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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
“死神斬鬼”を語る
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第95話 ムソウの過去―村を発つ―

 誕生日から三日後、俺とツバキとアキラは旅支度を済ませ、家の門の前に居た。先日の雪は既に解けてある。一日限りの一足早い雪だったみたいだな。

 予定通り、俺達は皆よりも一足早く本隊と合流するてはずになった。ここからだと、部隊が居る、元タカナリの屋敷までは、馬を駆けらせたら昼頃には着くはずだが、アキラの使役する動物たちも居るから、到着は夕方ごろになりそうだな。


「……さて、と。二人とも忘れ物は無いな?」

「ああ、大丈夫だぜ」

「いつでも行ける……」


 俺の言葉に二人は頷く。準備万端なことを確認し、出発しようとすると、背後から声をかけられた。


「ザンキ殿」

「ん? おお、村長。それに皆まで。どうした?」


 振り返るとそこには村長をはじめ、村の皆が居た。皆、俺を見送りに来たらしい。


「わざわざ、すまないな」

「いやいや、ザンキ殿をこの村から見送るのは慣れておる」


 俺が頭を下げると、村長は笑いながらそう言った。俺は集まってくれた皆の顔を眺める。やはりどこか心配しているような面だな……。


「まったく……。皆、そんな面は辞めてくれって。いつものように、笑って見送ってくれねえと、気が締まらねえよ!」


 俺は皆に笑って欲しくてそう言った。すると、皆は目を見開き、その後、段々と表情が明るくなっていく。


「ザンキ様、また、この村に来てくださいね! きっと……きっとですよ!」

「それまで俺達、この村を護っていくからさ!」

「だから、今度も絶対に帰ってきてくださいね!」


 村人たちは口々に俺にそう言ってくる。中には涙を流している者までいた。


「もちろんだ。必ず生きて帰る。約束だ!……今度こそ、きっと守ってみせる!」


 俺がそう言うと、村人たちは俺に寄ってきて、餞別だ、と言って、やはりというか、またもいろいろと渡してきた。俺はそれらを全て受け取り、馬に乗せる。


「……なんじゃ、まだ出発していなかったのか?」


 ふと、家の方からタカナリ達が出てきて、俺達に声をかけていた。


「人気者は大変だな、ザンキ」

「いや、最近は嬉しいことばかり起こるからな。あながち悪いものではないぞ、ハルマサ」


 からかってくるハルマサに俺がそう返してやると、皆は笑ってくれた。


「さて! ザンキともここでいったん離れるわけだが、次に会うのはいつだろうか」

「決まってるだろ。タカナリの大陸王即位式だ」

「だな!……ツバキ、それまでザンキを頼むぞ」

「わかってる……ザンキは……私が……護る」

「俺は皆を護る。……もう誰も死なせねえ」

「上出来だ、二人とも……じゃあ、行ってこい!」


 ハルマサはそう言って、俺に腕輪をはめた方の腕を向ける。俺とツバキも笑って、自らがつけた腕輪をハルマサのものにカチッと合わせた。すると、他の者達も同様に俺達に腕輪を合わす。仲間の絆の証を合わせ、俺達はさらに笑った。


「よし! では、行ってくる!」


 俺はそう言って、ツバキ、アキラと共に、村を出発した。村から聞こえてくる激励の言葉はしばらく俺の背後から消えることはなかった……。


 ◇◇◇


 村を出てからは、特に何事もなく、俺達の旅は続く。反乱軍の影響か、どうか定かではないが、山賊や盗賊も出てこない。まあ、出てこられても問題ないとは思うがな。道を歩きながら、ツバキやアキラと合流する奴らについて話していたり、時々、動物たちに餌をやったりしながら、俺達は進み続ける。


 そして、やはり夕方前に、目的の場所に到着する。


「……む? 建て直したとは聞いていたが、前よりも大きいな」


 俺はタカナリの屋敷があった場所を見て驚く。あの時、木っ端みじんになったタカナリの屋敷よりも大きな建物が目の前にはあった。屋敷と言うよりは城だな、と思ったが、近くに行くとさらに気づく。

 そこは城と言うよりは街だった。城壁で囲むようにし、中には露店や民家などが続いている。そして、その奥には俺が城と間違えた立派な建物が建っていた。


「本当に、ここでいいのか? 反乱軍の駐屯地にしては……」

「だな……。ひょっとしたら、ここら一帯の難民たちが集まって作ったのかも……」


 俺の問いにアキラも城の大きさに驚きながらそう呟いている。確かに、ここは国境も近いし、元領主の屋敷付近と言うことで村もそれなりに多く、大きかった。

 だが、玄李の侵略によって、ことごとく滅ぼされたとは聞いていたが。まさか、そいつらが集まり、これだけのものを作るとはな……。


 俺達は取りあえず、見張りをしている奴に声をかけた。


「なあ、あんた」

「ん? 何だ?」


 見張りは俺の問いに応えるように、こちらを見て、ギロッと睨んでいる。


「ああ、急にすまない。反乱軍の駐屯地に用があってな。ここで間違いないか?」


 俺がそう言うと、見張りの男はハッとし、手にした槍を構える。すると、周りに居た何人かの者達も刀を抜いた。それを見て、ツバキとアキラが身構えるが、俺はそれを制止する。


「お前たち! 何者だ! まさか、玄李の回し者ではないだろうな!」

「こないだみたく、傭兵に成りすまそうったってそうはいかんぞ!」


 兵士たちは武器を構え口々にそう言ってくる。成りすまし? そんなことあったのか。と言うことは、玄李の奴らもこちらへ斥候のような者達を送り込んでいるのか?

