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3話「一方その頃」

4話目は、まだ書けていないので、しばしお待ちを。

あと、読んでたら気になったところ割とあったので、ちょこちょこ修正します。

 要に促され、ソファの近くで待つように言われた三人の目に入ったのは、一匹のパグだった。

 一番最初に食いついたのは、末っ子の幸也。

「ねぇ、姉ちゃん、犬がいるよ!ほらほら!」

 そのまま、幸也は近づいて犬を撫でようとする。

 しかし、犬にとって幸也は、突然現れた見ず知らずの人間であり、犬は警戒するようにソファから飛び降りて離れていった。


「こら、幸也。ワンチャンが怖がってるからやめなさい。」

「…え、だって…」

「だってじゃないの!」


 幸也から逃げてきた犬は、桃と有希のところにスリスリ寄って来た。


「ねぇねぇ、有希姉、このパグ超かわいい〜」

 もしゃもしゃと桃が頭を撫でると犬は嬉しそうにしている。

「ほんと良い子だね、吠えないし、よしよし」

 有希も桃に続いて、犬の背中を撫で、

「あぁ、可愛いぃ…」

 思わず声が漏れる。

「姉ちゃん達ばっか、ズルい!僕にもやらせてよ!」

「幸也は、もうちょっとこの子が慣れるまで待ってなさい」

「ズルい、ズルい!ズルい!」

 幸也は、スーパーでお菓子を買ってもらえなかった子供のように駄々をこねる。


「幸也、あんた足でも臭いんじゃないの?」


 桃が小馬鹿にすると、幸也は抵抗して、

「臭くないもん!ほら、桃姉、嗅いでみてよ!

 靴下を脱いで桃の顔に押し付けた。


「ちょ、ちょ、やめてよ!汚いなぁ!」

桃は、後ろに下がって、近づいてきた靴下を避ける。

「だって、臭いって言ったの桃姉だし!」

逃げる桃を、幸也は負けじと追撃した。

「まぁ、そうだけど…さぁ。ゔっ…」

 桃は、ギリギリで幸也の攻撃をかわすが、顔の近くで振り回される靴下から匂ってくる臭いで、少しずつダメージを負っている。

「ほら、ほら、嗅いで?」

「え、ちょ、ねぇ、有希姉助けてよー!」

 末っ子の攻撃に耐えきれなくなった、桃が有希に助けを求めた。

「はいはい、幸也いい加減にしなさい。他人の家なんだから、靴下脱がないの。あと、桃も反省しなさい」

有希に怒られて、幸也が靴下を下ろしたので、桃もガードを下げた。

「ごめん…私が、悪かった」

「ぼくも…」

桃が先に謝ると、幸也もそれに続いた。

2人がお互い謝るのを見て、満足した有希は、

「よくできました」

そう言って、2人を褒めながらも、ちゃっかり犬を抱えていた。


  ----------


「ねぇ、学校ってどうなるの?」

 少し間が空いて、幸也の関心は犬から移ったのか、有希に聞いた。

 幸也の質問に有希は、事前に胡桃おばさんから話を聞いていたことをそのまま話す。

「予定だと、この近くの学校に転校することになると思う。もう、手続きも済ませたから、夏休みの間に一度挨拶に行く予定よ。」

「へぇ、ここから近いのかなぁ」

「まぁ、多分そんなには離れてないと思うけど詳しい場所は、まだ分からないかな。その辺は、要さんに聞いてみようと思うけど。」

「ねぇ、そういえば有希姉は、中学校だよね、制服はどうするの?」

 幸也の質問が終わって、桃が有希に聞く。

「んー、今のところは、前の制服で行くつもり。今から作っても、届くまで時間かかると思うし、どうせあと一年くらいだからこのままでも良いかなって思ってる。」

「そっかー、ちょっと新しい制服着た有希姉見てみたかったけど、それならしょうがないかぁー」

 桃は、有希の話を聞きながらも有希が言わなかったお金の事情を察してか、あえて口には出さなかった。


「ねぇ、二人とも夏休みの宿題は終わってるの?」

 幸也と桃の質問が終わり、今度は、有希が二人に聞いた。

 それを聞かれた瞬間、桃の顔が固まる。

「うげっ、そ、それは、お、終わってる気もするし、そうじゃない気もする…」

 桃は、苦し紛れに言葉を濁す。

 一方、そんな桃の姿を見ても幸也は、余裕の表情。

「桃姉、良いことを教えてあげよっか?」

「なによ?」

「前の学校の友達に聞いたんだけど、なんと、転校したら夏休みの宿題はやらなくても良いんだって!」

「らしいよ、有希姉。」

 桃は、それを聞いた瞬間ニヤリと笑って有希を見た。

「そんな訳ないでしょ。その子は、転校したことあるの?」

 そう言われて、幸也はギクッとして顔が固まる。

「い、いや、わかんない…」

「じゃあ、もしかしたらやらなきゃいけないかもしれないよねー」

 有希は、幸也と桃が劣勢になったと感じているところに、更に畳み掛ける。

「ねぇ、二人とも。転校生が来たときに、先生に宿題出しなさいって言われて、その子がやってませんって言ったら皆んなはどう思うかな?あー、この子宿題やらない子なんだーって思うよね、先生もクラスの皆んなも。それでも良いのかなぁ?」

