってないけど……


  「……お前何そのシャツ。」

  「え?」


  ロングカーディガンの下に着てたTシャツには『M1911A1』とでかでかプリントされてる。今日のシャツはガバメントだ。


  まぁいいや。


  「…あ、こいつキ〇タマついてる。」

  「男の子ね。」


  椿と一緒になって俺も奴を撫でる。やっぱり毛がごわごわして痛い。


  餌を貰って警戒心が薄れたのか、家にまで上がり込んだ奴のくつろぎ様は実家に帰ってきた子供だ。にしても太い。何歳くらいだろうか……




 ※




  しばらくしてモンブランを平らげた琴葉がまた奴のところに来た。

  引っかかれやしないかと内心ヒヤヒヤだが、真横に転がる琴葉に奴はさして興味も無さそうだ。とりあえず目の届く場所で様子を見る。


  その間椿は自室もとい客室にこもった。なんか持って帰ってきた仕事があるらしい。家でやれ。


  居間に座りながら俺は警察と保健所に電話してみた。

  どうやら迷子の飼い猫の情報はないみたい。やはり野良か……


  「えぇ?知らないよ?りっちゃん昨日持って帰ったんじゃないの?」


  隣から椿の悲鳴みたいな声が聞こえてくる。うるせぇ。


  方々に連絡してもやっぱりどこかの家の猫が逃げたって話はない。


  俺は諦めて立ち上がり琴葉の横に座った。


  最初の位置から動こうとしない奴の隣で琴葉は寝転んでじっと奴を眺めてる。近い。


  「噛みつかれるよ。」

  「やー。」


  ズルズル引きずって奴から引き離す。どうやら寝始めたらしい奴が横でガヤガヤしてる俺らをちらりと半目を開いて一瞥した。


  やっぱりふてぶてしい……


  「兄ちゃん、あげたご飯ちゃんと食べてたよ。」

  「そう。お腹空いてたんだね。」

  「偉いねぇ。」


  寝転んだまま琴葉が奴を撫でる。なんだこいつゴロゴロ喉を鳴らし出したぞ。


  「バイ菌持ってるからあんまり触っちゃダメよ。」

  「や!」


  最近琴葉がよく嫌だって言うようになってきた。小さい子って〇〇してね?って言うと嫌だって言うものらしい。


  琴葉の場合は「や!」って言っても言うこと聞いてくれるけど、今回は聞いてくれない。

  よっぽど興味津々なのか奴から離れようとしない。もちろん奴も動く気配がない。


  困った。


  「……ポテチ。」

  「ん?おやつ?」

  「ポテチ!」


  琴葉が奴の頭に手を乗せながら堂々と宣言する。


  ……まさか名前?


  「ポテチ!」

  「ポテチって名前なの?」


  力強く頷く琴葉。満面の笑みだ。


  「ポテチ〜。」

  「こら。」


  抱きついて顔を埋めようとする琴葉を止める。流石に汚い。我関せずの奴--改めポテチはぷぅぷぅと寝息をたてはじめた。


  「柚姉!この子ポテチ!」

  「こら。お姉ちゃん仕事中だって。ダメよ。邪魔したら。」


  名前までつけちゃった。参った。ここまで愛着を持たれたらいざ居なくなったら琴葉もショックだろう……


  ……飼うか?