 う~む。昔みたく、こちらに侵入してくる奴らを止めるためにも早めに行動しておいた方が良いのか? 後で、タカナリにはアキラの鷹を飛ばしておこう。


「おいっ! 貴様、聞いているのか!?」


 俺が考え事をしていると、見張りの男は槍の穂先を俺の顔の前に突きつけ、そう怒鳴る。


「……ん? ああ、すまない。俺達はタカナリの指示でハルマサ隊から来た者だ。横のちっこいのは斥候、潜入のツバキ、もう一人は動物使いのアキラ、で、俺がザンキだ。……この証文を確認してくれ」


 俺は見張りの男に二人を紹介し、タカナリから預かっておいた証文を男に渡す。すると、兵士の中からひそひそと話す声が聞こえてくる。


「ザンキって……“死神”か!?」

「そ、そうらしいな……ハルマサ隊に居るというのは聞いていたが……」

「横の二人も、見覚えがあるような……」


 兵士の中からはそう言う声が聞こえてくる。なるほど、俺が居たこともあり、ハルマサの部隊は反乱軍でも有名だったみたいだな。ツバキとアキラについても知っているようだ。だが、なおも一番前の男は怒鳴ってくる。


「ふん! そう言って、この前、街に入れた奴は玄李の斥候だったぞ! お前たちが本当に反乱軍だというのなら、証拠を見せんか!」

「いや、だから、この証文……」

「そんなもの、偽造しようとすればいくらでもできる!」


 ……ああ、そういや、そうだな。というか七年前はそれが原因で、安備は滅んだようなものだったな。こういうところは詰めが甘いな、とは思いつつ、ここまできても俺達を疑ってくる目の前の兵士に少し、感心する。

 こいつみたいな奴が居れば反乱軍も安泰だな、と思った。


「き、貴様! また黙り込みおって! 舐めているのか!?」


 男は怒って、槍の穂先をさらに俺の目の前に近づけ、そう怒鳴っている。兵士たちからは心配するような声が上がるが、男は聞く耳を持たない。


 しかし、証拠って言われてもな……。そう思っていると、俺の後ろから、ひそひそとツバキとアキラが話しているのが聞こえてくる。


「面倒くせえし、やっちまえば……?」

「それが……いい……手間が……省ける……」


 ……おいおい、何の手間が省けるんだよ。たぶん、それやると、手間が増えるだけだぞ……。しかし、こいつら、今にも飛び出しそうで、不安になってくるな……。


 ……はあ……仕方ない……。


「……おい、お前」

「な、なんだ!? 貴様!」


 俺は槍を向けている男に凄むと、男は怒りで体中を震わせながらこちらを見てくる。……心の中で、先に謝っておいた。


 俺は槍をガシッと掴む。男は槍を動かそうと力を込めるが動かない。それだけの力で、俺は槍を握っている。


「き、貴様! 放さんか!」

「……これ以上グダグダ抜かすんなら……」

「ひ、ひぃ!!!」

「……殺す」


 ―死神の鬼迫―


 ……俺が一睨みすると、男は泡を吹いて白目を剥き、その場で、バタッと倒れた。俺はそれを見届け、唖然とする兵士たちの前で無間を抜く。


「な、何を!?」


 慌てる兵士に俺は、無間を向ける。


「俺の愛刀、無間だ。昔、闘鬼神の頭領から譲り受けた。切れ味は抜群だ。これまでに何千と言う人間を斬ってきているからな。

 俺が、“死神斬鬼”であるという証拠を見せろと言われたんだが……試してみるか?」


 俺がそう言うと、兵士たちはぶるぶると震えはじめ、持っていた武器を地面に投げ、一斉に土下座する。


「「「「すみませんでした~!」」」」


 俺はそれを見て、無間を仕舞う。ようやく信じてくれたみたいだな。良かったな、と思い、振り返ると、アキラと動物たちは泣きそうな目で俺を見ながら震え、ツバキは固まっていた。……いい加減に慣れて欲しいものだな……。


