2018年3月の出来事
藤田は退職届を出した二週間後、海外に飛び立った。トライアウトを受けるチームは今の東南アジアで一番強く、何人か日本のプロに逆輸入もされたとか。本人としては、不退転の覚悟で受けるためにあえて退職届を出し、覚悟を決めて受けたかったらしい。
結果としては、受からなかった、らしい。
別に退職するなら、あんなに頑張らなくてよかったのに。サボってくれてよかったのに。でも、それでも、どうせやめるなら筋を通したかったのかもしれない。それが藤田の考え方だったのかもしれない。
それにしても、少し考えれば当然だった。確かに長い間準備してきても、直近の生活があんな様子ではそもそも体調が最良にはならない。それに合格に向けて計画した練習も、やれはしないだろう。私は知っている。少しでも早く帰るために食事もトイレも削ったのを。通勤時間すらもトレーニングに充てたのも。それでも、いかに才能があろうと、体力があろうと、聡明であろうと、ここでは全てをすり潰される。私はそう思った。
この話を聞いた後、私は木下とわざわざ仕事終わりの時間を合わせ、自身でも理由がわからないまま頼み事をしてしまった。
「木下の小説、読ませてくれないか」
木下も、トライアウトの話を知っていた。
「それは、また今度にしましょう」
彼は私と目を合わせようとしなかった。
・・・
会社とは、牢獄なのだろうか。気がつけば、ここでは自由が奪われていた。いやもしかしたら、最初からこの世には自由は存在しなかっただけなのかもしれない。




