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ブラック企業の空に  作者: 山木 拓
8/13

2018年8月の出来事

 月曜日の朝イチ、まだ一週間の長さを憂いている時間帯。宮本さんが久々に支店長と打合せ室に入っていくのが見えた。これに対し多くの人は宮本さんの身を案じたが、しかし特段怒鳴り声も机を叩く音も聞こえてこなかった。


「じゃあ、週末よろしくお願いします。」


 二人が部屋から出てくると、宮本さんはそう言った。デスクに戻ってくると、皆次々に尋ねる。『何話したの?』『怒られなかった?』『とにかく大丈夫ですか。』まるで学生時代の、骨折翌日の登校だった。流石に言い寄りすぎとも思ったのだが、とはいえ心配する側の気持ちも分かる。あの会議以来宮本さんは時々、急に会社を休むことがあった。毎日毎日あんなに働いて、疲弊して。大袈裟じゃなく、本当に死んでしまうんじゃないか、みんなそう思っていた。


「いや、別に怒られてたわけじゃないよ。ただ、色々頼まれただけでさ」


 『その色々って?』『無理矢理頼まれたんじゃないの?』聞きたい事は同じである。まどろっこしくなった宮本さんは全部話してしまった。


「いや、俺社会の教員免許持ってるんだけどさ、支店長のお子さんがもうすぐ高校受験らしいじゃん? そんで地理とか現社がダメらしいから家庭教師やってほしいんだとさ。あ、でもその分会社は早く切り上げていいし、家庭教師の時間は残業代も出してくれるって。」


 そういえば、どこかで聞いた話だった。


 まさか宮本さんが教員免許を持っているとは。あまりにも意外だった。だがしかし、社内でも分からないことがあれば宮本さんに聞く社員は多いのをみれば、教える側の適性はあるのかもしれない。


 この日から宮本さんは、毎日定時に帰るようになっていた。それは理由として支店長からの扱いが変わったのもあるが、かてて加えてどうやら遂に離婚したとの事だ。自宅で家庭教師の準備があっても、家で一人になれるのが嬉しいらしい。この人はそれを明るく周りに言いふらす。自分の失敗をあっけらかんと話してしまうのも、人が寄ってくる一つの理由かもしれない。

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