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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
“死神斬鬼”を語る
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第86話 ムソウの過去―皆で飯を食う―

「あら、二人とも、すでにそういう関係だったのですね」


 突然部屋の入口の方から声が聞こえた。振り返るとそこにはナツメがニヤニヤしながら俺達を見ていた。俺は慌てて、


「い、いや! 違うぞ! ……これはだな……」


 と言って、ツバキを放そうとしたが、ツバキがヒシっと俺の背中を掴んだままだ。


「お、おい、ツバキ! 離れろって」

「ザンキから……抱きしめた……もう少しだけ……」


 ツバキはそう言って、俺の胸に顔を埋める。そんな俺達を見て、ナツメはさらににやける。


「あ、そうだわ、今日の晩御飯に赤飯を用意しておくべきだったわね……」

「違うって言ってんだろ! そんなんじゃ……」


 俺がそう言うと、ナツメはニコッと笑い、俺達に近づいてくる。


「冗談ですよ。晩御飯の支度が終わったので呼びに来たついでに、体の具合を確かめに着ました。ほら、ツバキちゃん、ザンキさんから離れてね」


 ナツメはそう言って、ツバキを俺から離してくれる。ツバキは、むーとか言いながらそれに従った。この女、楽しんでやがったな……。俺もサヤによくからかわれていたが、こういうからかわれ方は初めてなので若干ナツメに怒りを感じたが、真剣に俺の傷を診てくれる目をみて、その気も失せた。


「……はい、傷自体は塞がってるみたいですね。さっきも驚きましたが、すごい治癒力です」

「そりゃ、どうも……ただ、まだ時々痛むんだが……」

「あれだけ斬られたら流石にそうでしょうね……それで、どうします?立って歩くのが難しいようでしたら、ここにお食事をお持ちしますが……」


 俺は手をついて、立ち上がろうとした。だが、上手く体が動かない。


「……ああ、駄目だな。足にうまいこと力が入らない……」

「わかりました。では、ここにお食事をお持ちいたしますので……ツバキちゃんはどうする?ここで、ザンキさんと食べる?」

「うん……ザンキと一緒が良い……」

「わかったわ。では、お二人とも、もう少しお待ちくださいね」


 ナツメはそう言って、部屋を出ていった。しかし、参ったな。これだけ体を動かさないとこうも力が入りづらくなるものなのか……。もう少し痛みが引いたら、歩く練習とかもしておくか……。


 そう思い、一応立ち上がろうとしてみる。やっぱり少々力を入れないと駄目だな……。フラフラだ。歩けないことはないが……。


 と、ふとここで俺はフラフラと部屋の外に出ようとする。厠に行きたくなった。


「ん……ザンキ……ついていく……」


 ツバキはそう言って、俺についてこようとする。


「厠だ! 頼むからついてこないでくれ!」


 俺がそう言うと、ツバキはガクッと項垂れる。そんなに辛いことなのか? 少しかわいそうなことを……いやいや、俺も言いたいことはきちんと言わねえと、こいつの為にもならねえ。俺は心を鬼にして、ツバキに言った。


「ツバキ、俺は俺のことを思ってくれる人間は好きだが、節操のない奴は嫌いだぞ?」


 俺がそう言うと、ツバキはハッとして顔を上げて俺の方を見た。そして、コクっと頷く。分かってくれたか……。俺はツバキの頭を撫でて、そのまま厠へと向かった。ふと、後ろからツバキの声が聞こえる。


「ザンキ……節操……ない」


 ……俺は取りあえずツバキの言葉を無視して、厠へと向かった。


 厠から出て部屋へと戻っていくと、何やらがやがやと声が聞こえてくる。何ごとかと部屋の中を覗くと、ハルマサ、ナツメ、アキラ、トウヤ、ツバキ、タカナリが食膳を持ってきて、飯を食っている。


