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ベッドも中華も高いので

 

  家具屋さん。大型モールに店舗を構える家具屋さんは品揃えもバッチリだ。

  俺は椿と二人、真ん中に琴葉を挟んで店内を歩く。


  「今日、何買うの?琴葉の椅子?」

  「そだよ。ボロボロだからね。新しいのにしよーな。」

  「良かったね琴葉ちゃん。」


  まだまだ甘えん坊の琴葉は両手を俺と椿と繋いでルンルンだ。サングラスをかけて大きめの白いTシャツだからなんかちびっ子ラッパーみたい。


  ……それにしてもこうして三人で歩いてるともはや夫婦……


  我が子をあやしながら歩く夫婦…え?やだ。


  「で?椅子と机だけ?」

  「窓に貼るフィルムと、座椅子も新しいの欲しい…あと電気屋さんで電子レンジもみたい…」


  椿に返しながら、他になにかないか考える。せっかく遠出したんだからついでにあれば買っておこう。


  「あと水着ね。」

  「みずぎー!」


  椿と琴葉がテンション高く飛び跳ねる。


  「……椿はやっぱり着たいだけだね。水着。」

  「チミは見たくないのかね?体育会系女子の水着姿。」

  「やだ。」

  「…やだって。」


  雑談して歩いていると、ベッドが並んだ一角が目に留まる。大きめな立派なベッドたちが、照明や小さなテーブルと一緒に置かれ、寝室レイアウトを展示している。


  「……ベッドも買うか。」

  「う?ベッド?」


  琴葉が興味を示したのか、すぐに反応してベッドコーナーに駆けていく。行儀よく靴を脱いでから置いてあるダブルベッドに飛び込んだ。


  「ふかふかだぁ。」

  「あはは。あんまり跳ねちゃダメよ琴葉ちゃん。」


  トランポリンで遊ぶみたいに無邪気に跳ねる琴葉を見守り、椿が値段を確認する。


  「……え、高。」

  「こんなの買わねーよ?」


  琴葉が遊んでるこのベッドなら多分俺と椿と琴葉くらいなら詰めれば寝られるくらい大きい。


  「誰用のベッド?琴葉ちゃんの?」

  「お前の。」


  俺の言葉に椿フリーズ。


  「折りたたみベッド痛いって言ったじゃん。」

  「……言ったけど。」

  「要らんなら別にいーや。琴葉、もう行くよ…」

  「いや、待った。来客用のベッドはあって損しない。ただ普段私が使うだけ。」


  なんだかテンションが上がってきた椿が目を輝かせながら他のベッドも物色しだす。


  「や〜…つまりあれだね。ハル。もう私の半同棲は公認だと……」

  「やめてその言い方。」

  「ここまで運転してきて良かったよ。きゃはっ!どれにしよ〜…」


  まだ買うって決めたわけじゃないのに、眼鏡の向こうで椿が目を輝かせる。一緒になって琴葉も色んなベッドを試し始める。


  「おお…低反発。」

  「てーはんぱつ!」

  「こっちは凄い…沈むな……」

  「しずむな!」

  「琴葉ちゃんどれがいい?」

  「でっかいので一緒に寝よ?」


  楽しそうにきゃいきゃいしてる。それにしてもみんな高いな。

  ここに置いてあるのは目玉なのか、二人くらいでも寝られるくらい大きめのばっかり。高いのだとなんか10万以上する。


  奥の方にはこじんまりしたベッドも置いてた。学生の一人暮らし用と言った感じの、下に収容スペース付きのやつ。


  「…これでもでかいか。マットレスとセットで…5万はするのね。」


  ……うーん。高いな。


  しばらく見て回ってから、近くにいた店員に声をかける。

  取り扱ってるのはここに置いてあるので全部とのこと。ベッドの種類は意外と少ない。


  ベッドフレームとマットレスと布団と枕と…

  全部セットにできるらしい。その組み合わせでまた値段も変わるそうな。展示しているセットが一番定番で良心的価格。それでも高い。


  「二人とも行くよ。」

  「?兄ちゃん。買わないの?」

  「高いから却下。」

  「うえっ!?お金出すよ!」


  椿がなんか食い下がるけど、うちに置くベッドだから椿に払わせる訳にもいかない。店員に声をかけて買わないのはなんか申し訳ない気持ちになるけど…


  「残念だったね。柚姉。」

  「ほんとにね。自分で買おうかな…」

  「やめてね。一言言ってね。」


  寄り道も程々に本題。まずは机と椅子。


  「……なんか、こういうのこっちに来る時以来だわ。学生時代を思い出す。父さんと見に来たなぁ……」


  学習机を前になんだか感慨深い呟きを漏らす椿。別にお前のじゃないけどね?