 そして、兵士たちの中から、歩み寄る者がいて、ひとまずそいつに証文を渡し、俺達は街の中に入ることを許された。


 ……ちなみに、気絶した男は、その後部下に抱えられて、建物の中に運び込まれていった。一応、後でめちゃくちゃ怯える男に全力で謝っておいた。


 さて、俺達が案内されたのは、街の奥にある、やはり城のような建物の奥の部屋だった。そこにはこの部隊を率いる男が座っている。俺よりも大柄な男で長いひげをたくわえていた。青い着物を着て、そばには大きな薙刀が立てかけられている。


「ようこそ、ザンキ殿。先ほどは見張りの者が失礼を働いたようだが、許してやって欲しい。貴殿に会えてうれしく思っている」


 男はそう言って、俺達に頭を下げる。見た目と反し、意外と礼儀正しいことに若干驚きつつも、俺達も頭を下げ、自己紹介をする。


「改めて、ハルマサ部隊のザンキだ。先ほどのことは気にしていない。頭、上げろって」


 俺がそう言うと、すまない、と言って、男は顔を上げる。男の名は、タツイエといった。タツイエも、元々は傭兵制度によって反乱軍に参加した男だった。

 なんでも、昔はこの辺りでマタギをしていたらしい。その後、玄李が大陸を統一し、闘鬼神の居なくなった安備の国の山々に山賊が増えていったことに怒り、武芸を磨き、反乱の旗を上げたという。


 さて、お互いに自己紹介が済んだ後は、これからの作戦会議へと移った。その際に、一応確認することがある。


「そう言えば、先ほど俺達の振りをした玄李の斥候がここへ来たと聞いたが、俺達が合流すること、玄李も知っていたのか?」


 先ほど、門番が言っていたことだ。念の為、嘘か真か確認しておく。本当なら、俺達がここへ合流していることが伝わっており、俺がこの先の砦に奇襲をかけるという作戦も危なくなると思ったからだ。しかし、タツイエは首を振る。


「いや、捕らえた奴からはそのようなことは聞いていない。単純に有名なお前さんの名をとっさに騙ったようだ」


 ああ、なるほど。こないだの偽物たちとほとんど一緒になっているというわけだな。確かに有名になり過ぎるのも困ったものだな。

 そして、タツイエの話によると、その斥候を尋問して得た情報により、ここらの斥候は全て片付けられたという。一応、不安の一つが減ったが、まだ油断は出来ねえか。


「そうか……。だが、まだ油断は出来ねえな……。アキラ、後でこのことをタカナリに伝えておいてくれ。用心に越したことはない」

「ああ、分かった!」

「すまない、ザンキ殿、アキラ殿」


 タツイエはそう言って、またも俺達に頭を下げる。俺も、普段からこういう風にすれば少しは印象も変わってくるのかな、と思い、苦笑してしまう。


 そして、作戦会議に移る。


 俺達が今回襲うことになっている砦はそこまでの規模ではない。と言っても兵力は五百ほどらしい。

 しかも、ただの兵士と言うわけではなく、どいつも優れた武術使いの無頼の者達であるという。えぇ……そんなことタカナリは言っていなかったよな……? どういうことだ、と聞くと、タツイエは口を開く。


「この砦は、“狂神”率いる特攻部隊、「夜」の一人が指揮しているらしい」


 タツイエは困ったようにそう言った。狂神って確か、メッキとか言う無法者のことだよな。確か、そいつ、外に出てくる際に、同じく幽閉されていた者達をまとめて殲滅特化の部隊を変遷したとか、なんとか。

 なるほど……その中の一人がこの砦に居るということか。兵士たちはそいつらの手下とかか? だが、腑に落ちねえな。


「なんで、殲滅特化部隊が砦で護りを固めてるんだよ……」

「それは……私も分からん。だが、情報によると、興那、玲邦側の砦にも同じく「夜」の誰かが配備されているという。ひょっとしたら、玄李も我らと同じく攻めてこようとしていたのか、単純に人手が足りないのか……。まあ、俺の見立てでは後者だな」

「ほう……何故だ?」

「斥候の数が少なすぎる。七年前の時には三百以上の斥候がこの辺りにも居たらしいからな。だが、今回は百人もいかない。やはり玄李の軍力は落ちていると考えても良いだろう」


 俺の疑問にタツイエは次々と答えてくれる。まあ、それでも多いとは思うがな……だが、確かにあの時に比べて少ない。玄李の強みは圧倒的な兵力の大きさだからな。だから、ほとんど人数もいらない、斥候や諜報も大きな数で行っているという噂は聞いたことがある。

