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ブラック企業の空に  作者: 山木 拓
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2018年4月の出来事

 またしても土曜日強制出勤が発令された。藤田が辞めた先月も、そして今月も土曜出勤。もうこの会社は完全週休2日を謳うのはやめた方が良い。この日木下とサボりがてら昼食を取っていると、急に変な事を言い出した。


「先輩って、人生を変える方法ご存知ですか?」


 いや、私が普段からぼやいている話の内容を考えると、そこまで変ではないのかもしれない。なんで大学出てまでこんな事をしてるんだろう、なんであんなヤツの下で働かなきゃいけなんだろう、なんでこんな会社で頑張ってるんだろう。自分の発言を振り返ると、自分の人生を憂いてるのがよくわかる。


 私は真剣に考えた。こういう時の木下はなかなか唸らせる事を言ってくる。是非とも正解したい。


「…転職とかか?」


 自分でも絶対これではないと思った。転職で人生を変える、木下がこんなウスい話をするはずがない。のだが、おそらく気を遣ってくれたのだろう。


「えっと、まぁ、半分正解です」


 若干ほくそ笑んでたようにも見えたが。


 木下は水を飲み干してから、説明を始めた。


「正確には、その方法に転職も含まれているって話で。本当に人生を変えたいなら、成すべき事は一つなんです」


 若干怪しいセミナー臭はあったのだが、私は俄然聞き入っていく。


「それは、才能を認められる事です。仕事の転職でも、大学受験の合格でも、他にもプロ野球のスカウトでも、全部同じで。野球は野球の才能。受験は勉強の才能。転職なら仕事への適性とかそういう才能みたいな具合に。ここで言う才能は生まれ持った特殊能力とかじゃなくて、単純に得意分野やら適正やらその程度の意味合いです」


 素直に、なるほどと思ってしまった。合格、認可、スカウト、優勝、選出。そういうのは確かに一定のレベルの才能や能力、適性を認められる瞬間だ。そしてそれらはきっと、人生に変化をもたらしてくれる。


 木下はコップに水を注ぐ。説明は続いた。


「それと補足すると、出世とかも上司としての才能を認められたって形になります。他にも会社の製品が有名人に取り上げられて急に爆売れするとか、極端な話小学校で走るの速いのが知れ渡ってモテ始めるのも同類です。みんなそこから、人生に少しづつ変化が起きるわけです」


 木下は、再び飲み干した。


 そういえば似たような経験がある。小学校の頃、頭がいいやつという地位を確立した後からは悪戯される回数が減った。おかげで不登校にならずに済んだ。人生が少しでも変化する瞬間というのは、確かに少しでも才能が認められているのかもしれない。


 では、私はなぜこの会社に就職できたのかというと。


「じゃあウチの場合は、奴隷の才能でも見抜いてたってか」


「そういう事かもですね。会社がとにかく従順なヤツを求めていたなら、ですけども」


 何も知らない、純粋無垢。ある意味では『従順さ』に置き換えられる才能。新卒一括大量採用というやり方に、若干の嫌悪感を覚えた。


「逆に言えば、才能を認められなければ何も変わらない。なので、例えば転職なら求人に応募するのが人生を変える第一歩って事です」


 木下は席を立ちながら、話をまとめた。会計を済ませると仕事に戻った。とは言ってもこの後は喫茶店でくつろぐだけなのだが。


 この時私は藤田のことを思い出していた。彼もまた、プロテストを受けて人生を変えるつもりだった。


 そしてその必死さに、私はいつの間にか尊敬の念を抱いていたのだ。

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