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(6)最善の策

道を切り開き先に進むと言えば格好良いが、実際は瓦礫と共に地下に落ちている、という表現が正しいだろう。

鬼王(きおう)夜叉(やしゃ)が確認した通り、いくつかの空洞が折り重なって存在しており鬼王が見つけた誘拐された子ども(ミスター)のいる路線には二回地面に穴をあけることで到達した。


『あー・・・地下の道、これだけ派手に崩してしまったら渋谷地区に怒られますよね・・』


鼻歌まじりに破壊行為をしていく愛すべき人形乗り(やしゃ)に鬼王は呆れたようにつぶやく。

そんなこと気にせず、夜叉は線路の振動音から方角を確認すると目標を追いかけた。


「もう少し早ければあいつらの前に降りれたんだけどな」


降り立った場所は既に誘拐犯(ハッカー)たちが通り過ぎた後であり、夜叉たちはその後ろを追いかける形になっている。


『あと2分で目標を視認できます。ここからは直線ですのであちらからも目視されます。気を付けてください』

「りょーかい。ちなみにキオウ、あれと人形(ウィンディア)だとどっちが馬力がある?」

『あちらの改造次第ですが、電車を正面からぶつけられたとしてもウィンディアの方が頑丈だろうと推測します』

「わかった。ならあれの前に出る。壊れないなら問題ない、よな!」


夜叉は集中し、加速するよう意識した。

その意識はそのまま人形(ドール)に伝わり、機体のスピードが増す。

地下鉄道の走る空洞は大きくない、ウィンディアが直立して少し余る程度だ。

気をつけないと電車に追いつく前に壁に接触し、自分たちが崩したコンクリートの下敷きになる可能性がある。


しかし色々な事を吹っ切る事の出来た夜叉と人形との同調率は格段に上がっていた。


『夜叉、とりあえず攻撃する前に絶対相手に「勧告」してくださいね。軍法ですから」

「あ、そっか忘れてた」


うっかり自分の立場を忘れかけていた夜叉が鬼王の言葉で思い出す。

そういえば自分はもう軍所属で、その辺の子どもじゃないから行動には慎重を期さねばならない。


「うわっ!追いつかれた!!!!白葉(バイイェ)さんたちに伝えろ!」


電車内部、車掌室で操縦していた顔に大きな傷のある男は大声を上げる。

そんな内部の慌ただしさなどお構いなしに、夜叉の操縦する人形(ドール)は電車の前に回り込む。

電車はそれにぶつかり脱線するのを回避するため、ブレーキをかけた。


力比べを予想していた夜叉だったが、人形が触れたのち電車はすぐに止まった。

電車が減速しブレーキをかけたのもあったが、夜叉もむざむざ人形を破壊するつもりはなく後退しつつ止めるように行動したからだ。

そのため両者とも破損はほぼない。


止まった電車からレーザーサーベルで狙える範囲を確認しつつ、夜叉は距離を取る。


『こちらは人形統制軍、新宿地区所属「夜叉」。お前らには人形使い(ドールマスター)強奪の容疑がかかっている。大人しく投降して盗んだものを出すように』


夜叉は外部出力音声にて決まり通りに「勧告」を行うが、誘拐犯どもは従うわけもなく、帰ってきたのは数発の銃弾だ。

しかし、そんなものは人形には効かない。


「なあキオウ。勧告したからあれぶん殴ってもいいと思うか?」

『・・・ダメとは言いませんが、どこに誘拐された子どもがいるのか判らないので完全破壊はちょっと問題ありです』

「完全破壊??いやいやあれ殴って壊しといた方が足止めになるかと思っただけで、そこまで徹底的に交戦するつもりはねぇんだけど」

『ええ?!夜叉なのにちゃんと考えてたんですね。てっきり手柄を立てたいとか言って相手をせん滅するものだとばかり』

「お前、俺を何だと思ってんだ。だいたい手柄も何も俺の今の実力だったら足止めがせいぜいだし、アリスに言われた任務もそうだろ。ま、しばらくここに居ればどうにかなる・・・と、なんだ?」