  正直迷ってた。どこかの飼い猫って訳じゃないようだし、このまま居座るのなら仕方ないかくらいの気持ちにもなってた。


  ……なってたけど、やっぱり困った。


  琴葉がポテチの傍を離れる。2階に上がろうとするのを捕まえて手を洗わせる。

  2階に上がって行った琴葉を見送ってから毛布を一枚引っ張り出した。


  ピンク色の毛布を折りたたんで縁側の前に敷く。

  すやすや寝てるポテチをそっと抱き上げて毛布に乗っけた。

  突然抱き上げられたポテチはパチッと目を覚ましたけど、俺の顔を見上げるような仕草を見せたらまた目を閉じた。全く警戒心がない。


  昼飯の準備をしてたら慌ただしい足音と共に琴葉が降りてきた。その手には何やらダンボールが握られてる。


  何するのかなと眺めてると、一直線にポテチのところに行って、ドンッとダンボールを置いた。


  「ポテチの家!」


  見ていた俺に向かって宣言する琴葉がダンボールを指さした。

  箱型のダンボールにはマジックで『ポテチ』って書いてる。そのほか、琴葉が描いた猫や花の絵が散りばめられてた。


  「……お引越しするかね。」


  手を拭いてそっちに向かう。

  隣に置かれたダンボールに、ポテチは鼻をヒクヒクさせながら興味を惹かれてた。そんなポテチを抱き上げてからまず毛布をダンボールに敷く。

  その毛布の中に再びポテチを寝かせた。


  「ポテチ、今日からそこが家だよ。」

 

  上のくり抜かれたダンボール箱から顔を出すポテチに琴葉が言い聞かせてる。

  そんな光景に思わず笑ってた。




 ※




  --今日は琴葉の誕生日。


  仕事終わりにケーキ屋さんに寄って頼んでたケーキを取りに行く。結構高かった。


  その足で近所のペットショップに寄る。そこで猫用のトイレとかおもちゃとか食器とか買ってタクシーに乗る。


  帰宅する頃には5時半を過ぎてた。坂道をえっちらほっちら両手に荷物を抱えて登っていく。


  「ただいま。」

  「おかえりぃ!」


  玄関先で待ってたと言わんばかりに琴葉が出迎えてくれる。そんな琴葉に手に提げた誕生日ケーキを掲げて見せる。


  「ケーキだよ。」


 

  あれから数日経った。ポテチはしばらくそのまま様子を見てたけど、相変わらず出ていく気配もない。

  とうとう家の中を徘徊し始めたので、もう飼うことにした。


  今日も相変わらず定位置の縁側前でウロウロしたりグタッと寝てたり好き勝手やってる。

  俺らにも慣れたのか最近は寄ってくるようになった。


  ポテチの自宅であるダンボールの横に買ってきたトイレとかを設置する。トイレの中に砂を敷き詰める。


  「?」

  「ポテチのトイレ。ここでトイレするんだよって教えないとね。」

  「教える!」


  横でゴソゴソやってるのが気になるようでポテチも寄ってきた。


  飼うって決めた以上病院には一度連れていかないといけない。あと一回体も洗おう。爪も切ろう。


  野良猫を飼うって大変そうだけど、ポテチは俺らに最初から慣れてる感じなので、何とかなるだろうか。


  ……まぁそれは明日以降、とりあえずご飯。


  誕生日なのでご馳走。

  大きなチキンと炒飯、コンソメスープ、その他色々にデザートはケーキ。


  食卓に着く琴葉も嬉しそうにしてる。今日で9歳かと、なんだか感慨深い。


  椿は遅いだろうから2人だけで誕生日パーティ。


  「プレゼントだよ。」

  「…わくわく。」


  俺から包みを受け取る琴葉。騒いでるのが気になるのかポテチもやって来た。琴葉がよく構うからか琴葉によく慣れてる。自然と琴葉の隣にベタっと寝転んだ。


  包の中身はまず大きな猫のぬいぐるみ。それと髪留めがいくつか、あと児童用の小説、と漫画。

 

  毎年似たようなラインナップでマンネリだけど琴葉は嬉しそうにしてくれた。


  デザートのケーキにろうそくを灯して吹き消すお決まりの儀式。

  9本のろうそくは琴葉には一息じゃ吹き消せなくて何本か残った。何度もふっふっと息を吹く琴葉は可愛い。


  ……本当によくここまで大きくなってくれたものだ。


  初めて会った時はそれこそ子猫みたいに小さかったけど……

  お袋と親父が死んでから2人で生きてきた。今日まで無事に大きくなってくれて、感謝みたいな気持ちを抱く……


  琴葉はいくつになっても大事な妹だ。


  結局ケーキは食べきれなかったので、夜中に椿に分けて朝も食べた。


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