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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
“死神斬鬼”を語る
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第90話 ムソウの過去―皆に一芸を披露する―

 しばらくして、晩飯を食い終わった後は、皆風呂に入っていたりしていた。ナツメは飯を作ってくれたので、食器の後片付けは俺がやることにした。

 その後、俺はたらいにあったデカい氷を手に取り、小刀で削る。今日は割と残暑も厳しいので、かき氷でも作ろうと思っていた。氷にかけるものも晩飯前に用意しておいた。

 貰った桃を砂糖と一緒に煮詰めたものだ。先ほど、冷やしておいたのものを手にとると充分冷めていることを確認した。うん、大丈夫だ。


 そして、削った氷を器に盛り、煮詰めたものをかける。そして、同じく冷やしておいたスイカと桃、桃大福を分けて器に盛り、さらに冷やしておいた酒を盆に載せていく。

 あ、そうだ、と思い、今日村で貰った、干した魚と、キュウリの漬物を取り出し、皿に載せた。つまみに良いかな。


 さて、と、皆の所に運ぶか……と思ったのだが、量が多いか? どうしよう、と思っていたところに、トウヤが来る。


「あ、ザンキ様……手伝いましょうか?」

「ん? ……ああ、頼む」


 俺はトウヤにお盆を持たせて、皆の所に向かった。すでに皆風呂から上がり、それぞれで涼んでいる。


「ほら、かき氷作っといたぞ。それから、ハルマサ、先ほど言った冷えた酒もつまみもあるからな。長旅、ごくろうさん」


 俺はそう言って、皆にかき氷と果物を渡していき、ハルマサとタカナリには酒とつまみを渡しておいた。


「お、すまないな、ザンキ」

「かたじけない」


 タカナリとハルマサはそう言って、俺に一礼する。


「かき氷!? 飯前に作っていたのはこれか~!」

「ありがとうございます」

「……ありがと」


 アキラ、ナツメ、ツバキもそう言って、かき氷を受け取った。それを見て、俺とトウヤは一息つく。


「では、俺達も食べようか」

「そうですね、ザンキ様」


 トウヤは縁側に座り、かき氷を食べて始めた。俺はすこし、微妙な顔をしてトウヤの横に座り、かき氷を食べた。久しぶりに作ったが、桃の甘露煮は上手くできたみたいだな。

 砂糖を使ってやるのは初めてだったが、失敗しないで良かった。普段は蜂蜜でやっていたからな……。というか、砂糖もかなり高いものだろう。香辛料といい、ここの資金問題ってどうなっているんだ?


「このかき氷、おいしいです、ザンキ様……」


 俺が一人で悩んでいると、隣でトウヤがそう言ってくる。トウヤはおいしそうに俺の作ったかき氷を食べているが、俺は、少し悩んでトウヤに口を開いた。


「……なあ、トウヤ」

「はい、ザンキ様」

「その……ザンキ“様”っていうのやめてくれないか? ……何か、むず痒いんだ」


 俺はトウヤにそう言った。前から「様」付けで呼ばれるのは、なんと言うか、変な気持ちになって嫌だった。


「ですが……昔からザンキ様のことはザンキ様と呼んでおりましたし……」


 トウヤは困ったようにそう言ってくる。先ほどの俺への印象ではないが、安備の住民は俺に対して本当、どういう印象を持っているのかいささか気になってくる。


「……お前の親父さんは「ザンキ殿」と呼んでいたぞ? それに、俺達はもう仲間だ。仲間内で序列なんぞ気にするな」


 トウヤにそう言うと、トウヤはう~ん、と考えている。こいつの親父……トウキだったか? あいつはなんと言うか、他の皆が俺のことを敬っている中、くだけた感じで接してくれたからな。正直、俺もその方が嬉しかったし、カンナの小太刀についても気兼ねなく相談することが出来た。出来ればトウヤにもそう言う感じに接して欲しいな。

 今は、何と言うか、距離を置かれているみたいで嫌だった。……まあ、少し前まで、距離を置いていたのは俺の方だけどな……。


「……分かりました。では、これからは「ザンキさん」って呼ぶように努力します」


 トウヤは、しばらく考え込んだ後、顔を上げて俺にそう言った。俺は、おう、と頷き、かき氷を食い始める。トウヤはそれを見て、安心したのか、フフッと笑って、俺の横でかき氷を食い始めた。


「なあ~……ザンキ~!」


 ふと、俺を呼ぶ声が聞こえる。見ると、顔を赤くしたハルマサとナツメが俺のすぐ後ろまで来ていた。……ああ、そういや、こいつらって酒に弱かったな。もう酔ったのか? そんな気持ちになり、タカナリの方を見ると、すまない! と言う目で俺と、トウヤを見ていた。俺達はため息をつき、二人を見る。