「うぐっ、確かに…良くは思ってもらえないかも…」

「う…」

 二人とも、有希の攻撃に勝てない。

 それに、この手の喧嘩は、いつも有希が勝つのだ。

「どうする?やる?やらない?まぁ、私は、二人がどう思われてもいいけどー」

 有希は、少しいじわるそうに言う。

「うー、分かった!分かりました!やります!」

「ぼ、僕も、やる!」

「じゃあ、後でどんくらい進んでるか、確認しよっかなぁー」

「もう、許してよ有希姉〜、私達が悪かったからさぁ〜」

 それを聞いて、流石にちょっとやりすぎたと思ったのか、ごめん、ごめんと言って有希は、その場を終わらせた。


 有希達は、要がいなくなってから色々と話していたが、要はまだ戻ってこない。

「要さん、まだ戻ってこないね」

 不安に思った桃が口を開く。

 二人も同じことを感じていたのか、同様に不安を募らせている。

「きっと、何か、これからのこととか胡桃おばさんと話してるんじゃない?」

「んー、そうかもね。でも、そうじゃないかもしれない可能性もあるよね…」

 桃が服の裾をギュッと掴んで言う。

「そうじゃないって?どういうこと?」

「私達がこの家に住ませてもらえないかもってこと」

 それを聞いて幸也は、あることを思い出したのか黙ってしまう。

 そう、有希達は、一度断られているのだ。

 胡桃おばさんのところにお世話になる予定だったが、胡桃おばさんの旦那さんの仕事で色々あったらしく突然だけど、ごめんねと言われ、結果的に住むことは出来なかった。

 そのことを幸也以外の二人も思い出しており、中々口を開かない。

 そんな中、突然、話してる間も有希に嬉しそうに抱かれていた犬が腕の中でもがき始めた。

「あ、ごめんね。今下ろすね。」

 そう言って、有希が優しく床に下ろすと犬は走ってソファに飛び乗り、定位置を陣取ってテレビを見始めた。

 テレビには、犬の散歩のコーナーが写し出されている。

 有希は、犬の様子を見て思わず笑ってしまう。

「ふふっ、この子、犬が出てる番組好きなんだ、かわいい」

「この犬きっと、今映ってるトイプードルに恋してるんじゃない?」

「そうかもね」

 桃の言うことは、合っているか分からないが有希には、妙に納得がいった。

 ただ、その理由は正しくないだろう。なぜなら、犬の視線は、テレビに映るトイプードルではなく、そのコーナーを担当している女性アナウンサーに向いていたからだ。

 そのまま、しばらく黙って三人で犬と一緒にテレビを見ていると、犬のコーナーは終わり、ニュースが流れ始めた。

「続きまして、本日は半年前に起こった飲酒運転による事故の裁判についてです。法廷では、加害者に向けて被害者の遺族から、こんなメッセージが伝えられていました。『今回の事件が起こってしまい、私達遺族も大変悲しい思いをしていますが、この事件をきっかけに飲酒運転がもっと減ってくれれば幸いです。』」

 アナウンサーが原稿を読み終え、コメンテーターに感想を聞く場面に変わったタイミングで有希はチャンネルを変えた。

「何が、幸いよ…。」

 ニュースを見て、部屋に暗い空気が流れる中、有希が小さな声で呟いた。

 その声は小さかったが、残りの二人の耳にも届いた。

 だが、誰も言葉を発さない。

 それは、二人も有希と同じ気持ちだったからだろう。

 呟いた有希も、黙っている。

 有希は俯き、右手の親指に力を入れて爪で人差し指を刺した。

「ねぇ、私達のこと、要さんに話すの?」

 暗い空気を払うように、桃が口を開いた。

 桃が見つめる先には、俯く有希がいる。

「話さない訳にはいかないでしょうね。理由もなく、私達を住まわせてくれるはずもないし。」

 有希の声は、いつもより低い。

 桃も同じようなトーンで返す。

「…そうだよね」

 それからまた、しばらく間が空いて、三人がそれぞれ、当時のことや今に至るまでを思い出し、語る決心をしているタイミングで、リビングのドアが内側にガチャっと開いた。

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