 だが、反乱軍の活躍と、あとは……ほとんど俺のおかげで、玄李の軍力は落ちている。タツイエの言う通り、砦を護る人員が足らなくなっているというように考えても良いか。


「……よし、分かった。なら、敵さんが少ないうちに俺達も打って出た方が良いか。タツイエ殿、こちらの準備は?」

「もう終わっている頃だが、大きい山脈の向こう側だからな。連れて行けるにしても百人がやっとだ」

「大丈夫だ。一番怖いのは遭難だったが、元狩人のあんたと、こちらにはアキラが居るからな。その辺りは大丈夫だろう」

「おう! 山は慣れているぞ!」

「私もだ。若者には負けておれないな」

「頼りにしてる。で、砦に着いたら、その時はまた考えるが、基本的には俺とツバキで先行、残りの者達は合図まで待機、だ」

「二人で大丈夫なのか?」

「問題ない……ザンキは……私が……護る」

「ああ、頼むぜ、ツバキ。……では、タツイエ殿。明後日出発というのは行けるか?」

「う~む……。三日後で良いか? 食料の準備がもう少し時間がかかりそうだ。あと二日は待ってくれ」

「ああ。分かった。……と言っても、ここの部隊長はアンタで、俺達は客人だったな……。こんな作戦でいいか?」

「ああ、大丈夫だ。改めて、よろしく頼む」


 俺達はそんなやり取りの後、固く握手をして、今日の所は風呂に入って飯食って寝室に入る。とりあえず二日は暇なので、明日はここの町中をぶらついてみようと思いながら、俺は布団にくるまった。


 ……家は違うが、ここで寝るのはあの時以来か……。


 ここはサヤと祝言を挙げた場所であり、サヤと最期の別れをした場所だ。いや、サヤだけじゃない。カンナも、エンヤも、エイシンも、闘鬼神の奴らも……皆死んだんだよな。


 あの時から俺の時間は止まったままだった。だが、それを動かしてくれた奴らが居る。だから俺は、あいつらの為に、あいつらと共に闘っていこう。そうやって前みたいに笑って生きていこう。


 俺は深くそう心に誓って、眠りについた。


 ◇◇◇


 さて、朝起きて、タツイエに一言挨拶をした後、ツバキと一緒に街の中を歩いてみる。昔から広い土地ではあったが、村が丸々一個入るくらい大きかったとは驚きだな。さらに言えば、若干広くなっている気がする。

 まあ、昔から、俺達が襲った村々の人たちを囲えるくらいの大きさではあったからな。ちなみに、こういう城と街が一緒になったような形態を、城塞都市と言うらしい。う~ん、攻め込むのは一苦労だな……と、思いそこらを歩いている。


 住んでいるのは、やはり反乱軍や難民たちが主であるという。三年ほど前……俺の生存が大陸全土に伝わってから少しして、タカナリはまず、この場所を取り戻そうと奮闘したという。

 その後、ここを制圧した後は、難民たちの住む場所として開放したらしいのだが、玄李の者達のちょっかいを受けることも多く、その結果、あの城が建てられたという。三年で出来たのか……。突貫工事だな……。ちょっと恐ろしい気もするが、それは玄李を滅ぼした後にでも考えておこう。


「……あ」


 俺はふと、あるものを目にして、驚く。それは街の真ん中にある広場に生えていた、大きな桜の木だった。俺とサヤが祝言を挙げた場所だ……残っていたんだな……。流石に今は冬なので、花は咲いていないが、今でも立派に生えているみたいだ。


「ザンキ……どうしたの?」


 ツバキは桜を指差して、俺に尋ねる。俺はツバキの頭を軽く撫でて、


「俺とサヤは、ここで祝言を挙げたんだ。……あの桜の木の下で」


 と、ツバキに教えた。ツバキはジッと桜を見ている。しかし、本当に残っていることに驚きだな。確か、襲撃の際にこの辺りは火の海だったからな。焼けずに残っているのは、この木くらいだよな……。そう思い、辺りを見渡してみる。

 すると、木の下に、何かあった。近寄ってみてみると、御影石で出来た、何かの彫像と、その下には何か書いてある。


 何だろう、と思いそばに居た兵士に尋ねる。


「なあ、あんた。これは何だ?」

「あ、ハイ。こちらは七年前の襲撃の際に亡くなられた方々の慰霊碑となっております」


 兵士は俺にそう教えてくれた。……へえ、こんなのあるんだな。タカナリが作ったか?何か書いてあった箇所は襲撃の際に死んだ奴らの名前だという。見ると、確かに知った名前も多い。そして、サヤとカンナ、エンヤ、それに、エイシンの名前もあった。