「どうしたんだ? 二人とも」

「ナツメと話してたんだけどよ~」

「ザンキさんってえ~、何か特技とかあるんですかあ~」


 俺の問いに、二人は舌ったらずな口調でそう答えた。特技? 何だ急に。そう思い、不思議そうな顔をすると、ハルマサが、口を開く


「いや、俺達って~、金ない時は~、街に出て~、旅芸人の~――」

「鬱陶しい話し方すんな! ……トウヤ、説明してくれ」


 喋り方がいちいち腹立ったので、ハルマサの説明を遮り、トウヤに説明を求めた。トウヤは、はい、と頷き、口を開く。横でハルマサがブスッとしてるが、無視だ、無視。


「この反乱軍は基本的には庇護下に置いた村々から金子を受け取って活動しているのですが、それには限りがあります。

 そこで、各部隊とも何らかの方法で資金集めをしているのです。例えば、野菜を作って街で売ったり、興那の国付近では海が近いので干物にしてからこの安備の街で売ったりと。

 それで、この部隊では情報収集も兼ねて旅芸人の振りをして、街に出てお金を集めているのです」


 トウヤは俺にそう説明した。なるほど……ここの資金事情が分かった。とりあえず武器や日常で使うものに関しては村々からの援助で賄い、それ以外で、部隊で必要なものを得るために、それぞれで金を集めているということか。

 それで、この部隊では旅芸人と。確かに、見世物小屋に居たツバキも居るし、そうした方が良いな。


「……で、皆は何をしているんだ?」

「はい。僕は、街の皆が家で使っている包丁や鍋の修復などをしています。それから、アキラさんは動物を使った芸を。アキラさんの猿まわしってすごいんですよ」


 トウヤがそう言うと、アキラはこちらを向いてニカっと笑った。ああ、偶に連れている猿のことか。戦のときも門番の数などを、果物を使って伝えたりといろいろ仕込んでいるようだが、そんな時にも役に立つんだな。


「他は?」

「ハルマサさんは基本的に客引きです。口は上手いので……」

「こらっ! 口「は」とはなんだッ! 闘いの時は役に立っているから良いじゃねえか!」


 ハルマサはそう言ってプイッとあさっての方を向いた。闘いの時も役に立っているかどうかは微妙だぞ。基本的に俺が殲滅し、ツバキが援護をしてくれる。ハルマサは……なんと言うか、残った敵の排除くらいだよな……。


「それで、ナツメは?」

「ナツメさんは……お酌をしてます」


 トウヤは微妙な表情でそう言った。ああ、何となく想像は出来る。ただ、それって……


「こうやります~」


 俺がナツメの酌について考えていると、ナツメは酔っぱらって俺の横に座り、グイっと腕を引っ張る。そして、体を……というか胸を俺に押し付けながら、耳元でささやく。


「ザンキさんの~、秘密~、知りたいわあ~」


 ナツメはそう言って、ふう、と俺の耳に息を当ててくる。……酒臭えな。それから予想が当たった。ただの諜報活動じゃねえか。

 なんでもナツメは芸に集まった男どもをカモにして、酒を飲ませ、そこら一帯の情報を聞き出すついでに、酌しながら金を巻き上げているらしい。ちなみに、本人は酒に弱いので、その時は飲まないという。……当たり前だ。こんな状態でそんなことしてみろ。聞き出した情報全部忘れているよ。


 俺はナツメを引き剥がし、トウヤに聞いた。


「んで、そのためにも、俺も何かした方が良いのか?」

「そうですね……。もしも、ザンキさんがハルマサさんやツバキさんと諜報や斥候で街に出るとき、何とか旅芸人だとごまかせるようになにか出来た方が良いかもしれません」


 トウヤは考えながら、俺にそう言ってきた。なるほどな。バレそうになったらごまかせるように、と言うことか。しかし、何か出来たっけな……。武器術を使った芸なら練習すれば何とかなるかもしれないが、ツバキが居るからその必要もないし……。


 う~ん、と考えていると、ふと、タカナリがこちらに来て俺に言った。


「何か一芸を、と考えるな。特技でも何でもいい。それで金子につながるのであれば簡単なことで良い」


 タカナリがそう言うと、じゃあ……と思い、俺は土間に行き、一本の薪を手に取った。そして、縁側から外に出る。


「む? ザンキ殿、何かできるのか?」


 タカナリは不思議そうに俺に聞いてくる。


「ああ、ちょっとな……ツバキ、クナイを借りれるか?」


 俺がツバキにそう頼むと、ツバキはコクっと頷いて、懐からクナイを取り出し、俺の方に投げた。……なんで、今持ってんだよ。で、何で、俺に投げるんだよ。普通に渡してくれよ……。まあ、良い。


