1話 「出会い」
突然、ある日を境に子持ちになることもあるらしい。
茹だるような暑さが続く夏の日。
寝癖で髪がボサボサな、中肉中背の少年は、いつものようにテレビで朝のニュース番組を見ていた。
ニュースでは、半年前に起きた飲酒運転の事故の判決が出たとか、なんとかでキャスターやコメンテーターやらが話し合っている。
少年が、そんなニュースを尻目に、犬の餌の用意や朝食の準備をしていると…知らせは突然やってきた。
一件の通知。
内容は、見知らぬ番号からの着信。
少年は、どうせ何かの勧誘か、間違い電話だろうと高を括って、そのまま無視した。
しかし、また数分経ってもう一度電話がかかってくる。
さらに無視していると、もう一度。
それが、5回ほど続き、流石に何か重要な知らせかもしれないと思った少年は、電話に出た。
「もしもし」
「あっ、繋がった!もしもし、要君?」
電話口から聞こえるのは、少し幼さを感じる高い声。どうやら、電話をかけてきた相手は女性らしい。
少年-梶吉要には、聞こえた声から電話相手を想像するが、当てはまる相手が全く浮かんでこない。
ん?誰だ?
名前で呼んでくるということは……
大学のやつか?
いや、でも少なくとも知り合いにそう呼ぶやつはいないし…。
要は、電話相手に検討がつかないまま、とりあえず話を続けた。
「はい、そうですけど何か用ですか?」
「あっ、えっと、胡桃おばさんだけど覚えてる?」
珍しい名前に、特徴的な声、どこかで聞いたような…
「いや、そんな名前は存じ上げません。間違い電話だと思います。」
そう言って、要は、通話終了ボタンを押した。
胡桃おばさん……たしかアレの妹だったっけ。
一回会った気がするけど特に話した記憶もない。
もう二度と関わらないと縁を切って家を出てきたのに、何を今更。
一体、俺に何の用があるというのか。
まぁ、親戚から電話がかかってくるなんてロクなことがない、どうせお金で困っているとかそんなとこだろう。
要は、スマホをポケットにしまい、見ていたテレビ番組に視線を戻した。
しかし、それから数分経って、また電話がかかってきた。
要は、出ないと決めて、五分ほど無視し続けていたが、まだしつこくかかってくる。
鳴り続ける電話に、いい加減ムカついてきた要が、もう一度出ると電話主は、もちろんさっきと同じ胡桃おばさん。
「…もしもし」
「あっ、やっと出た!もしもし要君の電話で合ってますか?」
「まぁ、合ってますけど…」
先程より少し高めの声色は、頭に響いて、要のイライラを増長させる。
「良かった!あ、さっきはごめんね、説明が足りなくて。私、要君のお母さんと双子の妹なの、一回会ったことあるんだけど覚えてるかな?」
「あんまり覚えてないですけど…何か用ですか?」
「ひどいなぁー、私は覚えてるよ、要君のこと!あの時は、まだ要君が小学生くらいだったかな〜」
「あのー、世間話をしにきたんなら忙しいんで早く切りたいんですけど…」
「あ、ごめんね!そ…そういう訳じゃなくて。今日は、要君にお願いがあって連絡したの」
「はぁ、お願いですか…。お金なら貸しませんよ…」
「いや、お金じゃなくて…ちょっと受け取ってもらいたい…もの…ものではないけど!とりあえず明日家に着くと思うからお願いね」
「…ん?え?お願い?、ちょっと何言ってるか分からないんですけど…」
「着けば分かると思うから、よろしく!」
胡桃は、要のリアクションには構わず、一方的に告げる。
「いやいや、こっちは全然よろしくじゃない。何を届けるつもりなんですか?てか、何で俺の家知ってるんですか?」
要が色々ある疑問を解決しようと質問するが、答えは返ってこない。
そして、少し間が空いて聞こえたのは、掠れた小さな声。
「…ごめんね…ほんとに、ごめんね…力不足で…」
「ちょっと!まっ…」
要が聞きたいことは、何一つ聞けず、そこで電話が途切れた。
そして、次の日。
外のチャイムが鳴り、ドアを開けると…
ドアの前には、ランドセルを背負った少年と少女、それから中学生らしき女の子が立っていた。