人形で線路を塞いでいれば電車は使えない。

あの中に二輪車や他の移動手段を所持しているかもしれないが、それも出てきたら足止めすればいいだろう。

そう判断し、相手の出方を伺っていたが車内から出てきたのは白い三つ編みの女だった。


他にも数人出てきたが、顔に傷があったり、髪の毛がとがっていたり、どう見ても絵にかいたような悪人面で盗賊団にふさわしい風貌をしている。

その中でチャイナ服の白い女は女幹部というより、誘拐された良家の女性のように見えた。

他の男どもと比べて殺伐とした雰囲気がない。

だが囚われた者にしては堂々としているという怖がっていない。


そう、怖がっていないのだ。その様子に夜叉は違和感を感じる。

自分のこういった類の勘が信頼に値する事を、夜叉は経験上知っていた。

その危機感知能力のお陰で、自分はいま五体満足で生きていられるのだから。


「初めまして、夜叉(やしゃ)さん。私は白葉(バイイェ)と申します」


周りの男たちの態度からしても、白葉は彼らの仲間「大和(やまと)」の一員で間違いないだろう。

男たちは現れた人形に対し、戦闘態勢を取っている。

銃を構える者、ライフルで狙う者、ややして大筒を担いだ男も出て来た。


バズーカか、あれは当たったら装甲がへこむだろうな。

鬼王が敵の持つ武器類をサーチし人形に与えられるであろうダメージを計算している間も、夜叉は白葉から視線を外さない。


「申し訳ないのですがそこを通していただけませんか」

『先ほど勧告したが、お前らには盗みの容疑がかかってる。ここを通すわけにはいかない』

「そうですか、それは残念です」


白葉はそういうと、羽織っていたマントを外し手に持った。

そして迷うことなく人形の頭部に向けて突進してくる。


『・・・ッ!』

「キオウ!」


夜叉は白葉の攻撃を右手で受け、後ろに下がる。

鬼王の息を飲んだ声に夜叉が名を呼べば、電車と人形の間にゴゥンと鈍い音を伴ってウィンディアの右手が落ちた。


「あら、首を狙ったのですけど」


白いマントだったものを片手で扱い、優雅に人形の腕を切り落とした白葉が残念そうにつぶやく。

先ほどまで彼女の肩で柔らかく揺れていたマントは、至近距離で撃たれた銃弾ですら貫通させないウィンディアの装甲をあっさりと切断した。


ある種の振動数により柔らかい素材も硬質のものに変えられる技術がある。

それを応用した武器なのだろう、と夜叉は自身の経験からそう判断したが、あまりにも扱いずらそうな代物だ。

だがそれを器用に扱い、曲芸めいた攻撃を行う相手は人間の動きではない。


「あいつ・・・3m位飛びやがった。あれが強化人間・・か?」

『そのようですね。まだ若い女性に見えますが』


生き残る為に自身の身体を機械や無機質のパーツで補強し、生まれた時の身体を捨てる者達もいる。

彼らは強化人間と呼ばれ羨望の目で見られたり、忌嫌われたりと場所や立場によって大きく扱われ方が異なっていた。

一攫千金を目指して強化人間になる者も多いが、そのほとんどは成長期の終わった男だ。

なぜなら人間は成長する。そのたびに体に合わせてパーツを変更しなければ強さを維持できなくなるからだ。それには莫大な費用がかかり残った身体にも負担がかかる。

そして女性は子孫を残す為、生物としての身体をそのままにする風潮が強かった。


「もう一度お願いいたしますが、そこをどいてくださいな」


白葉はそういうと顔色一つ変えることなく、手に持つ白い武器を投げた。

それは寸でで避けたウィンディアの装甲をかすめ、吸い寄せられるように白葉の手に戻る。


「キオウ、ウィンディアの全機能停止。こいつはこのままここに置いて道をふさぐ」

『ですが夜叉!強化人間、いいえ他にもあの人数を相手に人形から降りて戦うのは推奨できません』

「俺たちの任務は足止めと時間稼ぎだ。このままだとウィンディアを切り刻まれてすぐ終わっちまう。俺じゃ人形であの女とは戦えない。それに、作戦はある」


夜叉は人形を降りたのち、自分の考えた作成を行うため鬼王がシステムとして対応できるか確認する。

ひとつ、無音で自分と会話をすることは可能か。

ふたつ、視界が確保できない状況で敵、人間の位置を把握し、自分に伝える事は可能か。

みっつ、誘拐された子ども(ミスター)を確認する事は可能か。

よっつ、自分が死んだ際に大和に奪われる前に鬼王自身を破壊する事が可能か。


『・・全て実行可能です。ですが最後のは了承できません』

「一応の確認だ、俺も死ぬ気なんてないし最悪逃げる。それもできなかった場合の保険だ。よし、次の攻撃が来る前にここから出る!」


夜叉の思い切りの良さに不安を感じるが、確かにこのままここに居ても人形(ドール)と共に刻まれるだけだ。

痛む右腕と夜叉の言う保険に顔をしかめながらも鬼王はウィンディアの全機能を停止する。

その瞬間を待っていた夜叉の動きは早かった。


静止し膝をつくように崩れたウィンディアの先ほどまで頭部があった場所を白い刃が通過する。

それと同時に胸部の操縦席(テラス)への通路が開き、小柄な人影が現れた。


「こっちもさっきから何度も言ってんだろうが!!取ったもん返せってんだよ!」


夜叉は叫ぶように言い放つと、人形から地上に飛び降りた。


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