 俺の名前は……無いか。まあ、俺が生きていると知れ渡った後に作られたものだからな。そりゃそうか……。

 俺はここで死んだ奴らに手を合わせて祈った。サヤの真似のつもりだが、うまいこと祈りがこいつらにも届いてくれると嬉しい……。


 ……その後、兵士に礼を言って、慰霊碑から離れる。ふと、見ると、ツバキはまだ桜の木をジッと見ていた。


「まだ、やっていたのか?」


 俺がツバキに声をかけると、ツバキは俺の方に視線を投げてきた。


「……サヤの約束……必ず……守る……そう誓っていた」


 ツバキはそう言って、俺に駆け寄り抱き着いてきた。


「……ザンキ……死なないで」


 俺はわずかに震えているツバキをぎゅっと抱き締めた。


「死なねえよ」


 一言そう言って、ツバキを放してやる。ツバキは俺の顔を見て、コクっと頷いた。


 ……生きて帰れたら、ここで花見だな。俺はそう思い、桜の木を見上げて、街の中をまた、歩き始める。


 ◇◇◇


 その後、街を歩くと、縁日の様に屋台が多く出ている通りに着く。射的や輪投げなど、娯楽もあるようだ。とりあえず、何か食うものを買って、ツバキとふらふら歩いていく。


「さあ! 次の挑戦者は誰だ!」


 何やら威勢のいい声が聞こえてくる。声のする方を見ると、何やら人だかりができている。近づいてみると、的と、大きな丸太が横たわっていた。


「なあ、これは何をやってるんだ?」


 一先ず、そばに居た男に聞いてみた。男が言うには、クナイを三本投げて的に当たれば、当たった箇所によって得点が入り、得点によって景品がもらえるというものである。

 もう一つの丸太の方は、制限時間内に斬ることが出来れば、景品がもらえるという話だった。


 面白そうだな……。俺はそう思い、出し物を仕切っているふうの奴に声をかける。


「あ~……挑戦したいんだが……」

「お! 今、名乗り出たそこのあんちゃん! どっちをやるかい!?」


 男は威勢よく俺にそう尋ねてくる。う~む……どちらか、と言えばどちらにしようか。正直、クナイを投げるのは苦手だからな。丸太の方でも挑戦してみるかな……。なんて、思っていると、ツバキが的の前に出た。


「あれ? ツバキ?」

「こっちは……私……」


 キョトンとする俺にツバキはそう言った。それを見て、仕切ってる男が声を上げる。


「お~っと! なんと、次の挑戦者は年端も行かない可憐な少女だ! 嬢ちゃん、本当にやる気か!?」


 男の問いかけにツバキはコクっと頷く。


「嬢ちゃんはやる気だ~! お父さんの前で、頑張りたい娘の姿! なんと健気な! 私、泣きそうです!

 しかし! こちらも商売! 失敗すれば参加費と罰金としてお父さんの財布が泣くことになるが、果たして成功するのか!」


 男はそう言って、俺を差す。父親じゃねえし……。というか、罰金? 聞いてねえって。ふと、財布の中身を確認する。……大丈夫だと……思う。くそッ……さっき屋台で金使いすぎたな。最悪、タツイエに事情を説明して借りよう……。


「さあ! では、嬢ちゃんの挑戦! 始め!」


 俺が財布の中身を確認していると、仕切ってる男がそう叫んで、急にツバキの挑戦が始まる。ちなみに、観衆の目は冷ややかだ。うっすら笑ってるやつも居れば、俺に同情するような視線を投げかけている奴も居る、女性陣の中には、ツバキを微笑まし気に見ていたりと、その表情は十人十色だ。


 そんなことを思っていると、ツバキはクナイを構える。ジッと、的を見据え、手を上げる。


「……ッ!」


 カンッ!


 ツバキはシュッとクナイを投げた。クナイは的の真ん中に突き刺さる。


「……え?」


 ふと、誰かが呟く。先ほどまで様々な表情をしていた観衆の表情が一つになった。皆目を見開き、ツバキを見ている。ツバキはそんな目で見られていることもお構いなしに、クナイを、シュッシュッと投げた。残り二本のクナイも的の真ん中の円の中に刺さる。


 群衆たち、特に、仕切っている男は口をあんぐりと開けたまま動かない。


「……結果は?」


 そんな男に、ツバキはそう尋ねる。しばらくすると、周りから、拍手喝采がツバキに贈られた。その声にピクッとした男は、ツバキを差して、大きな声で、


「な、なんとなんと! 満点です! 反乱軍の兵士たちでも為せなかった偉業をこちらの少女がやり遂げました~! 私、いま、本当に泣きそうです!」


 男はそう言って、裏から、何やら大きな箱を持ってくる。


「では、こちらが景品! 桃大福百個です! ……いやあ~、まさか私がこの景品を渡す役目になるとは思わなかったです!」


 そう言って、ツバキにその箱を渡す。ツバキは重そうにそれを受け取ると、俺の前まで来る。


「……余裕」


 ツバキはそう言って、箱をそばに置いた。今考えたら、こいつの腕を以てしたらこれくらい出来て当たり前だったな。財布の中身を心配することもなかったか……。俺はそう思ってツバキの頭を撫でる。ツバキは嬉しそうにして、箱の中から桃大福を一つ取り出して、俺に差し出す。


「ん? くれるのか?」

「次の……腹ごしらえ……」


 ツバキは丸太を指差して、そう言った。さっきまで屋台の飯食ってるんだけどな……。まあ、良いや。ツバキの優しさが嬉しい。

 俺はそう思い、ツバキから、大福を受け取る。にしてもこの時期に、この量の桃大福か。どこから手に入れたんだろうか。保存が難しいらしいからな。桃自体は何とかなるから、砂糖漬けにでもしておいたのを使っているのかもな。まあ、食えるなら良いか。