  「学習机使ってなかったんじゃねーの?」

  「いや家具とか家電選びよ。今使ってるのは高校の寮から持ってきたのばっかだし…うちのマンションはベッドとかは最初からあったし……」

  「ほとんど使ってねーわけだ。」

  「あ、うちのベッド持ってくるってのは?」

  「他の人も使うかもだけどOK?」

  「どうせお客さん来ないじゃん。」


  ……あなたは一応客なんだけど?




 ※




  琴葉が気に入った机と椅子を購入。結局学習机になった。

  その後窓に貼るUVカットフィルムも購入。家の全ての窓に貼るから結構な値段になったけど、これでカーテンを開けられるかな…


  俺たちはそのまま家具屋さんを出て、上の階に移動する。


  「座椅子は?」

  「思ったより高いから今日はいいや。」

  「兄ちゃん。腹減った。」


  エレベーターの中で琴葉がぐるぐる鳴るお腹を抑えながら訴える。時計を見ると11時半。結構家具屋さんで時間を使った。


  「……ご飯にするかね。」

  「琴葉ちゃんは北京ダック食べたいんだよね?」

  「うん!」

  「ここじゃ食べれないよ…」


  電気屋さんのある階から、さらに上へエレベーターの階のボタンを押す。

  モールの上層階が飲食店になっている。こういうところは高いけどたまにはいいかな。


  とりあえず中華ということで、それっぽい店の多い11階へ。

 

  「さ、どこに入る?なるべく安いとこで。」

  「ハル。そういうこと言ってるとモテないよ?」

  「兄ちゃん。酢豚食べたい。」


  ん?北京ダックは?


  数分ほどフロアを見て回ったが、昼時でどこも多い。

  結局一番待たなくて済みそうな店に決めた。それでも何人かの先客が椅子で待ってるので、名前を書いて座る。


  「結構高そうですけど?大丈夫ですかねパトロンさん。」

  「なにがパトロンだよ。中華は大体高いじゃん。」

  「でもさ、こういうお店は値段張るよね?中華屋さんとラーメン屋さんって、やっぱり違うわ。」

  「当たり前じゃん。ラーメン屋はラーメン屋だし。」


  何を言ってるのかね君は?


  「餃子の〇将は何屋さんだろ。中華?」

  「中華だろ。」

  「安いよね。」

  「大手チェーン店だから。」


  入店待ちの間に、隣に座っていた親子と琴葉が仲良くなってる。俺と椿がくだらない話をしてる間に、琴葉より歳下の男の子が、琴葉に興味を示したようだ。

  サングラスをかけた小学生はやっぱり目立つ。琴葉もじゃれている男の子相手にお姉ちゃんぶってる。


  そんな微笑ましい光景を眺めている間に順番が回ってくる。名前を呼ばれて親子に会釈し俺たちは入店。

 

  「兄ちゃんと姉ちゃん、何食べる?琴葉酢豚!」

  「酢豚食べれる?」

  「兄ちゃん、バカにしてる。」


  琴葉は酢豚と、炒飯。こんなに食べれるかな?

  椿はラーメンセット。ラーメンに炒飯と餃子の定番のやつ。俺はラーメンだけにしとく。高いから。

  あとフカヒレスープに琴葉が異常な興味を示すのでそれも。


  「……やべえ。高い。ラーメン1杯で900円もする。」

  「中華屋さんだから。高いよね。でもさ、こういう店よりラーメン屋さんの方がラーメンは美味しいよね?あ、琴葉ちゃん餃子食べる?」


  先に来たセットの餃子を琴葉に上げて椿はメニューを眺める。


  「……フカヒレってさ、こーんな細い春雨みたいのでしょ?それが入っただけで5000円だって。ありがたい食材よね。」


  フカヒレスープ大、4900円。フカヒレの相場として高いのか安いのか分からない。


  「味とかじゃなくて作るの大変だからなんだろうな…」

  「兄ちゃん、フカヒレって何?」


  なんと、琴葉はフカヒレを知らない。知らないのに食べたいの?