「……なにやってんだ?」


 俺が口を開くと、ハルマサが俺を見て、口をもごもごさせながらしゃべり出す。


「お~、ようやく帰って来たか。厠行くのも一苦労だな!」

「いや、それはいいが、何やってんだと聞いてんだが……」

「お前も元気になったことだし、今日くらいは皆で飯を食いたいなと思ってな」


 ハルマサがそう言うと、皆もこちらを見て頷いている。俺はため息を一つつき、俺の為にと出された食膳の前に座る。


「じゃあ、俺もそうするか……」

「あ、ザンキさん、まずは汁物から飲んで、それから固形のものを食べてくださいね」


 ナツメはそう言って、椀に汁を掬って俺に渡してきた。俺はそれを受け取り、ずずっとゆっくりすすった。ああ、美味いな……。ただの汁なのに腹の底から美味いと感じてしまう。あまりの美味さに俺がうっとりとしていると、それを見たタカナリが笑い出した。


「まるで老人のようだな!」

「……あんたには言われたくないんだが……まあ、良い」


 タカナリにそう言ってやると、皆は笑った。そして、飯を食おうと思っていると、ツバキが箸で煮物をつまみ、俺に向けてくる。ツバキの行動の意味が……いや意味は分かるのだが、理解はできなかったので、取りあえず聞いてみる。


「何の真似だ?」

「はい……あ~ん……」


 ……聞いちゃいねえ。節操ない奴は嫌いって俺言わなかったっけ? ツバキはなおも何か期待するような目で俺を見ている。仕方ない、と思い、ツバキの箸から煮物を食う。


「……どう?」

「ああ、美味いぞ……」


 それを黙ってみていたナツメも、箸でおかずをつまんで、俺に向けてきた。ナツメは何やらニヤニヤしている。……取りあえずナツメにも聞いてみた。


「何の真似だ?」

「私が作ったんですから……それにやはり、まだご自身で召し上がるのは難しいかと思いまして……」


 俺を気遣うような言葉を言いつつも、ナツメは悪戯っ子のような目で、俺を見ている。俺はそれをジッと見て、


「大丈夫だから、そういうことはアキラにでもやってやれよ」


 と言った。すると、アキラが身を乗り出す。アキラはなにかキラキラした目で俺を見ていた。


「いいのか!? じゃあ、遠慮なく……」


 アキラはそう言って、ナツメの箸から煮物をおいしそうに食べた。そして、嬉しそうに俺を見る。ナツメはぽかんとし、肩を下ろして自分の飯を食い始める。その際に、意地悪な人……と呟いた。知らんな。


「へへっ! じゃあ、俺も……」


 今度はハルマサが俺に箸を向けようとするが、


「あ゛?」


 俺はハルマサを睨みつけ、ハルマサの動きを止める。ハルマサは一瞬ぴくッとして、怯えるような目で俺を見た。そして、パクっと自分で飯を食い始めた。


「……怖かった……そこまで怒らなくても……」

「まあまあ、ハルマサさん。……あ、ザンキ様、こちらもおいしいですよ」


 怯えているハルマサをなだめつつ、トウヤが俺に焼き魚を皿ごと渡してきた。おう、と頷き、俺は皿を受け取る。流石だな、トウヤ。小さな時から俺を知っているあたり、俺のことはよくわかっているみたいだ。そう思い、焼き魚も食べてみる。……うん、美味い。ナツメの料理は美味いな。俺をからかうことなんてなければ、もう少し好感度は上なんだがな……。

 飯の方は食えないことは無い。だが、手にもあまり力が入らず、時々ぽろぽろとおかずをこぼしてしまう。その度に、ツバキは俺におかずを向けてくるが、飯を食べる練習だと言って、自分で食べることにしていた。

 ツバキの方も、今まで寝ずに俺の番をしていた割には、元気だ。だが、無理をしてはいけないと思い、今日は早めに寝ておけと言うと、ツバキはコクっと頷いた。

 飯を食っている最中は、いつものように、ハルマサとアキラが何か喋って、ナツメとトウヤがそれに反応し、タカナリとツバキは頷いている。今日からは、そこに俺が加わって、いつもよりも賑やかだ。