「ありがとう、ツバキ。では、頂くと……ん?」


 桃大福を口にしようとしたときに、違和感に気付く。これって……。疑惑を確かめるためにとりあえず口に入れてみる。


 ……やっぱりか。と言うことは……あの野郎……。


 思わず、ため息が出る。


「はあ……」

「どうしたの? ……美味しく……無い?」


 俺がため息をつくと、ツバキは心配そうに俺を覗きこむ。ツバキの優しさは嬉しいが、それさえも無下にされたようで若干腹立つな。


「いや……。ツバキ、俺が良いって言うまで、この大福は食べるな、出すな、見るな……良いな?」


 俺がツバキにそう言うと、ツバキは首を傾げて、不思議そうにするが、コクっと頷き、俺の指示に従った。


 さて、と……。


 俺は、仕切っている男に手を上げる。


「じゃあ、そろそろ、俺も始めて良いか?」


 俺は笑顔で、男にそう尋ねた。男はパッとこちらを向き、手をこすり合わせながら口を開く。


「もちろんです! 先ほどのお嬢様のお父様! こちらも準備は整っております! 親子で景品を持ち帰って、家族の自慢話といきましょう!」


 男は未だに俺とツバキが親子だと思って、上機嫌にそう言ってくる。男の正体に半ば気付いているだけに、すごくイラつくが、抑えようか。


 さて、俺は丸太を斬るんだったな……。俺は丸太の前に立つ。すると、周りからヤジが聞こえてくる。


「おいおい、娘の前で恥かきたくなかったらやめとけって」

「そうだそうだ! この街一番の木こりも、兵士の中で一番の力持ちも出来なかったんだからな~!」


 などと、嘲笑にも似た声が聞こえてくる。普段なら、イラっと来るところだが、俺は群衆の言葉を聞き、ああ、やっぱりと、呆れるような、同情するような気持ちでいた。


 ふと見ると、丸太のそばには斧が立てかけられていた。俺はそれを手に取り、ジッと見る。斧の、刃の部分から背にかけてすごく細いが、よ~く見ると、細い線が入っている。


 ……ああ、なるほど……


 そして、目の前の丸太も見てみる。……あ、これは普通の丸……ん?


 ……こっちもかい……芸が細かいな……


 さて、どうしようかな、と思い、男に尋ねる。


「なあ、これってこの斧使わないと駄目なのか?」

「いえ! ご自身のものを使っても構いませんが、この丸太は固いですよ~! もし刃こぼれや破損があっても、私共の方からは修繕費等々は出しません! お客様ご自身で何とかしてください! そうなったら修繕費、及び挑戦失敗として、参加料割増しとなりますがね! フフフ!」

「……そうか、分かった!」


 取りあえず、斧は使わなくても良いってことだけ伝わったので俺は斧を捨て、無間を抜いた。


「じゃあ、そろそろ行くぜ!」

「おおっと! お父様が取り出したのは何と大きな刀でしょうか! これならいけるかもしれません! では、お父様の挑戦、どうぞ!」


 男はそう言って、群衆に俺を差す。なおも冷ややかな嘲笑を浴びせる観衆たちの前で、俺は無間を振り上げる。すると、ここで後ろからひそひそと話す声が聞こえてくる。


「あれ……あの刀……恰好……見たことが……」

「お、おい……あれって……」

「あ、ああ……間違いない……なんでここに……」

「そう言えば、昨日、この街に入ったって……」

「え、じゃあ……本物の……“死神”……」


 などと、聞こえてくる。それらに耳を傾けていた、店の男だったが、「死神」と、あと俺の名前が聞こえると、ハッとした様子でこちらを向くのが視界に入った。


「お、お客様……? ま、まさか……」


 何やらぶつぶつ言っているが、気にしない。俺は振り上げた無間に力を込め、息を大きく吸う。すると、男は何やらあたふたと慌て始め、俺に駆け寄ってくる。


「お、お待ちを!……ザン――」

「オラアアアアッッッ!!!」


 俺は男を無視し、無間を丸太に向けて思いっきり振り下ろした。俺の雄たけびの迫力に気圧され、男はひぃっ! と短く悲鳴を上げて、その場にしりもちをつく。



 バキンッッッ!!!



