3条2丁目-4
解離性同一性障害。通称、多重人格障害。
今の私の状況を理解しようとして、行き着いた障害の名前。
この障害を知ったのは、高校生のときだったかな。
元々私は、星野胡桃だった。子供のときから、星野胡桃、通称くるみちゃんとして育ってきた。
くるみちゃんは、歌が好きだった。自分が歌うことで、周りの人が笑顔になるのが好きだった。それで、歌を習い始めたんだ。
新しい歌を覚えて、それを歌う。それを聞いた人が、すごいね、上手だねって言ってくれる。それで良かったんだ。
金井本中学に上がった頃から、レッスンの内容がちょっと高度になってきた。
くるみちゃんはバラードが好きだったんだけど、色々な歌い方を覚えてみようってことで、新しいジャンルの歌を習うようになった。
そして、中学3年の7月2日、北川公会堂で行われた発表会。ロック調の「Ready-Set-Go!」を歌ったんだ。
「Ready-Set-Go!」を、歌えなかったんだ。
原因は、くるみちゃんにもよく分からなかった。
でも、何かしらの精神的な問題があったんじゃないかな。
「Ready-Set-Go!」は、ロック調の歌。くるみちゃんが好きだったのは、バラード調の歌。
あまり好きじゃないロックを覚えようとして、なかなかうまく歌えなくて。周りの大人たちは、頑張ればできる、たくさん練習すればできるって言ってくれたけど、好きじゃないものをたくさん練習しても、練習自体が苦痛だったんだよね。
練習を重ねていくうちに、くるみちゃんの精神状態が少しずつ壊れていって。
発表会のステージに立ってみると、全く声が出なくなっていた。
伴奏がそのまま進行して、くるみちゃんは声が出なくて。
周りの大人たちがざわつき始めて。
「大丈夫、くるみちゃんなら絶対歌える。練習を思い出して」
そんなことを言われても、くるみちゃんは声を出すことができなくて。
そんなことをしていたら、
ハツネちゃんが出てきて、歌い始めたんだ。
これが、ハツネちゃんが生まれた瞬間。
そして、くるみちゃんが歌えなくなった瞬間。
ちょっとだけトラブルがあったけど、発表会は、問題なく終了した。表向きはそういうことになってるんだよね。
親にも同級生にも、歌の先生にも言っていないこと。
あの時「Ready-Set-Go!」を歌ったのは、子供の頃から歌を習っていたくるみちゃんじゃなくて、突然出てきた交代人格のハツネちゃんなんだ。