「……芸ってわけじゃないんだが、昔、カンナにやって喜ばれたやつがあるからやってみる」


 俺はそう言って、不思議そうな顔をする皆の前で薪を宙に投げ、そのままクナイを振り、空中で薪を削っていく。


 シュッシュ……と薪はその場で落ちずに削れていく。皆は口を大きく開けて俺がどんどん木を彫っていくのを眺めていた。


 そして、しばらくクナイを振るい、俺の足元に削りかすが溜まってきたころ、クナイを振って薪だったものを高く上げる。そして、そのまま手に取った。


「うん……出来た。名付けて、空中早彫りだ」


 俺は出来栄えを確認して、皆にそう言った。しばらくすると、皆の方から拍手が聞こえた。


「おお~、やるなあ!」

「ええ、見事なものです」

「……すごい」

「どうやったんだ? それ!」

「ザンキさん! 感動しました!」


 皆は口々にそう言って俺を褒めた。珍しくツバキがよく驚いているようだ。目を見開き瞬きもせず、俺のことをジッと見ている。そんな中、タカナリが俺に近づいてきた。


「ふむ……いや、見事だったな、ザンキ殿……して、何を彫ったのじゃ?」

「ああ、これだ」


 タカナリが、俺が彫ったものをみせてくれと言ってきたので俺は手の中にあるものを見せた。すると、タカナリの目がどんどん開いていき、震える口調で俺に言った。


「な、なんじゃ!? エンヤじゃないか! ザンキ殿! どうしてこのようなものを!」


 後ずさりながらそう叫ぶタカナリ。そう、俺が彫っていたのは無間を構え、今にも振り下ろしそうな、凄まじい形相の頭領だった。前よりもいい出来だが、うろたえるタカナリに俺は不思議そうな顔で言い返す。


「何驚いてんだ? 昔、カンナにこれをやったらひどく喜んでくれてな。……駄目だったか?」

「い、いや、駄目とは言わないが……」

「この芸を見せるのに金をとり、彫ったものを渡すことでまた、金を受け取る。……これではダメかな?」

「いや、大丈夫じゃが……ザンキ殿、仮にエンヤの彫り物を売るとして、どういった宣伝文句をつける気じゃ?」

「決まってんだろ。“魔除けの闘神、全ての不幸を叩っ切ります”だな」

「何を言う! エンヤの像など、魔も運も全部逃げていくぞ!」


 タカナリはほとんど怒気を含めて俺にそう言ってくる。なんか、昔のエイシンみたいだな。ちなみに、俺が、魔が逃げるならいいじゃねえか、と言ったら、冗談じゃない! とやはりあいつのようなことをタカナリは言ってそっぽを向く。

 他の皆は、ハルマサはともかく、エンヤを見たことが無かった奴らは、彫像から出さえ感じられるあいつの気迫に唖然としていた。だが、俺がコイツに育てられたと言うと、納得といった感じに頷く。

 何となく腑に落ちないが、やはり、無間はエンヤに似合うなあと笑った。ハルマサ曰く、安備の人間なら、多分買うだろうと喜んでいる。ただ、小さい子供を持つ親などは、買わないかも知れないと笑っていた。曰く、子供が泣いてしまうとのことで、妙に納得する。


「あ~……分かったよ。売り物として出すならまた、別のものを考えるよ。……ただ、この彫像は捨てるには勿体ない。……タカナリなら、貰ってくれるな?」


 俺はタカナリにそう言って、にこりと笑う。タカナリは何となく嫌そうだが、最終的にその彫像を受け取った。タカナリは手にしたエンヤの彫像を最初は微妙そうな顔をして眺めていたが、しばらくすると、エンヤの顔を見て、フッと笑った。

 そんな光景を見て、俺や皆が笑うと、タカナリは恥ずかしそうにして、慌てながら、彫像を懐にしまう。


 その後、いつの間にか寝だしたハルマサとナツメをそれぞれの部屋へと連れて行き、俺達も自分の部屋へと戻り、布団をかぶった。だが、背後に人の気配がして、目を開けると、ツバキが居た。

 ツバキはいつも通り、無表情の無言で俺を見つめている。俺はため息を一つ吐き、横に布団を敷いて、いつも通り、俺の横にツバキを寝かせた。


 ツバキは疲れていたのか、すぐにすーすーと寝息をたてはじめる。俺が買ってやったかんざしをぎゅっと握りしめて。俺は嬉しい気持ちになり、ツバキの頭を撫でて、俺も寝た。



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