 そして、無間が丸太に当たると、大きな音がして、大きな丸太が半分になり、ドスンっと音を立てて、その場に落ちた。


「……ふぅ~、斬れたな……」


 俺は息を大きく吐いて、無間を担ぐ。一応、無間を確認する。……うん。刃こぼれは無い……じゃねえよ! 無間の耐久性どれだけなんだよ! エンヤの奴、どこでこんな刀手に入れたんだよ……。


 そんなことを思っていると、ポカンとした様子でそれを見ていた群衆から声が聞こえてくる。


「き、斬りやがった! しかも一撃で!」

「ああ、すげえな! やはり本物か!」

「間違いないみたいだ! ……だが、なんだ、今の音は?」

「ええ、木を斬った音には聞こえなかったけど……」


 群衆から、そんな声が聞こえて来たので、丸太を蹴り上げ、群衆に斬った断面を見せる。群衆は丸太をみてあっと驚いた。


「ご覧の通りだ。これは一見丸太に見えるが、実は芯の所は太い鋼鉄の棒が入っている。おそらく、この棒の周りに、木の周りの部分を貼ったんだろうな」


 俺がそう皆に説明すると、何人かが俺に不思議そうな目をしてくる。


「な、何故気づかれたのでしょうか?」

「丸太をよく見てみたら、細い線が見えた。おそらく木を貼り付けた時に出来たものだな。……あ、ちなみに、斧にも線は入っている。これは……」


 俺は斧を手に取り、丸太に思いっきり打ち付ける。すると、斧は線の所から分かれて、真っ二つになった。


「……と言うわけだな。力を込めて振れば折れるようになっていたみたいだ」

「で、では……この挑戦って……」

「元から不可能だろう」

「し、しかし、仮に……」

「俺みたいに斬れる奴が居たらってか? その場合、そいつの武器はこの鉄棒でダメになるだろうな。その場合はさっき、こいつが言ったように、参加費上乗せで払う羽目になる。皆はそれが嫌で、斧で挑戦していたんだろ?」

「ということは……」


 俺は、群衆の質問に答える前に、逃げようとする男に無間を向ける。男はひゃあ! とまた短い悲鳴をして、その場で固まる。


「詐欺だろ……こいつ」


 俺がそう言うと、皆はぽかんとしている。すると、またしても群衆の中から手を上げるものが居た。今度は女だな。


「あ、あの~……」

「ん? 何だ?」

「ザンキ様の娘さんの――」

「娘じゃない! 仲間のツバキだ!」

「ひい! すみません! ツバキ様の桃大福はどうなんでしょうか? 仮にその男が詐欺師にしても、今の時期の桃大福はかなり高価なものです。得をしているようには思えませんが……」


 女がそう言うと、固まっている男が震えながら口を開く。


「そ、そうだぞ! そ、そ、そんな損ばかりする詐欺師がどこへ居るというんだ! あ、あの桃大福を用意するのにあの、丸太の仕掛けが――」

「じゃあ、丸太のからくりは認めるんだな?」


 男が丸太のことについて言いかけた途端、俺は男の言葉を遮り、尋ねた。男はハッとして口をおさえながら、目を泳がせている。


「丸太のからくりは……認めるんだな?」


 ―死神の鬼迫―


「……!!! は、はい! 認めます! あれで、皆さまを騙していました!

 しかし! そうでもしないと、この時期に桃大福なんてとても……! ですから……!」


 俺が殺気をぶつけると、男は涙目になりながらそう言ってきた。案外、あっさり認めたな。死神の鬼迫は尋問にも使えそうだな……と、今はどうでも良いか……。


 俺は男の言葉を聞いて、うんうんと頷く。


「なるほど、なるほど。確かにこの時期の桃大福は高価だ。桃を乾燥させたものを、わざわざ桃の果汁を使って戻すんだからな。もしくは、蜜漬けにしたものを使うか、桃の酒を使うかしないといけない。桃大福一つにどれだけ桃を使うんだってことになるくらいだからな。確かに割高になる。お前の言い分は正しいな」

「そ、そうでしょう!? ですから私は――」

「では、試そう。ツバキ! 良いぞ! その桃大福を食ってみろ! あと、さっき俺に質問してきた女もそれ以外も気になるなら食ってみろ!」


 俺はツバキと周りの群衆たちにそう言った。男はその横で、あっと言う顔をしている。男はツバキに言ったな。帰って家族の自慢話にすると良いって。つまり、この場で食べられるのが嫌なんだな。そりゃそうだ。すぐばれる嘘をついても駄目だからな……。


 さて、群衆に目を向けると、俺に質問をしてきた女と我も我もと集まった奴らが、ツバキに寄っていき、箱に手を伸ばそうとしている。だが、ツバキは少し嫌そうな顔をして箱の前に立つ。


「ん? どうした? ツバキ」

「私と……ザンキ……二人で……分ける……私が……手に入れた」


 ツバキがそう言うと、周りの人間が困ったように俺を見た。いや、そんな目で見るなって。俺も困っているんだから。そういや、こないだこいつに食わせてから、ツバキの大好物になったんだよな。時々どこで手に入れたのか、家で食べているのを見かけていたが。そんなに独り占めしたいのか……。


「……はあ。仕方ない。じゃ、最初にツバキだけが食ってくれ。俺さっき食ったから、ツバキも一個だ。その後、それをどうするか考えろ……」


 俺がそう言うと、ツバキはしばらく考え込み、桃大福を一つ手に取り、パクっと一口で食べた。勢いが良いな。そんなに好きなのか……。何となく、謝っておく。そして、ツバキはもぐもぐと口を動かす。