  「サメのヒレだよ。」

  「……サメのヒレ?」

  「ヒレを乾燥させるの。」


  俺と椿の説明にピンと来てない。これだけ聞いても美味しそうとは感じないか……


  しばらくしたら、全員のメニューが出揃った。

  テーブルの中央に置かれたありがたいフカヒレスープを琴葉の皿によそってやる。なるべくフカヒレ多めに。

  なんかゴロッとしたのが一個と、あとは春雨みたいのが入ってた。


  「おお、なんかちゃんとしてんじゃん。ねぇハル。安いじゃない?これ。」

  「5000円で?フカヒレの相場が分からん。」

  「使うサメによっても違うんだって。どう?ハル。美味い?」

  「……」


  スープは美味しい。フカヒレは……味がしない。


  「琴葉ちゃんどう?酢豚。」

  「すっぱい。」


  椿に向かって口をすぼめて見せる琴葉。すっぱいと言いながらぺろりと平らげた。ただし、パイナップルは口に合わないらしい。


  「酢豚にパイナップル入ってるのどう思う?」

  「ん?ハルは許せない派?」

  「正直どっちでもいい派。琴葉はパイナップル食べないの?」


  俺の問いにいやいやと首を横に振る琴葉が炒飯をレンゲでかきこむ。琴葉は温かい料理に甘味が入るのは嫌い派かな?


  「椿は?」

  「正直どっちでもいい派。」

  「まじか。じゃあ唐揚げにレモンは?」

  「かけない。」


  たこ焼きにマヨネーズもつけない。椿とは食の気が合うのかも。

  ……まぁ、同じような奴は多いか。


  「ハルはかけるっけ?唐揚げにレモン絞るとか意味不明なんだけど……」

  「絞らない。すっぱいから。」

  「ね?なんでって訊かれてもよく分かんないけど……あ、琴葉ちゃん餃子全部おたべ?」

  「食う!」


  気づいたら琴葉は酢豚を完食して炒飯もほぼ食べ終わり、餃子もぺろりと平らげている。琴葉は野菜も食べてくれるからありがたい。


  「琴葉ちゃんよく食べるね。いい子。」

  「あ、ラーメンにもフカヒレ入ってんじゃん。」


  なんか麺に混じってんなと思ったら。


  「え!?まじか。え?入ってないけど……」

  「春雨みたいの入ってんだろ?」

  「入ってない。」

  「…ああ、お前のはセットだからだな。多分。」

  「なにそれ。ずる…」

  「ずるくない。400円くらいしか違わないのに餃子と炒飯ついてる方がずるい。」

  「くっそ。私も単品で頼めば良かった。」

  「…ラーメン美味しい?」


  悔しがる椿と俺のラーメンを琴葉がじーっと覗いてくる。もしかしてお腹すごく空いてたのかな?


  「食べる?いいよ。」

 

  俺が言うと琴葉はフカヒレスープをよそった皿をずいっと差し出した。

  それを受け取って麺とスープ、ちょっとの野菜とチャーシュー、あとフカヒレも入れてやる。ミニラーメン。


  「はい。フカヒレあった方がいいもんね。」

  「ね!」

  「……」


  俺と琴葉のやり取りを椿が複雑そうな目で見ている。


  「お礼!」

 

  琴葉が八割食べた炒飯の器をこちらに押し付けてくる。ありがたくそれを受け取って米粒を口に入れる。


  「……美味。」


  なんなら一番美味い。


  「中華屋で食べる炒飯って美味い……」

  「あ、私小籠包食べたい。頼んでいい?ハル様。」

  「追加はお前持ちな?」


  俺の一言に椿はあっさり引き下がる。メニュー表を見るとなんと2000円。え……高。


  「……なんか全体的に高くね?有名店?」

  「食べ〇グで星4だって。」

  「高いのそれ?」

  「知らん。」


  スマホを見る椿から曖昧な返答。一瞬で食べ〇グの評価が出てくるのが凄い。


  そんなこんなで、高級(?)中華を満喫し、お会計……


  「お会計12,400円になります。」


  …………


  ちなみに代金は俺持ちだった。


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