第二話:支配 - Control -
クラスに迫るテロリスト道化師。
恐怖が迫りくる。
「今日の日直は零か。よろしく頼む」
相変わらずの大きい声で山田が叫ぶと、一人の生徒が立ち上がる。
「起立、礼、おはようございます」
号令に従い全ての生徒が一斉に動き出す。
その姿はまるで規律正しい軍隊を連想させる。
「よし、着席。今日のホームルームだが、、、」
山田の話を遮るように教室の扉が開いた。
急な訪問に不機嫌な顔で山田が振り向いた瞬間、
何者かを理解するよりも早く一発の銃弾が頭を貫いた。
銃声が静かな教室に木霊する。
何が起きたかわからない生徒たちは山田が崩れ落ちる音で我に返った。
「きゃー」
「なんだこれ!」
日常が崩れ落ち、そこは地獄と化す。
生徒たちにとって教官である山田は絶対の存在だった。
逆らうことは許されず絶対の力で常に従わせていたからだ。
そんな存在がいとも簡単に排除されたという事実が生徒たちを恐怖に陥れる。
「鎮まれ」
喧噪に満ちていた教室が一声で静寂を取り戻す。
その声の主が生徒たちの前に姿を現した。
年は30代くらいの銀髪の男だ。
誰の目から見ても魅力的に映る容姿、声、その姿は俳優さながらだ。
銃を片手に生徒たちを見ながらその男は微笑んだ。
「自己紹介をしよう。私の名前は道化師。今日から君たちの教官だ。残念ながら異議異論は認められない。
そこに倒れている男のようになりたくなければ従うことだ。なに、あまり変わらないさ。従う相手が私になるというだけのこと。何か質問はあるかな?」
静まりかえった教室の隅で手を挙げる男子生徒がいた。
日直の零だ。みんなの意外そうな視線が集まる。
興味深そうに道化師はその大人しそうな少年を指さした。
「君、質問を許そう」
「あなたたちの目的は何ですか?」
「ほう、あなたたち?なぜ複数人いると思う?」
面白そうなものを見つけた子供のように笑みを浮かべる。
対照的に零は無表情だ。
「SADSのセキュリティは高度なので、侵入する方法はかなり限定されます。
警報も鳴らず自衛官も動いていないことを考えると正規のルートで侵入し、内通者がいる可能性が高い。トラックでの搬入を装いゲートを通過し、荷下ろし場で合流するという流れでしょう。
自衛官が内通者としていれば、セキュリティが発動しないよう動くことも可能です」
クラスメイトは驚きを隠せない。地味で目立たず、成績もクラスの中では平均的。
教室の隅でいつも本を読んでいる男の子。そんな印象しか持っていなかったのだ。
道化師は愉快に笑いながら零をほめる。
「素晴らしい!まさにその通りだよ」
「質問に答えました。次はそちらが答える番では?」
「いいだろう。目的はSADSを拠点とし、特別行政自治区として総理大臣に承認させること。
簡単に言えば、日本国内に新たな国家を成立させることだ。君たちは人質と同時に私と共に国を作り上げていってもらう」
人は脳の理解が追い付かないとフリーズするが、まさに今がそうだ。
クラス全体がフリーズしている。ただ一人を除いては。
「いいか。改めて言うが君たちに選択権はない。私に従うか、それとも死ぬかだ。頭の良い君たちならどちらが賢明な判断かはわかるだろう。
私はこれから完全にこの学園を支配下に置くために動くが、君たちはここで待機だ。外には訓練された私の部下がいる。逃げようとしたらわかるだろう?
よく話し合うといい。それではまた後で会おう」
みんなの心に恐怖を植え付け、支配しコントロールするための土台を作り上げていた。
颯爽と出ていく道化師をみんな呆然と見送るしかなかった。
扉が閉まると教室に騒がしさが戻る。
「おい、どういうことだ?日本にもう一つの国を作る?」
「そんなことが可能なの?」
「僕たちはいったいどうなるんだ?」
「おうちに帰りたい!」
優秀な学生が集まっているとは、所詮学生だ。
目の前で教官が殺され、テロリストに人質に取られた現実をそうそう受け入れられるものではない。
冷静さを失い騒ぐ中、動いた人物がいた。
「みんな、いったん落ち着こう」
教壇の前に出てきた人物は雨宮耀だ。成績優秀、容姿端麗で非の打ち所がなくクラスのまとめ役だ。
女子にも人気があり、三年連続でミスターグランプリを受賞している。
耀が出てきたことにより幾分か落ち着きを取り戻し、現状の整理を行うことになった。
「まず整理しよう。現在この学園は道化師と名乗るテロリスト集団の支配下にある。相手は教官を躊躇なく殺すやつらだ。反抗したら間違いなく殺される。そして語っていた目的が、どうも腑に落ちない」
思案する表情を浮かべながら零を見た。
「零くん、君はどう思う?」
「そうだな。目的はフェイクの可能性が高い。真の目的は他にある。それを実現するための第一歩としてSADSの占拠、特別行政自治区としての国家設立があるんだと思う。どちらにしても現状打てる手はまだない。大人しく従うのが最善だと思うよ」
冷静に答える零をみて耀は同意する。
クラスメイトも今まで気にもしていなかった零の存在を認識し始めた。
耀が力強くみんなに呼びかける。
「この状況を乗り切るためには、みんなで一致団結するしかない。今は生き残ることが第一だ。諦めず頑張ろう!」
みんなが盛り上がるなか、零はこれからの未来を冷静に分析していた。