「……?」


 ……お、異変に気付いたな。顔色が変わっていってる。最初は不思議そうな顔で、段々と眉間に皺が寄っていってるな。あ、俯いた。……だよな。


 すると、ツバキはしばらく黙り込み何かを考え始める。すると、箱の中に手を入れて、何個か桃大福を取り出し、周りの人間に分けていく……


「……あげる」

「よ、よろしいのですか?」

「あ、ありがとうございます!」

「おお、俺にもか! すまねえな!」

「お、かわいらしいお嬢さんだな! 俺にもくれるって? ありがとな!」


 などと、ツバキから大福を受け取り、群衆たちは嬉しそうにしている。あんな美少女からもの受け取ったら誰だって嬉しいよな。だが、一応釘を刺しておく。


「お前ら、この先何が起きてもツバキを恨むなよ」


 俺がそう言うと、群衆たちは何言ってんだ? という目で俺を見てくる。……まあ、すぐに分かるから俺は特に何も言わない。ただ、一応、心の中で皆にも謝っておいた。

 さて、と。ある程度行きわたったな。俺の隣で、やめて欲しい! とか食べるな! とかわめいている男をとりあえず殴って黙らせると、俺は皆に号令をかける。


「よ~し! それじゃあ、食ってみろ!」


 俺がそう言うと、皆、桃大福をパクっと口に入れた。


「「「「「……?」」」」」


 ……お、またしても群衆の表情が一つになる。ツバキと全く一緒だな。最初不思議そうな顔をして、眉間に皺が寄っていく。あ、俯いた……そうだろ?。


 俺が思わず苦笑していると、ツバキが鎖鎌を手にして前に出てくる。あ、怒ってんな……。ツバキはシュッと男の目の前に鎌を投げおろし、キッと男を睨んだ。


「あれ……何……?」


 ツバキの問いかけに、男は口をパクパクとさせて、喋ることが出来ないみたいだ。俺は肩をすくめて、ツバキたちの方を見る。


「あー……みんな食ったな? 美味かった――」

「……不味い!」

「……だよな、ツバキ。あれはな、小麦を水などで練って焼いたやつに桃の果汁を吸わせてそれを包んだものだ。桃が不作の時分にはそうやって代用品を作っていたんだが、取りあえず不味いんだ。

 口の中はもちゃもちゃというか、ねばねばというか……でな。まあ、材料はすぐ手に入るし、一気に作れる分そこまで高価なものではないな」


 俺がそう言うと、群衆たちはパッと男の方を見る。男は口をパクパクとさせて、後ずさる。つまり、この男、景品というのも安価なものを用意し、万が一達成する者が現れても何とごまかせるように仕組んでいたのだ。

 的当ては丸太を切るものと違って、難易度は低いからな。そして、あれだけうやうやしく景品を渡せば、丸太の方はもっとすごい景品に違いないと思って、人々はどんどん挑戦するようになる。丸太の方は先ほども言ったように、そう簡単には成功しない。すると、男の方には金しか行かないようになる、という仕掛けだな。


 男の方を見ていた群衆は、ゆっくりと男を睨みつけながら寄っていく。中には手をパキポキと鳴らしながら、にじり寄る者、手に棍棒を持っている者など様々居る。男は腰を抜かし動けず、ただただその場で悲鳴を上げていた。


「ひ、ひいいいぃぃぃ~~~!!!」

「「「「金返せ!!!」」」


 群衆たちは寄ってたかって、怯える男に群がっていく。男はたまらず逃げ出すが、すぐにつかまり、ボコボコにされていく……。


「……さて、俺達は帰るか」


 俺は男が皆に必死に謝っているところを尻目に、ツバキが貰った桃大福もどきの入った箱を手に取り、城の方に向かおうとする。


「ん……ザンキ……それ……不味い……捨てないの?」


 ツバキは不思議そうな顔をして、俺に聞いてくる。まあ、確かにこのままだと不味いからな。持って帰ったところでただのゴミになるだろうが、俺には秘策がある。


「ああ、こいつはこのまま食ったら不味いが、いったん乾燥させて焼いて食ったら美味いんだ。サクッとして、桃の香りが鼻から抜けていく感じがしてな。後は蒸しても美味い。帰って作ってやるよ」


 俺がそう言うと、ツバキは目を見開き、表情を明るくさせる。無表情だが、機嫌がよくなっていくのが分かる。

 そして、俺の持っていた箱のうち何個かをスッととって、城へと歩き出していく。やれやれ、機嫌がよくなって良かったな。


 おお、男が皆に金を返しているのが見える。まあ、足りなくても最悪あの丸太にみせた鉄棒をつぶしたらそれなりの金にはなるかな。

 更に言えば、この桃大福もどきを焼けば普通に商売も出来ただろうに。この辺の奴じゃなかったのかなあ、とか、ひょっとしたら玄李の奴か? とか思いつつ、俺も城へと帰っていった。


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