 皆で話しながら食べる飯はこうも美味いのかと、久しぶりに気付く。


「……む、そろそろ良いかの」


 しばらくすると、タカナリは部屋の中の棚に手を伸ばす。そこから酒瓶を取り出した。そして、盃を俺と自身の前に出す。


「さあ、ザンキ殿。久しぶりに、どうかの?」


 と言って、酒瓶を俺に向けた。酒か……。確かに当分飲んでいなかった気がする。あの日から、そんな余裕を感じていなかったからな。そんな気分にもなれなかったし……。

 色々あったが、新しい自分に生まれ変わると思って、飲んでみるというのも悪くないかも知れない。ただ……


「俺は良いが……」


 俺はナツメを見る。病み上がりでこんなもの呑んでいいものかと確認すると、ナツメはニコッと笑った。


「常人はダメですが、ザンキさんなら大丈夫でしょう。それに頭領と呑むのも久しぶりなのでは? 少しくらい羽目を外してもよろしいですよ……ということで、私も……」


 ナツメはそう言って、どこから出したのか、盃をタカナリに向ける。うむ、と言って、タカナリはナツメの持っている盃に酒を注ぐ。


 常人ならって……俺は異常なのか? それは……良いのか? あまり気にしないでおこうか……。


「お、じゃあ、俺も」


 と、今度はハルマサも盃を手にして、タカナリに向ける。


「う~む、この酒は酒精が強いからのう……まあ、今日は良いじゃろう」


 そう言ってタカナリはハルマサにも酒を与え、自分の盃にも注いだ後、俺の方にまた酒瓶を向けた。ちなみに、アキラ、トウヤ、ツバキの三人は酒が苦手らしい。三人に若干の罪悪感が沸いたが、まあ、いいかと思い、俺は盃をタカナリに向けた。

 タカナリは俺の盃に酒をトクトクトクと注いだ。


「……では、改めて、ザンキ殿が我らの仲間になってくれたことを祝い……」


 タカナリはそう言って、盃を俺に掲げてきた。皆も持っていた盃を俺に向ける


「……ああ、よろしくな」


 俺は皆と乾杯して、クッと酒を呑んだ。


「……ん?こいつは……」


 酒を呑んで俺は気づいた。この酒は……サヤが飲んでぶっ倒れたやつだな……。ちなみに俺達が初めて呑んだ酒でもある。もっとも、サヤはあの時のことが思い出されるらしく、酒を呑むときはチビッと恐る恐る呑むようになった。

 それも呑むのは一年に一回……俺とサヤが祝言を挙げた日だ。毎回毎回、今年は大丈夫と言って飲むのだけど、最終的には顔を真っ赤にして、笑ったり、泣いたり、怒ったりして、夜も更けたころにパタッと寝てしまい、俺がそれを寝室へと運んでいくのが通例化してしまったが。


 俺はフッと笑い、酒を呑んだ。……ああ、やっぱり美味いな……。これを飲むと色々思い出される。


「気に入ったかの? ザンキ殿」


 さっそく、顔を赤くしたタカナリがにこやかに俺にそう聞いてくる。


「気に入ってたさ、元々な……」


 俺がそう言うと、タカナリはそうか、と言って俺にさらに酒を注いでくれた。


 やはり、楽しいな。皆で飯食って、酒飲んで……。早いとこ傷を癒して、こいつらの助けにならねえと駄目だな……。


 その後、俺は飯を平らげ、その日は早めに寝た。俺の横ではツバキが寝ている。わざわざ布団を持ってきたのを見て、追い出す気も失せた。気持ちよさそうに寝ているツバキの頭を軽く撫でてやって、俺もそのまま眠った。








 ……ちなみにだが、本来は皆もここで寝たいと言っていたらしいのだが、酒乱となったハルマサとナツメを、ツバキと俺で止めて、トウヤとアキラがそれぞれの寝室へと運んでいき、うやむやになったのは別の話である。

 あいつらと呑む時は気を付けよう……。


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